ご主人様は過去よりも今に生きる!
「違約金は……サイラスの全てだ」
静まり返る部屋。
ヒロは恐る恐る、声を上げた。
「全てってなんだよ……金じゃないのか?」
アルヴァルトはクスッと笑う。
「金に必要以上の価値を持たせる……やはり君は表の人間だな」
ユーミルは小さく息を吐く。
「合点がいきました。元施設長、あなたはサイラスの周りの人間を奪ったのですね」
「……命ってことか?」
「あの頃の私は、我ながら愚かだったよ。サイラスの感情を汲むことをしなかった」
「そして、殺すよりも惨いことをしてしまった」
ヒロは目を細め、アルヴァルトを睨みつけた。
「殺すよりってお前……何したんだ」
「失踪した五年の間にサイラスは……ある美しい女性と出会い、子供をもうけていた」
「お前、それで奪ったのか」
アルヴァルトは首を左右に振った。
「いや。私が契約破棄を告げた時、サイラスは家族の身を案じ、新しい条件を提示してきた」
「しかし、彼には何も差し出せるものがなかった……たった一つを除いて」
ヒロは言葉を失う。
自分の想像が違うものであるように拳を握る手に力が入った。
「サイラスは、自分の妻を守れと子供を差し出してきたよ」
「その子供には自らが英才教育を叩き込むと数年の猶予を言い出したんだ」
「勿論、私もすぐに使い物になると喜んで同意した」
「……お前!」
ヒロは立ち上がり、アルヴァルトの胸ぐらを掴み上げた。
ユーミルは小さく息を吐いた。
「そして、引き渡しの日に……」
突然、レオンが立ち上がった。
「これ以上は俺たちが勝手に知るべきじゃない」
ユーミルもレオンに同調する。
「……レオンの言う通り、この先は本人の口から聞くべきだよ。もちろん、話せる範囲でね……」
奥の扉がゆっくりと開く。
金色の髪。
青白い肌。
そして青く透き通った瞳。
クスッと笑う声。
青い目が細くなる。
カシャとミントタブレットを振り、数粒口に入れた。
「……ヒロ、久しぶり」
ヒラヒラと軽く手を振る。
「相変わらず、義父さんと仲がいいね」
スタスタと二人の横を通り抜け、空いている椅子に座る。
「エリザ、僕にもお茶」
「お、おい!なに普通に座ってんだよ!」
ヒロは掴んでいた胸ぐらを離し、声を上げた。
ノアは不思議そうに首を傾げる。
「えっ?何か話してたんじゃないの?」
ノアはキョロキョロとテーブルを囲む面々を見渡す。
ユーミルは紅茶を啜る。
「……君の昔話を聞いていたのさ」
ノアは数秒黙り込んだ。
そして、そっと立ち上がった。
ベッドが並ぶ奥の部屋へ向かう。
ヒロがノアの肩を掴む。
「ちょっと待てぇ!」
ヒロの怒声が響き渡る。
「お前、サイラスってやつの……」
肩を掴まれたノアの視線は揺れる。
しかし、ヒロは色々と限界だった。
とっくに緒が切れた堪忍袋は張り裂けそうになっていた。
「いや!そんなことより、お前なんでさらに怪我してんだよ!」
ノアは顔を上げ、数度瞬きを繰り返す。
「リハビリで怪我したんだったか?お前ちゃんと意味わかってんのか?」
「リハビリってのはなあ──」
「もう家の地下の改造はやめろって言ったよな?レール敷いてたって聞いたぞ!」
「うん。トロッコを……」
「トロッコ!?なんで今時トロッコなんだよ!」
「俺のためにマラソン大会ってどういうことだよ」
「みんなにヒロの服を着せて……」
「体型が違い過ぎるだろ!」
「……」
「施設の奴らにも迷惑かけたんじゃないのか?」
「……」
ヒロの説教は止まらない。
ノアは大人しく叱られ続けた。
レオンが焦ったようにヒロの肩をそっと叩く。
「ヒ、ヒロ、俺たちは慣れているから、な。そろそろ落ち着け」
「レオン、お前こそ、筋トレになるとかいって騒ぎ起こしたりしてないだろうな!」
「ぐっ……」
「何かやったんだな……今すぐ吐け!」
「ノアの指示で警察に……」
「このバカ!黙ってればあと五分で終わったのに!」
ノアはレオンの横腹を殴る。
「ノアァ!お前ってやつは──!!」
マキシムは呆れたように頭を掻き毟る。
「俺ら、何見せられてんだ?」
ステラとハルトはニヤニヤと笑いながら頬杖をつく。
「やっぱ飼い主はこうじゃないとねー」
「だな」




