新しい推しにはピンクの♡を
ガラスのテーブルから立ち上る湯気。
ノアの飯テロ動画と同じ皿がズラリと並んでいた。
イヴは目を丸くして輝かせる。
「一枚が大きいタイプのローストビーフ!」
「なあ、もうこれ食っていいか?」
マキシムが皿を指さし、エリザを見た。
エリザは二人のレオンの腕を掴み、うっとりと目を細める。
完全に推し活真っ最中だった。
「……お、おいエリザ、聞かれてるぞ」
「あ〜ン♡たっぷりチャージできたわよン」
エリザは少しだけ名残惜しそうにレオンの腕から離れるとエプロンの紐をキュッと結び直した。
「じゃあ御奉仕開始するわね♡」
「……ごほうし?」
イヴとマキシムは首を傾げた。
カチャカチャと食器の当たる音が響く。
潜伏班だった四人はローストビーフを無言で食べ続けていた。
「いっぱいあるわよ♡もっと召し上がれ〜」
まさかのわんこそば方式だった。
空になればすぐに皿が追加されていく。
ローストビーフは止まらない。
誰も止め方を知らなかった。
「アタシ、そろそろ限界かも……」
イヴは腹をさすりながら椅子にもたれた。
「あら〜ン?早いわねえ♡」
「エリザ!俺はまだ食えるぜぇ!」
マキシムはガルニチュールまで完食した皿を差し出す。
エリザは嬉しそうに目を細めた。
大きな塊肉をナイフでスライスしていく。
断面からは肉汁が溢れる。
「お・ま・た・せ♡」
流れるような所作でマキシムの前に皿が置かれる。
エリザは、イキイキと輝いていた。
食卓はピンク色に発光していた。
そう見えた。
レオンもナイフで肉を切り、口に運ぶ。
横からの視線にナイフが止まる。
眉を顰め、ハルトを軽く睨んだ。
「おいハルト、いくら何でも見過ぎだ」
ハルトは瞬きすらせず、レオンをじーっと観察していた。
その目は血走っていた。
「ああ。気にしないで」
「……いや、無理だろ」
「変装は完璧にしないと、計画に支障が出るだろ?」
「食べる仕草が必要か?」
「口の動かし方や肩の上がり具合にクセが出るんだよ」
レオンはそれ以上は何も言わずに黙々と肉を食べ続けた。
エリザがハルトの肩に両手を置く。
「ハルトちゃんもいっぱい食べて♡」
「……ハルト、ちゃん!?」
目を見開くハルト。
その横でレオンはフッと口端を上げた。
「気に入られたな」
「……嬉しくねー」
ハルトは小さく呟いた。
部屋の空気は緩み切っていた。
満腹感で気怠い空気すら流れていた。
「いっぱい食べてくれて嬉しいわン♡」
エリザは、フリフリのエプロンを外した。
少しだけ寂しげに見えた。
「ノアなら奥の部屋にいるわよ」
「顔見せてあげてね♡」
ユーミルはピクリと眉を動かした。
「エリザさんは、この後どうするんですか?」
エリザは驚いたように目を瞬かせた。
そして、そっと目を細めた。
「あなた達を私のお家に案内するわよン!その後は……」
「……償うつもり、ですね」
「そうね。結果的に、ノアに重傷を負わせてしまったもの。罰は受けないとね♡」
エリザは手をパンと叩いた。
筋肉質な片足を曲げ、可愛くポーズを取る。
「それまでは、エクリプスのみんなのお世話をさせてもらうわね♡」
「なんでも言ってちょうだいねン」
エリザはレオンとハルトに向かってウインクを飛ばした。
二人は同時に顔を見合わせた。
「今、レオンにウインクしてたよな」
「いや、ハルト!お前にハートを飛ばしていたぞ」
二人のレオンはピンクな♡を譲り合っていた。




