墓穴を掘ったら逃げたもん勝ち
ティーカップからのぼる湯気。
ガラスのテーブルには数種類の焼き菓子が並ぶ。
部屋には、甘い香りが立ち込めていた。
セレスがタッチパネルを操作し、フッと口端を上げた。
「ザビィ、明日からあなたも人間ドックに参加してもらいますよ」
タブレットをザビィの前に置く。
「こちらの問診票に記入してください」
ザビィは大人しく従い、ポチポチと端末を操作し始めた。
ぎこちない指で問診票を埋めていく。
ふと、口を開いた。
「そう言えば、お前の義父……アルヴァルトって主人がいたのか?」
「そいつが全てを奪い返すとか言ってたぞ」
一気に静まる部屋。
「……あ、れ?」
ザビィが顔を上げた。
マキシムが声を荒げる。
「おいザビィ!そいつの名前は?」
「なんだっけ、サ、サクセス?」
ステラが小さく息を吐き、頬杖をついた。
「サイラスでしょ?いかにもヤバそうな奴」
「まじかよ!」
「私とノアの関係を聞いてきたし」
レオンは念のために確認する。
「なんて答えたんだ?」
「はあ?ただの仲間って……」
「そうか」
「あと、食事に誘われて──」
ノアは勢いよく立ち上がる。
「歳が離れすぎだろ!」
「は?」
「……えっ?」
一斉にノアに視線が集まる。
ノアは静かに着席した。
ユーミルがニッコリと口角を上げる。
しかし、目は全く笑っていない。
「……ノア、どういうことかな?」
短い問い。
空気がキンキンに冷える。
「もしかして、サイラスって──」
「計画を変更する!」
ノアはユーミルの言葉をかき消すように重ねた。
「エクリプス拠点奪還は後回し!次はヒロ防衛作戦に移る」
「おいおい……ちゃんと説明しろよ」
マキシムがガシガシと頭を掻く。
「余計な詮索は不要」
「作戦実行は明日、ヒロが僕の遺言を受け取り次第始めるよ」
「敵の位置、数やルートは僕が探っておく」
「そういう事で明日までみんなしっかり休息を取って」
ノアは一気に捲し立てると足早に部屋を出て行った。
残された者たちは、静かに紅茶や焼き菓子に手を伸ばす。
陶器の触れ合う音が響く。
眉を下げたザビィが端末からそっと顔を上げる。
「お前ら、いつもこんな感じなのか?」
「……まあね」
ユーミルは紅茶を一口飲む。
「俺が言うのもなんだけど……お前ら大変だな」
部屋には複数のため息が落ちていた。
「まあ、思うことはあるけれど……今はノアの言う通り体を休めようか」
イヴは両手を上にあげ、体を伸ばした。
「ねえ、ユーミル。サイラスって何者なの?」
「そうだよ!お前の予想はなんなんだよ!」
マキシムもイヴの問いに加わった。
ユーミルは顎に手を置く。
「確実にノアはサイラスと接触したことがあるね。しかも、顔見知りなんて仲じゃない。少なくとも年齢を知るほどの仲」
「アルヴァルト様の年齢に近いとかじゃない?」
「そうかもね。だとしてもさっきの慌てぶりを見るとそれだけとは思えないよ」
ステラは焼き菓子を手に取る。
「そういえば、サイラスも変だったんだよね」
「普通ならエクリプスの頭になったザビィと挨拶するもんでしょ?」
ザビィは眉を寄せた。
「俺には目もくれなかったな……」
「そうそう。で、私には『前トップとの関係は?』って聞いてきたし」
ユーミルは髪をクルクルと指に絡める。
「……前トップ?ノアの名前を知らないわけがないよね?」
レオンがハッと目を見開く。
そして、そっと立ち上がる。
「……どちらにせよ、そのうち分かるだろ」
そのまま部屋を出ようと歩き出す。
どこかぎこちない歩き方。
ユーミルは呆れたように目を細めた。
「レオン、君なにか知っているね?」
「俺は……何も言わないぞ!」
「……」
筋肉バカは嘘が苦手だった。




