立ち止まったら命はない!
『ヒロ防衛作戦、スタート!』
黒いキャップからノアの声が流れる。
青いTシャツと黒いバレルパンツの集団が一斉に走り出す。
『ステラはそこから路地に入って』
『レオンはそこでスクワット百回』
「お前……俺で遊ぶな!」
文句を言いながらも、大通りの街路樹の横でスクワットを始める大男。
通行人が二度見する。
『イヴはそのままスーパーに入って』
「えっ?マラソン大会なのにスーパー!?」
『水を二本購入して』
「う、うん」
自動ドアが開き、イヴが店から出てくる。
その瞬間──
荒々しい呼吸。
呻き声に近い音が背後から聞こえた。
イヴはハッと後ろを振り返る。
死にかけのマキシムが、フラフラと走っていた。
いや、走れていなかった。
「……しぬ゛ぅ」
言葉としてギリギリ聞き取れた。
「バテルの早過ぎない?」
『イヴ、買った水を一本マキシムに渡して』
「う、うん」
イヴはマキシムに駆け寄る。
マキシムはポタポタと地面に汗を落とす。
「マキシム!お水!」
マキシムは水を受け取り、一気に飲み干した。
顔色が少しだけ改善していく。
「イヴ……お前は神の使いだ!」
『それは僕が神ということかな?』
「ちげーよ!この鬼!悪魔!」
『酷いなあ』
クスクスと笑う声。
「ノア、アタシは次どこ行けばいいの?」
『イヴは角の薬局で絆創膏を購入して』
「絆創膏!?マラソンだよね?」
『……たった今、ニコが転倒したんだよ』
イヴは困ったように眉を下げた。
「……ニコってば」
『この先の公園にニコを誘導するから、そこで手当して』
「りょーかい!」
イヴは軽やかに走り出した。
マキシムはイヴの後ろ姿を見送る。
「あいつ、結構走れんのかよ!」
『マキシム、そろそろ走り出さないと危ないよ?』
「あ゛?」
マキシムは後ろを向く。
いかにも怪しげな黒スーツの男達がマキシムに向かってくる。
「あそこにいたぞ!」
「青いTシャツに黒いパンツ……あいつがヒロだ!」
男達は背広に右手を入れ、何かを隠しながら走る。
「嘘、だろ……!」
マキシムは慌てて走り出した。
グッと脇腹を押さえる。
「こんなことなら腹八分にしとくんだった……」
「……だから言っただろ。食べ過ぎは良くないって」
「おま、ユーミル!?どこから……?」
マキシムがキョロキョロと周りを見渡す。
「上だよ。上」
マキシムの頭上にはドローンが一機。
一緒に街中を走る。
「ユーミル!おまっ、ずりぃぞ!」
マキシムはドローンを捕まえようと両手を上げ、飛び跳ねる。
「……本当に愚かだね。今は足を動かすことに集中しなよ」
「お、俺を……蔑むんじゃねえー!」
マキシムはドローンで監視されながら必死で駆け抜けた。
一方その頃。
レオンはスクワットの後に腕立てとバーピーまで難なくこなしていた。
レオンを囲むように人が集まっていた。
「……いい感じだな」
視線など全く気にすることなく軽く腹筋を撫でる。
『レオン、そろそろ木に登ってみようか』
「木登りか?」
レオンは特に考えずに軽々と木の幹に足をかけ登っていく。
高さ五メートルほどの街路樹。
レオンはすぐにテッペンに到着した。
「案外簡単だったな」
『……レオン、そろそろ準備しなよ』
「準備?」
レオンは不思議そうに首を傾げた。
「こら!そこの男!降りてきなさい!」
下から響く怒声。
レオンが下を見ると青い制服を着た数人が街路樹を取り囲んでいた。
「ノア、警察だぞ!」
『うん。頑張って』
「どういう意味だ」
『レオンのマラソン大会はこれから開始だよ』
レオンは目を見開いた。
深く息を吸い、下を見下ろす。
「……騙したのか」
『騙すも何もこれが君の役割だよ』
「くっ、くそっ!」
レオンは街路樹から飛び降りると大通りを一気に走り抜ける。
「こらー!待ちなさい!」
「木登り筋トレ男が逃走中!応援お願いします」
無線の声が後ろから聞こえる。
レオンはひたすら走り続けた。




