取説は起動前に読んでおけ
公園のベンチで座る二人の自称ヒロ。
ニコは、転んだ傷の手当を受けていた。
「はいっ!おしまい」
イヴは処置した肘を軽く叩く。
「い、いたっ」
ニコは反射的に声を出した。
「イヴちゃんありがとう」
そして、すぐに柔らかく微笑んだ。
イヴが黒いキャップを指で押さえながら、内蔵マイクに向かって口を開く。
「ノア、ニコの処置終わったよ!」
『……』
「……ノア?」
イヴは首を傾げた。
「機材トラブル……?」
「なにかあったのかな?」
ニコは心配そうに眉を寄せた。
「あーン♡お・ま・た・せ」
二人は同時に声のする方へ視線を向けた。
ピンク色のスーツ。
ミニスカートから伸びる筋肉質な脚。
「エリザ!」
「んふっ♡二人ともお疲れ様♡」
エリザは二人のキャップを慣れた手つきで取る。
さらりと長い髪がおりた。
「もう女子の部は終了よ♡」
「女子の部?男女で分かれてたの!?」
イヴは目を丸くした。
「そうよ〜!気分転換になったでしょ?」
「……まあ、たしかに」
「すっごく楽しかったぁ」
ニコはふんわりと頬を上げた。
「もう一人到着したら移動するわよ」
「もう一人?」
軽いフットワークでステラが公園に到着する。
ほとんど息も乱れていなかった。
「あれ?ここがゴール?」
「そうよ〜お疲れ様♡」
ステラのキャップも回収する。
「じゃあ合流場所に移動するわよン」
ステラが髪を軽く整えながら口を開いた。
「途中でコンビニ寄っていい?喉渇いちゃった」
「水ならあるよ……さっきノアに言われて買ったやつ!」
イヴはハッとしてビニール袋を漁る。
残ったペットボトルの水を差し出す。
「……あっ、でもぬるくなっちゃってる」
「平気。私、基本常温の水しか飲まないから」
ステラはそのまま手を伸ばす。
ボトルを傾け、喉が上下に動く。
ステラが指で軽く口に触れる。
「うん、おいし」
エリザはフフッと笑うと、一歩前に踏み出す。
「それじゃ移動するわよ♡」
ピンク色を先頭に女子チームは移動を開始した。
一方その頃、マキシムは命の危機に陥っていた。
マキシムの背後には三人の男達。
すぐ後ろにまで迫ってきていた。
真上を飛ぶドローンから声が落ちる。
「マキシム、もっと早く走らないとあと数メートルで追いつかれてしまうよ。僕の計算によるとあと一分後には集団リンチに遭うね」
「……うっせえなっ!ご、ごちゃ、ごちゃ言う前にっ、た、すけろっ!」
息も絶え絶え、マキシムはどうにかユーミルに助けを求める。
ユーミルのクスッと笑う声。
「仕方ないなあ。その先の路地に入ってくれる?」
「おまっ、俺を、こ、殺す気かっ?」
マキシムがさらに声を荒げた。
「路地にっ、入ったらっ、撃たれるっじゃ、ねえか!」
「まあまあ、その時はその時だよ」
「くぅっ、なんとかっ、しろよっ!」
マキシムは、ほんの少しだけ速度を上げ路地に飛び込んだ。
「見ろ!ヒロが路地に入ったぞ」
「ここで仕留めるぞ」
男達もマキシムを追い、一斉に路地を曲がる。
──その瞬間。
待ち構えていたドローンからワイヤーが複数発射され、男達の肩にくっついた。
バチバチと鋭い音が路地に響く。
男達の口から呻き声が漏れ出る。
マキシムは目を見開く。
恐ろしいものを見たかのように体が固まった。
バタバタと倒れる男達。
「はい、無事制圧したよ」
「制圧っじゃねえ!おまっ……最初からやれよっ!」
「たった今、取説を読み終わったんだよ」
「……ぶっつけ本番じゃねえか!」
マキシムの背筋はゾクリと冷えていた。




