アタシの涙は可愛くない!
ベッドに座るイヴ。
いまだに潤む目は赤く腫れ、鼻を啜る音が響いていた。
ベッド用テーブルの上にあったPCは端に追いやられ、ティッシュの山ができていた。
「……ノアに鼻垂れてるとこ見られたぁ」
「アタシ、全然可愛くないぃ……うっうぅ」
違う理由で再び涙していた。
「イヴ、垂れてるというレベルではなかったぞ」
レオンが横から余計な訂正をする。
「うっさい!レオンのバカ!ノンデリ!」
「……ノ、ノンデリ!?俺がか?」
「アンタしかいないっての!」
筋肉バカは少しだけダメージを負った。
ノアは呆れるように息を吐いた。
涙と鼻水に塗れた服を脱ぎ、新しい入院着を手に取った。
何重にも巻かれた包帯が傷の深さを裏付ける。
ノアは、何事もなかったかのように袖を通し、サイドの紐を結んだ。
ノアの背中から目が離せない。
徐々にイヴの眉が下がり、じわりと目が潤んでいく。
「ねえ、ノア……その、傷は平気なの?」
「ん?うん平気だよ」
「でも……あの時……」
「死にかけたね」
何でもないようにサラッと言うノア。
イヴの胸がギュッと締め付けられる。
「セレスのおかげだよ」
ノアはフッと笑うとイヴの横からベッドに上る。
レオンが腕を組み、眉を寄せた。
「……そのケガで動けるハズがないだろ」
「まあね」
ノアはシャカシャカと小さな容器を振って見せた。
「……なんだ、それは?」
「義父さんの発明品」
カチャッと蓋をずらし、丸い粒を一つ手に取る。
「ミントタブレット?」
「見た目はね。これ鎮痛剤。強力なやつ」
「お前、だからザビィに撃たれても笑ってたのかよ」
「そういうこと」
ノアはシャカシャカと数粒手のひらに乗せ、一気に口に放った。
「痛みも感じない代わりに一時的に味覚も無くなるけどね」
「それは元々だろ」
「失礼だな!まだ少し分かる」
レオンはキョロキョロと周りを見回した。
「……そのセレスはどこに行ったんだ?」
通信で見た隣のベッドは空になり、ベッドメイキングも済んでいた。
「セレスは……」
ノアはそっと上を指差す。
レオンは目を大きく見開いた。
「過労死……か」
カツ、カツと靴の音。
「勝手に殺さないでもらえますか?」
「……生きてたのか!」
「いや、貴方、嘘だと気付いていたでしょう」
セレスはレオンに冷たい視線を送る。
「この上に私の居住スペースがあるんですよ」
セレスは部屋を見渡す。
部屋の隅で背中を震わせる男に目が止まる。
「彼は……一体なにが?」
「放っておいてやれ」
「長い付き合いだけど、こんなに涙脆いとは知らなかったよ」
ノアは興味深そうに顎に手を当て観察する。
「……おい、あんまり見てやるな」
マキシムは濡れた袖でゴシゴシと目を擦るとくるりと振り向いた。
「う、……うるせえな!お前らがおかしいんだろ!泣くだろ普通!」
「だよなあ?イヴ!」
さっきまで泣いていたイヴは、ノアの腕をぎゅっと掴みフニャフニャにふやけていた。
「えへへ〜ノアぁ〜」
「……コイツ!」
コン、コン。
扉をノックする音。
ユーミルがひょこっと顔を出した。
「感動の再会は済んだかな?」
中の様子を確認すると、スタスタと足早にノアの元に向かう。
ユーミルの後ろにはハルトがついて行く。
ユーミルは、ノアの隣のベッドに腰をかけた。
「……さあ、次の作戦をご教示いただこうか」
その目は先ほどより冷えたものだった。




