八千三百四十二万三千九百八十七!
数字が並ぶ紙の束。
床にまで高く積み上がる。
「紙だらけなんですけど!」
イヴは眉を寄せて紙の束をトントンとまとめる。
「イヴ、そこの山はもう見たから処分していいぞ」
マキシムは書類から目を離さずに、イヴを顎で使う。
「なんか、腹立つんですけど!」
「まあまあ……集中しているマキシムは昔から態度が悪いことで有名でね。ノアにクレームが来て仕事部屋に隔離されていたんだよ。」
ユーミルがイヴを宥める。
「あっ!だからマキシムが働いてるとこ見たことなかったんだ!」
「うるせえな!聞こえてんだよ!」
マキシムは頭を掻きむしる。
「イヴ、暇してんならこれ調べてくれ」
渡されたのは、一枚の紙。
ズラリと会社の名前が並ぶ。
「何これ?」
イヴは眉を寄せながら目で文字を追う。
「それを調べんだよ!」
ちらりとユーミルが覗き込む。
「怪しい資金の流れがあった会社、だね。おそらく殆どがペーパーカンパニーだろうね」
「まっ、念の為ってとこだな」
マキシムは赤ペンを口と鼻の間に乗せた。
イヴは喉を小さく動かす。
ごくり。
静まる部屋に響いた。
「つまり、この中にサイラスがいるかもってこと?」
「ブフォッ……それはねえよっ!」
マキシムはゲラゲラと腹を抱えて笑う。
イヴはムッと頬を膨らませた。
「サイラスが会社に寝泊まりしてるってか?社畜かよ!」
「わ、分かってたし!冗談だもん!」
「嘘つけ!」
イヴはプイッと顔を背けるとPCに向かった。
「これらのペーパーカンパニーを通してサイラスと取引している可能性もあるからね。何社も間に挟んでるだろうから追うのは容易ではないだろうね」
「この帳簿を見る限り旧中枢側は、そこまで小細工出来なさそうだぞ。どうみても素人だ」
「だとしたらこれはチャンスだね。案外早くサイラスの居場所が特定できるかもね」
「よっしゃ!イヴ頑張れよ!」
「りょーかいっ!」
イヴはカタカタとキーボードを叩き始めた。
リストの最後の会社にキュッと赤ペンで線を引く。
イヴの口から溜め息が漏れた。
「全部ペーパーカンパニー……しかも旧中枢幹部の口座に流れてるだけ」
「横領、かな」
ユーミルは小さく息を吐き、髪をくるくると指に巻きつける。
「クソみてえな組織だな」
「エクリプスがまともってことだね」
「さすがノア!」
イヴはハッとしてジト目でマキシムを見つめる。
「マキシム……やってないよね?」
「はあ〜?」
「だってギャンブルばっかしてるし、いっつも負けてるし!」
「お前なあ!汚ねえ金じゃ勝てねえんだよ!俺は自分の稼ぎしかつぎ込んでねえ!」
「マキシムはそのために食費もギリギリまで削ってるからね。それに拠点に住んでたし」
「ばっかじゃないの?」
イヴとユーミルは冷たい目でマキシムを見下した。
「なんだよ!別に俺の金なんだから良いだろ!」
マキシムは眉間に皺を寄せ、また紙をイヴに渡す。
「ほ、ほらよ、次はこれだ!念入りに調べろよ」
「はーい」
マキシムの立場は一気に弱くなり、一回り小さくなった。
そう見えた。
イヴが一つ一つ会社をハッキングし内部情報を探る。
近隣のカメラを使って覗き見る。
「また空っぽなんだけど!……もう多すぎ」
イヴは段々飽きてきていた。
「次は、Elivelle Cosmetics Group?コスメ……化粧品の会社かな?」
カタカタとキーを叩く。
イヴは思わず立ち上がる。
「ユーミル!この会社ゴーストじゃない!」
ユーミルはイヴの隣に立つ。
「いかにも普通の化粧品メーカーって感じだけど、旧中枢との関連はなんだろう……」
ユーミルは髪をクルクルと指に絡めて弄る。
「会社のCEOは……ロデリック・ブラックウッド」
「くせえな」
マキシムが赤ペンを指の間で回す。
ギュッと握り直し、赤丸で囲んだ。
「ここがサイラスと関連してる。間違いねえ!」
「な、なんで?何か送金履歴とか?」
「ここへの送金は半年前に一度だけだ!」
「……それだけ?」
「俺の勘が言ってんだよ!ロデリック・ブラックウッドが一番怪しい!」
イヴは表情を無にした。
目を細めて、腕を組む。
「ねえ……名前の響きとかで決めてない?」
「ちげえって!本当に怪しいって!今回はまじ!」
ユーミルが小さく息を吐いた。
色付けされた帳簿に目を通し、指を指す。
「この会社への送金は一度だけ。何より不可解なのが送金の金額。八千三百四十二万三千九百八十七円」
「それだけじゃねえぞ!しかも次の日にエリヴェール・コスメティクスから返金があってよぉ!その金額が百十八万四千八百十円」
「全然意味わかんない!」
「僕も意味が分からないんだけど、おそらく数字の語呂合わせになっていて……83423987、ヤミヨニサクハナ」
「闇夜に咲く華!」
イヴが大きな声でリピートする。
「それで返事が、1184810、イイワヨ、ハート」
「なにそれ!?」
イヴは首を傾げた。
ユーミルは困ったように眉を下げた。
「だから意味は分からないけど……不審点はあるんだよ」
監視室は不思議な空気が漂う。
三人は顔を見合わせて静かに首を傾げていた。




