奴隷契約ってなぁに?
騙されていたと知ったヒロは怒っていた。
完全に激怒していた。
レオンは項垂れ、一回り小さくなっていた。
ユーミルは両手を握りテーブルの上に置いた。
ヒロの目を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「ヒロさん……我々はあなたの身を案じただけですよ」
「アイツのことだ、楽しんでたんだろ!」
「……それもあるかもしれませんが」
「あんのかよ!俺はマラソンで死にかけたんだぞ!」
マキシムは思わず立ち上がり突っ込んだ。
「マキシム、少し黙っていてくれる?」
ユーミルは目を細める。
「今、考えるべきは今回の騒動の黒幕……サイラスの正体と真の目的とは何か」
「元施設長、あなたは重要なことを隠しているのではないですか?」
「ザビィが聞いた『奪われたものを奪い返す』その答えがまるで出ていない」
いつもの早口とは違い、噛み砕くようにゆっくりと言葉を並べる。
アルヴァルトはフッと口元を上げた。
「素晴らしい。さすがは交渉役だ……うちにも欲しいな」
ユーミルは何も言わずにアルヴァルトを真っ直ぐに見つめた。
「……いい目だ」
アルヴァルトはカップに口をつけた。
「サイラスというヤツは、とても知りたがりでね。表も裏も何にでも興味を示していた」
「……成長した私達はある契約を結んだ」
ヒロは息を飲んだ。
「……契約ってもしかして」
「君もノアと交わしているだろう。奴隷契約だよ」
「ただの家事手伝いだろ!」
ヒロは慌てたように立ち上がり、サクラを指さす。
「表の奴隷ならそうだが……私達は違うよ」
アルヴァルトはサラッと何でもないように話を続ける。
「奴隷の人生を差し出す代わりに契約者もあるものを差し出す」
「契約者の全財産だ」
ヒロは小さく息を吐いた。
「……なんだよ。驚かせんなよ」
「それならとっくに支払い済みだ……強制的に銀行の残高が0になってたからな」
ヒロは、あの頃の口座残高を思い出し眉を寄せた。
ノアへの怒りゲージがまた少し上がった。
「それはただの契約金だろう?」
「え?」
「まあいいか。この奴隷契約で──」
「いや、よくねえよ!また0の通帳が待ってんのかよ!」
アルヴァルトは深く息を吐く。
ユーミルは話を遮るように軽く手を叩く。
「ヒロさん、契約内容についてはノアが目覚め次第説明させよう。その時は僕も立ち会うよ」
「……本当か」
ユーミルは静かに頷いた。
ヒロは納得したように座り直した。
心強い味方を得たことで少しだけ落ち着きを取り戻していた。
ユーミルはアルヴァルトに視線を送る。
再びアルヴァルトが口を開いた。
「その契約で私達はサンクチュアリを作り上げた」
「サイラスの求めていた……何でも知ること、得ることができる場所だ」
「……しかし」
アルヴァルトは眉を寄せる。
「サイラスが行方不明になったんだ……」
「誘拐か?」
「いや、サイラスは自分から出て行った。結局、五年間行方を眩ませた」
「五年!?」
「私は契約破棄とみなし違約金の取立てを行った……恐らくサイラスはそれを取り戻そうとしている」
禍々しい単語にヒロは何も言えなくなった。
ユーミルは声色も変えずに問う。
「その、違約金とは何だったんですか」
「……サイラスの全てだ」




