そっくりさんのマラソン大会
青いTシャツと黒のバレルパンツに着替えた面々が並ぶ。
「……これで走るの?」
ステラがバレルパンツの裾を摘みながら、眉を寄せた。
「普通に動きにくいし……」
筋肉で今にも服がはち切れそうなレオンが横に立つ。
「……何か理由があるんだよな?」
ノアはクスリと口元を上げた。
「仕上げはこれ」
黒いキャップを指でくるりと回し、レオンに投げて渡す。
エリザが一人ずつにキャップを配る。
「今からみんなにはヒロになりきってもらうよ」
「は?ヒロ?」
お互いを見合う面々。
体型も身長も様々。
ハルトが顔を伏せ、両手で覆う。
両手で何度か顔を擦った。
顔を上げると、一人だけヒロそのものだった。
「ノア、こんな感じでいい?」
「うん。いいね」
ノアはこくんと頷くと、目を細めた。
「おい!俺らは無理あんだろ!」
マキシムは大口を開けて笑い声をあげる。
「俺とコイツじゃ、体格差ありすぎんだろ」
レオンの背中をバシバシと叩いた。
「問題ないよ。敵側のヒロの情報を歪めておいたからね」
「……敵側?」
「ペクはヒロを捕える気だよ」
ユーミルが地図をガラスのテーブルに広げた。
地図を指差しながら説明する。
「今回のマラソン大会はヒロさんの防衛作戦でもある。スタート地点はここ」
「走るルートに関しては都度こちらで指示を出すよ」
マキシムが指をさして声を荒げた。
「……ちょっと待てよ!ユーミルなんでお前は私服なんだよ!」
「僕は違う形で君たちを防衛するからね」
「ヒロじゃなくて俺らってことか?」
ユーミルはフッと口元に指を置いた。
「そうだよ」
短い返事。
なんとなく嫌な予感がしていた。
ノアは手を叩く。
「さあ、この作戦には戦闘はない。各々武器を提出してスタート地点に向かって」
ステラは軽く舌打ちをすると、手を軽く振り銀色のナイフをテーブルに並べていく。
ナイフが十本を超えたあたりで怪訝そうにレオンが口を開いた。
「……本当に戦闘はないのか?」
ノアはニヤニヤと口元を歪めた。
「レオンも今回は暴力行為は慎んでもらうからね」
「くっ……」
レオンはだらりと拳を下ろした。
「ノア君……ちょっと、」
「ん?ニコどうした?」
ニコはもじもじとTシャツの裾を伸ばす。
レオンとは違う意味ではち切れそうになっていた。
ノアの視線がやや下に落ちる。
「……あっ」
「お前!どこを見ている!」
エリザがすかさず、ニコに新しいTシャツを手渡した。
「あらぁん♡ノアってば男の子ねぇン」
「まあね」
「俺の妹を汚れた目で見るな!」
「一応、彼女でもあるんだけど」
「俺は認めていない!」
レオンの怒号が響いていた。
スタート地点では、ステラが数回ジャンプし体の調整を繰り返す。
「ナイフ置いてきたから体が軽い!」
「まあ、あんなに持ち歩いてればな……」
マキシムはテーブルの上の光景を思い出していた。
完全に引いていた。
『みんな聞こえるかな?』
「ノア!?」
『そのキャップには通話機能付きマイクがついているからね。これで指示するよ』
「耳元でノアの声がするっ!」
イヴは頬を染めながらうっとりと悦に浸る。
『……準備はいい?』
「おー!」
「……あいよ」
各々が声を出し軽く手を挙げる。
『それじゃあ、ヒロ防衛作戦スタート!』




