暴力は忘れ事に効く
薄暗い地下室。
監視室からはモニターの光が漏れる。
ユーミルはペクの監視を続けていた。
「動きはない、か」
後ろではイヴとマキシムが簡易ベッドと寝袋で寝息を立てる。
部屋の外では、オレンジ色の光が小さく灯る。
レオンがタバコの煙を吐く。
白い煙はゆっくりと昇って消えていった。
深く息を吐き、監視室の扉を開ける。
「レオン、珍しいね」
「……たまにな」
「僕たちの前で吸ったことなかったよね」
「そうだな。ステラがうるさいからな」
ペットボトルの水を一口含む。
「レオン、睡眠は取れる時に取らないと……」
「わかっている……今日は眠れそうになくてな」
レオンは目線を落とす。
「ノアのこと?サイラスのこと?」
「どっちも……だな」
レオンはフッと笑う。
昼間に開けた穴を指でなぞる。
パラパラとコンクリートのカケラが落ちた。
「サイラスだけでも思い出せたら良いんだけどね」
「……ああ。そうだな」
「レオン、僕も君を殴ってみようか?」
「ユーミルがか?」
「僕の力でも急所を突けば良い刺激になるんじゃないかな?」
「きゅ、急所?……まあやってみてくれ」
ユーミルは椅子から立ち上がり、グッと拳を作った。
そして、勢いよく拳を突き出した。
狙うのはレオンのこめかみ。
パァン。
叩きつけるような音。
ゆらりと膝をつくレオン。
焦るユーミル。
「ごめん。思ったよりうまく入っちゃった」
レオンは目を見開いていた。
頭を押さえ、ゆっくりと立ち上がる。
頭の中でモヤが一気に晴れていく。
昔見た、一枚の写真。
若かりしアルヴァルトとその隣に立つ一人の男。
写真に書かれた名前── Silas。
「お……した」
「え?……大丈夫?」
「思い出した!」
「本当?」
「ああ。サイラス……アルヴァルトの元相棒だ」
ユーミルは目を見開き、髪を指に巻く。
「アルヴァルトの元相棒ということはサンクチュアリの創設に関わる人物……これは僕たちでどうこう出来る話じゃなさそうだね」
部屋には不穏な空気が流れていた。
筋肉バカだけはスッキリした顔をしていた。
レオンは寝袋を引っ張り出し、中に潜り込んだ。
すぐに寝息が聞こえた。
「単純で逆に羨ましいな」
ユーミルは疎ましそうに呟いた。
先の見えない潜伏生活。
それでも容赦なく朝はやってくる。
イヴが目を覚まし、ユーミルと見張りを代わる。
カタカタとカメラをハッキングして渡る。
ペクは、護衛とズラリとテーブルに並べられた豪華な朝食を取っている。
「ペクのやつ、美味しそうな朝食食べてる……」
「俺らなんかカップ麺だってのによお」
「マキシム、プロテインも取れ!」
「うるせえな!飯がまずくなるだろ!」
マキシムは頭をガシガシと掻く。
その度に香るノアのコロン。
「こっちも朝から頭がバグるんだけど!」
賑やかな朝食だった。
「マキシム、今日から俺が鍛えてやる」
「あ゛ぁ?いらねえよ!」
「ユーミルのフックは中々効いたぞ!お前が今の所エクリプス最弱だ」
「何でだよ!こいつも最弱だろ!」
イヴを指差すマキシム。
イヴは冷めた目で乾パンを齧る。
「アタシは見張りで忙しいし!」
「……そういうことだ!」
「俺はぜってぇやらねえからな!」
マキシムの大声とイヴの笑い声が地下に響いていた。
「……みんな元気がいいね」
簡易ベッドに横になるユーミル。
眉間に皺を寄せ無理矢理に目を閉じていた。




