短気は損気
ローストビーフに惹かれ、地下室を出る準備を始めるイヴとマキシム。
シュレッダーの音が延々と響き渡る。
「別にシュレッダーかけなくても縛ってゴミに出せばいいじゃん!」
「イヴ!お前のそういうとこが足りねえんだよ!」
「俺らがここで何やってたか丸わかりになるだろうが!」
「うっ……でも!」
インスタント生活が続いていたため、二人は短気になっていた。
些細な言い争いが勃発していた。
ユーミルはモニターを見つめる。
モニターの先では、りんごを頬張るノア。
「ノア、君は今どこにいるの?」
「僕は施設にいるよ。ここはセレスの研究室だよ」
レオンが怪訝そうに眉を寄せた。
「……そういえばセレスは?見えないようだが」
「セレスなら隣のベッドで寝ているよ」
ノアが正面のカメラを動かす。
横のベッドでは顔色の悪いセレスが目を閉じていた。
左右には点滴が繋がる。
「……セレス」
レオンは心の中で静かに謝罪した。
両手を合わせると、そっと目を閉じた。
「お、おい!レオン、それはだめだろ!」
マキシムがレオンの背中をバシッと叩き突っ込んだ。
びくともしなかった。
マキシムは叩いた手を押さえ、左右に振った。
「ユーミル、今日の夕方にハルトを派遣しようか」
「誘導を開始するんだね」
「ヒロの性格から察すると僕の遺言を発動させるのは明日。それまでユーミル達もこっちで身体を休めようよ」
「ヒロさんの護衛が必要になると言うことかな?エクリプスが乗っ取られた今、次に旧中枢が狙うとするならヒロさん。ヒロさんならアルヴァルトを揺することが出来る……人質としての価値が十分にある、ということだね」
「そういうこと」
ノアはもぐもぐと頬を動かす。
心の中で謝罪していたレオンが顔を上げた。
「施設に向かうより、サイラスの元に行くべきじゃないのか?」
「……エリザの家にいるんだろ。そいつを撃てば」
ノアは指をぺろりと舐める。
「残念ながら今日は旧中枢との歓迎会があるみたい」
「か、歓迎会!?」
「これからの計画が発表されるだろうね」
横からエリザがノアの口と指をタオルで拭き取る。
「なら、そこに乗り込んで……」
「レオン、言っただろ。戦闘は不要」
「だが、アルヴァルト……は良いとして、ヒロも危ない目に合う可能性が」
「うん。だから捕まえる」
ノアは手を伸ばす。
エリザが水の入ったグラスを手渡す。
一口こくりと飲み込む。
小さく喉が上下した。
レオンも息を飲んだ。
「……サイラスをか?」
「いや。捕まえるのは、ザビィ」
「はあ?」
レオンは拍子抜けした表情で立ち尽くす。
ユーミルがレオンの肩をトンと叩く。
「なるほどね。サイラスとの直接対決では、僕たちに勝ち目はないと言っていたね。ただし、時間稼ぎなら出来る……そういう事だろ?」
「うん。それに」
「ノアは優しいね。ザビィも僕たちと同じ施設の仲間だからね」
「ユーミル、人材は有限だよ」
ユーミルはクスリと笑い、口元に指を当てた。
「……そうだね」
「んもー!全部これ燃やしちゃえばいいじゃん!」
イヴのキンキン声が響く。
「だーかーら!重要書類の処分には決まりがあんだよ!」
「マキシムがペーパーレスに対応できないせいじゃん!」
「ゔっ、経理は基本は紙でだな……」
ブツブツとマキシムが呟く。
モニターに映るノアが目を瞬きさせる。
「奥に焼却炉があるよ」
「それを早く言え!」
「燃やせるならシュレッダーする意味なかったじゃん!」
ノアは黙り込んだ。
モニターが切り替わりAIのノアに変わる。
ノアは腕を組み、無言で見下ろす。
「お、おい!これくらいで拗ねんじゃねえ!」
「ノ、ノア……ごめんって!」
モニターがプツンと切れた。
壮大なクラシックミュージックと共に綺麗に皿に盛られたローストビーフがくるくると回る。
「……こ、こいつ飯テロしてきやがる!」
「お腹空いてきたんだけど!」
ノアの嫌がらせは、しばらく続いた。




