強者は俺の三歩後ろを歩けよ
煌びやかな門。
ライトアップされる個性的な建造物。
赤い絨毯が建物の中へ続く。
次々と集まる黒塗りの高級車からは、明らかに"普通"ではない人間が降りていく。
手配された高級車の中で、ある一人の男は額に手を当て足を震わせていた。
向かいに座る長髪の女が、小さく息を吐く。
キラキラと輝く黒いドレスのスリットからは、スラリと長い脚が露わになる。
「……ザビィ、まだ行かないの?」
「……」
「ったく、ビビリすぎだっての」
女は頬杖をつき、何度目かの溜め息をついた。
「……ステラ、お前は怖くないのかよ」
「別に、何かあったらヤッちゃえばいいだけだし」
赤いネイルが施された指の間から、銀色のナイフが輝く。
「お前、ノアに負けてただろ」
「……あれは油断しただけだし」
ステラは眉を寄せ、目を細める。
ナイフを掴み、軽く振った。
「本当に死ぬ気だったとは思わなかったから」
小さい舌打ちの音。
ステラは、車のドアを開けるとザビィを蹴り落とした。
「さっさと行くよ!」
「お、おい!俺がトップだからな!」
「どうでもいいし、そんなこと」
ザビィはすぐに立ち上がると、ステラの前を歩き出す。
「お前は俺の三歩後ろを歩けよ!」
「なに?その亭主関白みたいな設定」
ステラはクスリと笑った。
その表情を見てザビィは慌てたように視線を逸らした。
赤い絨毯を二人は歩く。
痛いほどの視線が注がれていた。
「……見過ぎだっての」
ステラは長い黒髪を軽くかき上げる。
数人の男達がニヤリと目を細めた。
「バカばっか」
「ザビィ、このレベルなら私一人でも余裕だよ」
「ほ、本当か!」
ザビィは軽く咳払いすると、背筋を伸ばし胸を張った。
会場内は人で溢れる。
バニーガールがウェルカムドリンクを振る舞う。
ザビィは、グラスを受け取る。
ステラは眉を顰めた。
「……趣味わるっ」
「ステラ、ドリンクはどうする」
「水」
「酒も──」
「仕事中は飲まないって決めてんの」
ザビィはそれ以上何も言わず、バニーガールに水を頼んだ。
照明が落ち、薄暗くなるパーティ会場。
正面のステージにスポットライトの光が当たる。
一人の男が照らされる。
「ペク……」
チッ。
小さな舌打ち。
「お、おいステラやめろ」
慌てたザビィが小声で注意する。
ペクによる祝辞が読み上げられると、もう一人男がステージに上る。
焦茶色の髪、ゆるいウェーブヘア。
ペクが深々と頭を下げた。
「皆様に紹介いたします。こちらは、この度の功労者サイラス様です」
拍手喝采が起こる。
「こちらのサイラス様は、サンクチュアリ創設者の一人であり更に……」
「あのアルヴァルトの主人でもおられます──」
ステラが目を見開く。
ザビィの背中に問いかける。
「アルヴァルトの主人!?ザビィ、どういうこと?」
「お、俺にもさっぱり……ペクさんは何も言ってなかったし」
ペクがサイラスにマイクを手渡す。
「あー、どうも。ご紹介頂いたサイラスです」
割と普通そうな挨拶に、ザビィは気が抜けたように小さく息を吐いた。
サイラスのスピーチは続く。
「まあ、あれだな。簡単に言うと──」
「アルヴァルトから俺のものを奪い返す……それだけだ」
何を考えているのか読めない目。
一瞬、静まり返る会場。
数秒後。
上がる雄叫び。
ビリビリと響くような喝采。
ザビィは息を飲んだ。
ステラはナイフを握りしめる。
「ザビィ……あいつには近づかない方がいい」
ザビィの背筋がゾクリと冷えていた。




