僕のお葬式はこちらです
盛り上がり、団結を見せつける会場内。
水の入ったグラスを持つステラは辺りの警戒を強めていた。
「ザビィ、早めに出た方がいいかも」
「と、とりあえずペクさんだけでも挨拶を……」
急に会場が静かになっていく。
ステラは小さく息を吐いた。
「チッ……あっちから来た」
手の中で軽くナイフを回す。
「おい、舌打ちはやめろ……って危ねえからナイフも仕舞え」
「……あんた死にたいの?」
「え?」
目の前の人間が一斉にはけていく。
真っ直ぐな道が出来上がる。
先程まで騒がしかった空間に靴の音が響いた。
ペクとサイラスが並び、開かれた道を歩く。
その視線は、ザビィへ向かう。
「ザビィ、私の後ろに」
ザビィは大人しく数歩下がるとステラを盾にした。
サイラスがニヤリと口角を上げる。
「君はステラと言ったかな?なかなか良い動きをしていたね」
「……」
「良かったら一緒に食事でもどう?」
「仕事中なので」
「そう?」
サイラスは残念そうに肩を揺らす。
思い出したように指をパチンと鳴らした。
「君と前トップの関係は?」
「はあ?ノアのこと?別に、ただの仲間みたいな」
「……仲間か、いいね」
「……?」
「ステラ、また会おう」
サイラスは満足したようにくるりと踵を返す。
その後ろをペクはついて行った。
「なんなんだ?」
ザビィはステラの背中からそっと顔を出した。
「アイツ……全然隙がなかった」
「も、もしかしてステラより強いのか?」
「場数はダンチであっちの勝ちってとこ」
ザビィはゴクリと息を飲んだ。
ステラの細い腕を掴む。
「……帰るぞ!」
「まじで亭主関白じゃん」
ステラは呆れたように息を吐いた。
建物の外に出て赤い絨毯を早足で歩く。
絨毯の先には黒い一台の車。
ザビィは、すぐに乗り込もうと車のドアに手をかける。
「待って」
ピタリと止まる。
運転席から人が降り、後部座席のドアを開け頭を下げた。
金色の髪が揺れる。
「どういうつもり?」
運転手はニコリと口元を上げる。
金色の髪の隙間から見える青い目が細くなった。
「ノ、ノア!?お前……生きてたのか!」
ザビィはステラの後ろに隠れ、銃を急いで取り出す。
「おいおい!ザビィ、俺だってば!撃つなよ」
聞き慣れた声。
「ハルト、アンタも趣味悪すぎ」
「ん?アンタ"も"?」
「チッ……」
「うわ、なんで怒ってんだよ!……こっわ!」
ステラはハルトをキツく睨むと席に乗り込んだ。
ザビィもその後を追う。
ハルトが運転席に戻り、車を出す。
「で?なんでそんな趣味悪い変装してんの?」
ステラは不機嫌そうに脚を組み直す。
「今日、ノアの葬式やってんだよ」
「おいおい、葬式で死んだ人の変装って……」
ザビィはハルトの常識の無さに愕然とした。
意外とまともな感覚を持っていた。
「もちろん、二人も参加するだろ?」
「……まあ、行くだけなら」
「ザビィは?」
「え、俺?まあ……線香あげるぐらいなら」
「あい、りょうかい」
車は施設へ向かって走り始めた。
車が施設に到着する。
喪服を着たレオンが、入り口に立つ。
「待っていたぞ」
「レオン、私達パーティの帰りだったから……」
「問題ない。アイツも別に気にしないだろ」
レオンは背中を向け、さっさと向かう。
ザビィは気まずそうに後ろをついて行った。
静まるエレベーターの中で、ステラが口を開く。
「懐かしいね」
「あそこでよく戦闘訓練してたっけ……」
「ノアが武器庫の鍵を掻っ攫ってたな」
「そうそう。それでさぁ」
エレベーターの扉が開くと黒と白の幕。
ステラの口がきゅっと閉まる。
「ついたぞ。こっちだ」
レオンがスタスタと扉の中に進む。
二人が奥の部屋に進むと大きな祭壇と遺影。
いつものノアの顔。
近くのモニターには、ノアの思い出の写真が映し出される。
ザビィが線香に火をつけ香を焚く。
遺影の前で手を合わせた。
ステラも遺影の前に立つ。
しかし、立ったまま動かない。
ぼーっとモニターに流れる写真を見つめていた。
幼い頃の自分も映る、施設の仲間達との写真。
無邪気に肩を組む子どもの自分。
「……なに勝手に死んでんの」
小さい声。
「私、許可してない……」
ステラは遺影を見つめる。
パチッ。
パチッ、パチッ。
遺影写真のノアが瞬きする。
目が乾いたのか少し充血し始める。
「……」
ステラは何も言わずに手に銀色ナイフを持つ。
両手が鈍く光る。
「……殺す!」
一気にナイフを放つ。
ノアは、ナイフを避けながら祭壇から抜け出す。
「うわぁ!バ、バレた」
「何してんの!信じらんないっ!」
ザビィはノアが生きていることと、モラルを欠いた悪戯に体調が悪くなっていた。
そっと腹部を押さえる。
これが、ザビィの胃痛の始まりだった。




