戦闘しない奴はまとめて人間ドック行き
ユーミルの冷たい視線に部屋も静まり返る。
マキシムが鼻を啜りながら眉を寄せる。
「お前!なんだよ。その言い方!」
「……」
ユーミルはマキシムの怒声を完全に無視した。
「機嫌が悪いとすぐ俺を無視しやがる!」
マキシムはガシガシと頭を掻き毟る。
ベッド横の椅子を乱暴に引くと、腰を降ろした。
ノアは鼻水ティッシュの山のせいで端に寄せられていたPCを開く。
イヴは慌ててティッシュをゴミ袋にまとめた。
「まずハルトにはこの後、ヒロの家に向かってもらう」
「さっき指示した通り、レオンになりすまし僕の死を伝えて」
「はいよー」
ハルトは軽く手を挙げた。
返事も軽かった。
ノアはキーボードをカタカタと叩く。
「その後、旧中枢の歓迎会帰りのザビィを捕獲し、エクリプス本拠地を奪還する」
「よっしゃ!じゃあ俺は何したらいんだ?」
マキシムは身を乗り出す。
「非戦闘員はこの作戦には参加させない。ここで英気を養って」
「……はあ?」
「万が一、戦闘になれば足を引っ張ることになる」
「俺らはお荷物ってことかよ!」
「……戦闘においては、ね」
セレスが小さく息を吐く。
コツ、コツと靴音を鳴らし、マキシムに近づく。
手元にはタブレット端末を持ち、ポチポチと操作した。
「良い機会ですので、非戦闘員はこのままここで人間ドックを受けていただきます」
「……人間ドックだあ?」
「特にマキシムは健康診断すらサボっていましたからね」
「この際、隅々まで検査しましょう」
セレスは眼鏡をクイッと上げる。
眼鏡は光を反射し、怪しく発光した。
「ゔっ……やるしかねえのか……」
マキシムは、歯を食いしばる。
そして、諦めたように天井を見上げた。
「セレス……アタシ、胃カメラ苦手」
イヴは不安そうに眉を下げた。
セレスはニコリと頬を上げる。
「問題ありません。最新の飲み込むタイプで対応できます」
「良かったぁ」
イヴはそっと胸を撫で下ろした。
ノアがセレスに指をさし、抗議する。
「ちょっと待て!僕は、毎回口からカメラ入れたよな?大腸検査だって下剤を」
「あなたは不健康ですから治療と同時進行したまでですが?」
セレスの足音がノアに向かう。
「文句があるなら禁煙してください」
「……」
ノアは口を閉ざした。
セレスは満足そうに口角を上げた。
「ねえ、ノア。ザビィはどうやって保護するつもり?」
ユーミルの冷たい視線は変わらずノアに注がれる。
「保護じゃなくて捕獲、だろ」
ノアは少しだけ眉を寄せる。
小さく息を吐いた。
「もう算段はついてるよ」
ユーミルは首を傾げ、指に髪を絡ませた。
ノアは人差し指を立てる。
「ザビィは、一人では行動できない」
「……そういえば、昔からビビリだったよな!」
マキシムが懐かしむように目を細めた。
「そう。だから旧中枢の歓迎会には、必ず誰かが付き添う形になる」
ノアはクスリと笑い、続ける。
「その相手は、自分を守れるくらい強くて……」
「見栄っ張りなザビィのお眼鏡に適うくらい華がある人物……」
「なるほどね。それなら僕たちは高みの見物でもさせて貰おうか。セレス、僕も飲むタイプの胃カメラにしてくれる?」
「はあ?ぜんっぜん分かってねえのって俺だけか?」
マキシムはガシガシと頭を掻き毟った。
「すぐ分かるよ。僕たちは頃合いを見て二人を回収するだけ」
「……そんなうまく行くのか?」
ノアはコクンと頷いた。
そして、手をパチンと叩く。
「さあ、準備を始めようか……」
青い目は楽しそうに細くなる。
「やられたらやり返さなきゃね」




