倫理観の狂った義父は奴隷でした
ガラスのテーブルを囲む面々。
エリザとサクラが紅茶を並べていく。
柔らかい香りが漂う。
しかし、空気は重かった。
「ちゃんと話せ」
ヒロがせっつくようにテーブルを叩く。
アルヴァルトはティーカップを持ち、一口味わう。
「うん。良い味だ……エリザ、これはどこの茶葉かな?」
「誤魔化すな!」
ヒロが声を荒げた。
「……やれやれ」
アルヴァルトは肩をすくめ、首を左右に振る。
「さて、どこから話そうかな……」
「最初からだ」
「そうだな……あれは私が子供だった頃──」
「子供!?そんな前からかよ!」
「必要だからね」
ヒロは眉を寄せ黙った。
「私は奴隷だったんだ」
「奴隷!?」
「ああ。そうだよ」
アルヴァルトは何でもないように答える。
「言っただろう。私に親はいない」
「……」
ヒロはティーカップに視線を落とし、話を聞く体勢に入っていた。
「……なあレオン」
マキシムが小声で話す。
「ヒロってやつ、いつもアルヴァルトにあんな態度なのか?」
「……そうだ」
「よく生きてんな」
エリザがマキシムの肩を叩き、耳元で囁く。
「……ヒロもなかなか良い男なのよ♡」
「おい、近え!離れろ!」
ユーミルはクスッと笑う。
天然パーマの髪の毛をくるりと指に巻く。
「案外ノアの主人ってだけじゃないのかもね。例えば……」
ヒロが咳払いをして黙らせる。
「アルヴァルト、続きを話せ」
「そうだなぁ……私はある資産家に買われたんだ」
「買われたと言っても歳の近い子供の遊び相手だったがね」
ヒロは眉を寄せる。
「そもそも、子供って奴隷になれるのか?」
サクラが言いにくそうに口を開く。
「ヒロ様……例外を除き、子供は奴隷になれません」
アルヴァルトはフッと息を漏らした。
「私はその例外……特殊な訓練を受けたもの、だったんだ。私達は英才教育と呼んでいたよ」
「……なんか良さそうな響きだな」
「そうだろう?」
アルヴァルトは目を細めるとテーブルを囲む面々を指さした。
「この子達にも施した教育こそがその英才教育だよ」
「……銃や闘い方ってことか」
「まあ、ノアが施設長になり、かなり変わってしまったがね」
アルヴァルトはティーカップを傾けた。
カチャッと金属が触れる音が響く。
「今回の騒動の黒幕こそが、その遊び相手……サイラスだよ」
「ん?サイラス?誰だそれ」
ヒロは眉を寄せ、キョロキョロと説明を求めた。
レオンが立ち上がり、この六日間に何があったのか説明していく。
初めは真剣に聞いていたヒロだったが──
「その暴走トロッコに乗って到着した先がヒロの家の地下だったんだ」
「はぁ?お、俺の家?また勝手に改造したのか!?」
「お、俺ではなくノアが……」
「あいつ……!」
ヒロは戸惑いを隠せない。
そして、話を聞くほどノアへの怒りが湧き上がる。
「それで、ヒロのためにみんなで変装してマラソン大会を」
「なんで俺のためにマラソン大会なんだよ」
「そう言われるとは、思ってもなかったな……」
「……もう分かった」
ヒロは文字通り頭を抱えた。
そして、テーブルを強く叩き立ち上がった。
「つまり、お前ら集団で……俺を騙してたってことだな!」
ヒロは怒っていた。
最強のはずの男は一人、怯えていた。
「このままじゃ、家に帰ってもメシ抜きにされる……」
レオンは打開策を探していた。




