マラソン大会は無事閉幕しました!
荒い呼吸が路地に響き渡る。
地面に落ちた汗は丸くじわりと広がる。
またもやマキシムは、追い詰められていた。
背後には五人の男達。
息を荒げながらもその距離は徐々に縮まっていく。
「……マキシムがドローンに気を取られていたせいだよ」
「ざけんな!お、おまっが、俺を、バカにすっからだろうが!」
マキシムが走りながらハッとする。
「あれだっ!電気のやつ、アレやってくれよ!」
「マキシム、取説によるとあれは一度きりしか使えないようだよ」
「……序盤で使ってんじゃねえよ!」
『ユーミル、作戦Lいくよ』
キャップに内蔵されたマイクからノアの声が響く。
「あ゛?作戦Lだあ?」
「わかったよ。タイミングは?」
『三秒前』
「え?」
『二、』
「おい!俺、なにも……」
『一、今!』
ノアのカウントダウンと同時にドローンからボールのような物が落ちる。
ボールから勢い良く煙が上がる。
一瞬で周りが見えないほどの煙に包まれた。
「うげほぉっ!なんも、見えねえ!」
マキシムは激しく咳き込みながら、命からがら路地から顔を出した。
フラフラと新鮮な空気を求めて大通りに飛び出す。
『レオン、回収して』
「あ゛?」
頭を掻こうと手を上げたマキシムをレオンが抱えて走り出す。
「うぉぉぉおお!何だよ!」
「……マキシム、生きてたか」
レオンは、軽々とマキシムを肩に抱えながら走り続ける。
「作戦Lってレオンのことかよ!」
『そのままマキシムをゴール地点まで運んで』
「承知した」
ゴール地点と聞き、マキシムは息を吐いた。
「やっと終わりか……長かったなぁ」
ふと顔を上げ、レオンの後ろに視線を向ける。
レオンの後ろでは複数の警察官が自転車で追いかけていた。
マキシムは慌ててキャップを深く被った。
「おい!どういうことだよ!なんで警官が……」
「……俺は、騙されたんだ」
「騙されただあ?」
「俺はアイツの言う通りに筋トレを──」
『レオン、その路地に入って』
レオンは急旋回し、狭い路地に滑り込む。
自転車に乗った警官達は路地に入れずに声を上げた。
「こらぁー!待ちなさい!」
「筋トレ木登り男が路地に逃げ込み……」
マキシムは眉を寄せた。
「筋トレ木登り男……?」
「……そういうことだ」
「どう言うことだよっ!」
『お疲れ様。レオンとマキシムはこのままゴールして』
レオンは、マキシムを降ろした。
二人は路地を走り抜けた。
「こっちよン♡」
派手なピンクが筋肉質な腕を振る。
二人は、建物の中に吸い込まれるように入っていく。
エリザはすぐにキャップを取り上げた。
「んふっ♡お疲れ様ぁ!二人とも汗を流してねン」
マキシムはキョロキョロと周りを見回した。
そこは、銭湯だった。
「ゴールが銭湯かよ!」
エリザはレオンの肩に手を置いた。
「レオンちゃん、お背中流してあ・げ・る♡」
「……断る!」
「遠慮しなくていいのよン」
「ま、まだハルトが到着していないだろ!」
エリザはレオンとマキシムの背中を力強く押す。
「ハルトちゃんは、まだ役目があんのよ」
「ほら、行くわよ♡」
エリザは無理矢理二人を男湯に連れて行った。
その頃、当のハルトは、黒スーツの男達を連れて走り続けていた。
「ノア、悪い。数人取り逃した」
『まあ義姉さんも向かってくれたし、大丈夫でしょ』
「このまま向かっていい?」
『準備は出来てるよ』
ハルトは大通りを離れ、人気のない道を走る。
そして、古い倉庫に辿り着く。
シャッターの隙間から滑り込むように侵入する。
「……はぁっ、ゴール!」
ハルトは両手を腰に当て、軽く息を整える。
「ハルト、お疲れ様」
ふわりと煙の香りが流れる。
オレンジ色の光が揺らめく。
黒いキャップを被ったノアは水のペットボトルをハルトに投げた。
「おっと」
ハルトはボトルを傾けると喉を上下に動かした。
「……じゃあ、俺は先戻っとくわ」
くるりと背中を向け、軽く手を挙げる。
「くれぐれも死ぬなよ」
ノアはクスッと笑うと、タバコの火を消した。
シャッターが勢いよく開かれる。
「隠れても無駄だぞ、ヒロ!」
「観念しろや!」
金属で壁や床を叩きつける音。
汚い言葉や怒声が飛び交う。
ノアは黒いキャップを外した。
サラリと金色の髪が揺れる。
「……こいつ!傀儡のノア!」
「い、生きてやがったのか……!」
ノアは目を細め、口角を上げた。
「ねえ、ちゃんと殺す気で来てよ」
「じゃないとリハビリにならないでしょ?」
ノアはナイフを手の中でくるりと回した。




