手詰まり待った無し
殺伐とした空気の監視室。
モニターには隣のビルの防犯カメラからハッキングした映像が流れる。
小さな純喫茶。
窓辺にはサイラスが見える。
「……ここが限界みたいだね」
「手っ取り早くペクのスマホをまたハッキングすればいいんじゃねえのか?」
「それは無理。さっき試したらセキュリティも書き換えられてた」
マキシムは小さく息を吐いた。
「すぐそこなのに打つ手無しかよ」
「ペクとサイラスがこの喫茶店を出た後が勝負ね!」
「どっちを追うんだよ。両方行けんのか?」
「……無理」
イヴは椅子をくるりと回し、ユーミルを見た。
「ユーミル、どっちを追う?」
ユーミルは白い髪の毛をくるくると指に絡ませる。
「サイラスを追うよ。イヴ、どのルートで動いても追えるように周囲を囲んで」
「了解!」
イヴは自分の頬をパチンと叩くと、カタカタとキーを叩き始めた。
マキシムはイヴの肩を軽く叩いた。
「イヴ!頑張れよ!」
「当たり前!……ノアのためだもん!」
ユーミルは、そっとモニターに背中を向けて髪の毛を弄った。
壁に寄りかかるレオンと目が合う。
「レオン、体は鈍ってない?潜伏中に弱体化しないようにね」
「そうだな。軽く動いておくか」
レオンは肩を鳴らしながら部屋を出て行く。
窓に映るサイラスが席から立ち上がる。
イヴの喉が小さく動いた。
「いよいよ、だな!」
マキシムがイヴの隣で身を乗り出す。
ペクとサイラスが扉へ向かう。
純喫茶の扉が開いた。
その瞬間──
バチィッ!
モニターの光が一斉に消えた。
「きゃぁああっ!!な、なに!?」
マキシムはイヴの大声に驚き、床に尻をついた。
「いっでぇぇ!」
「嘘っ!回線が強制的に切られてる」
「やっぱりか……」
ユーミルは小さく息を吐いた。
「やっぱりって何だよ!説明しろ!」
「……さっきのミスであちら側に情報が流れていたね。いや、最初から罠だったんだ。待ち合わせ場所を純喫茶にしたのも古い防犯カメラをハッキングさせるため。古い防犯カメラはアナログ電波を使用しているからね。秘匿性が低い。コチラの情報も筒抜けだったってことさ。」
「だ、だから何だよ!別にもう一度」
「マキシム。僕らの負け、だよ」
イヴはスウェットをギュッと握りしめた。
「この場所も危険かもしれない。いざという時のために逃走ルートを──」
ポタッ。
イヴの目から大粒の涙が零れた。
「アタシ……ノアのために、何にも出来ないの?」
声が少しずつ小さくなる。
「おい!ユーミル何かあんだろ!」
マキシムがユーミルの肩を掴み揺さぶる。
「……少し、考えさせて」
いつもの余裕が消えたユーミルは椅子に座り、足を組んだ。
目を閉じて髪をくりくりと弄る。
マキシムは頭をガシガシと掻き毟った。
「イヴ!お前ユーミルが何か思いつくまで休んどけ!なっ?」
「ハッキングはお前しか出来ねえんだから!」
イヴは、静かにコクンと頷く。
袖で涙を拭うと簡易ベッドに潜っていった。
静かになった監視室を汗だくのレオンが覗く。
「マキシム、お前は俺と来い」
「あ゛?今それどころじゃ」
「お前は何もしていなかっただろ」
「う゛っ!痛いとこ付きやがる」
「少しでも戦力になれ!」
レオンは問答無用でマキシムを肩に抱えどこかへ運んで行った。
マキシムの悲鳴が廊下に響き渡った。
荒い呼吸が地下に響く。
マキシムはレオンにしごかれていた。
「腕立て五十回!三セット!」
「もう、む、むりだっつの」
マキシムはぐったりと寝転んだ。
すでに汗だくになっていた。
「この機会にしっかりとした体をだな……」
レオンの口からは筋肉うんちくが止まらない。
ユーミルは監視室の扉をそっと閉めた。
しかし、次の瞬間。
バーン!
扉が勢いよく開く。
「ユーミル!助けてくれぇ!」
「この筋肉バカ、俺を殺す気だぞ!」
レオンはマキシムの肩を掴む。
「始めはキツイが、それがいつか喜びになる!」
「意味分かんねえよ!」
「すぐに分かるようになる!」
「分かりたくねえ!」
マキシムはレオンの手から逃れ、監視室を走り回る。
ユーミルは静かにイラついていた。
ユーミルが口を開こうとした。
その時。
ブゥゥゥン──
低い機械音が響く。
「うぉっ!なんだ?」
「あのボタン光ってたっけ?」
ユーミルが指さす先に赤く点滅するボタン。
「うるせえから取り敢えず、押すぞ」
「え?ちょっと待っ」
「見た目的にコレ、緊急停止ボタンだよな」
ユーミルの制止も聞かず、マキシムはボタンを押す。
ピタリと止まる音。
「やっぱな!俺の勘は冴えてんなあ」
モニターが一斉に起動する。
白く発光する。
「眩し!」
三人は、思わず目を細めた。
ザーッ。
ノイズ。
画面が揺れる。
古い映像のように乱れた。
映し出されたのは、椅子に座り脚を組む男。
青い瞳。
金色の髪が揺れる。
ゆっくりと腕を上げた。
「よっ」




