八千万の口説き文句かよ
ユーミルはこれまでのことを洗い浚い話をしていく。
AIのノアは腕を組み、うんうんと頷きながら話を聞いていた。
「……というわけで君のお世話係、ロデリックがサイラスと何らかの関係があると仮定しているよ」
ノアは組んでいた腕をおろし、両手を叩いた。
四人は首を傾げた。
カメラが切り替わる。
AIのノアから実物のノアへ。
入院着に身を包むノア。
襟元からは何重にも巻かれた包帯が覗く。
透き通るような青い目は肌の白さを一層引き立てた。
モニターを気怠そうに見つめる。
その姿は精巧な人形のように見えた。
「うん。正解だよ」
「お前!正解ってどういうことだよ!」
マキシムがノアを指差し声を荒げた。
ノアは少しだけ眉を下げる。
「……言い難いんだけど、それはもう聞いたから知ってたよ」
「ん?誰から聞いたんだ?」
首を傾げるマキシムを押しのけ、レオンが身を乗り出す。
マキシムは部屋の端に吹っ飛ばされた。
「そんな事はいい!ノア、ロデリックは殺すぞ。いいよな」
ノアはクスリと笑う。
横から聞き覚えのある声が飛び込む。
「酷いわねぇン。レオンちゃんってばぁ♡」
ノアの隣にガタイの良いピンクが映り込む。
病院のベッドが軋む音が響いた。
「ロデリック!お前……もうノアに……」
「いやぁん!その名前はノンノン♡ちゃんとエリザって呼・ん・で♡」
「な、なんなんだよ!こいつ」
マキシムがフラフラと立ち上がりながら、指をさす。
エリザはノアの頭を撫で、髪を掬う。
ノアの身体を引き寄せてモニターに向かってニヤリと口元を上げた。
「それじゃあ……食べちゃおうかしら♡」
「ッ……この、野郎!」
エリザは吹き出しながら笑うと、ノアの服を整えた。
「そんなことするわけないでしょっ」
「は?」
「この子は我が子同然よ!苦しめるヤツは許さないわよ……例え彼氏、だとしてもね」
「か、彼氏……!?」
監視室は色々な意味でヒヤリと冷えていた。
誰がエリザから詳細を聞くか目配せする。
みんな目を逸らした。
なんとなく聞きたくなかった。
ユーミルが小さく息を吐く。
「つまり、エリザさんの彼氏がサイラスってことかな?」
「あぁん♡エリザでいいわよ〜」
「……」
ノアは、楽しそうに口角を上げると口を開いた。
「サイラスは放浪癖がある美食家で、自分の舌が欲しがる場所に移動するんだよ」
「そうなのよン」
「ってことは、またどこかに行っちゃったってこと?」
イヴの顔色が青く変わる。
横目に紙の束の山が映り込む。
「いいえ、ウチにいるわよ?」
エリザは当然といった顔で答えた。
「は?」
監視室の四人は眉を寄せ、ノアを睨んだ。
ノアは嬉しそうに目を細めた。
「お、お前!俺が何時間かけて汚ねえ帳簿から探り出したと思ってんだよ!」
マキシムがテーブルを叩き、抗議する。
ノアはフッと笑いながら軽く謝る素振りを見せた。
「僕もさっき聞いたんだよ」
「すぐに言え!」
マキシムは頭をガシガシと掻き毟る。
「……じゃあよ、闇夜に咲く華って何だったんだよ」
エリザは画面に身を乗り出し、頬を染める。
「ロマンチックよねぇ♡サイラスって男はいつもそうなのよン……」
「き、聞くんじゃなかった」
「口説き文句だったみたいだね……」
ユーミルは小さく息を吐いた。
「ノア〜!りんご剥けたわよ♡」
エリザの声と一緒に皿に盛られたりんごが映り込む。
兎と薔薇の形に切られたりんご。
もはや芸術品だった。
ノアは兎のりんごをもぐもぐと咀嚼する。
頬が小さく動く。
「ん、まあそう言うことだから、みんなもこっちに来てもらってもいい?」
「今日のディナーは、ローストビーフにするわよ♡」
「行く!」
即決だった。




