人の家の地下室で潜伏します
長い廊下からふんわりと石鹸の香りが広がる。
肩からタオルをかけたマキシムが上機嫌でやってくる。
「さっぱりしたぜぃ!」
イヴの前でくるりと回って見せた。
上品なコロンの香りが漂う。
「ちょっ!これノアのコロンでしょ!」
「アイツ良いもん使ってんなあ」
「やめて!イメージが崩れる!頭がバグる!」
「あ゛?」
言い合う二人の間をレオンがしれっと通過する。
「……俺は止めたからな」
「全然止めれてないじゃん!」
「お前も使えば良いだけだろ!」
「……え、いいの?」
イヴの口元がニヤニヤと歪んだ。
マキシムは嬉々として冷蔵庫に手を伸ばす。
缶ビールを手に取る。
「また飲むの?」
「ひと段落したんだろ?湯上がりのビールは別格だろ!」
カシュッ。
炭酸の音。
「くぅぅ!やっぱうめえ!」
「オヤジくさっ」
「うるせえ!」
騒ぐ二人を置いて、ユーミルはレオンに尋ねる。
「レオン、食料不足に陥っているんだけれど……地下に食べ物はある?」
チラリとダンボールに視線を移す。
「もちろん、アレ以外でね」
「……食ったのか?」
ユーミルはそっと目を逸らした。
レオンは軽く咳払いをすると向かいの部屋を開けた。
「簡単なものならここにあるぞ」
棚に整列するカップラーメン。
栄養ドリンクや缶詰。
そして、隣の棚を占領する大量のプロテイン。
「タンパク質は必須だからな」
「何も言及していないけど……」
なぜか誇らしげに胸を張るレオン。
上腕二頭筋に話しかけるかのようにそっと撫でる。
ユーミルはそっと見ないフリをした。
「これで食料も問題なし。暫くは潜伏出来そうだね」
「潜伏?外行かねえのか?今週末の注目レースが」
ユーミルは小さく息を吐いた。
「マキシム、もう僕達に護衛はついていないんだ。下手な行動は謹まないと、他のメンバーの足手まといになるよ」
「……仕方ねえ。俺のポリシーに反するが、ネットで買うか」
「もうギャンブルやめなよ!」
イヴは冷めた目を向ける。
完全に軽蔑していた。
カチッ。
「お湯沸いたぞ」
電気ケトルで沸かしたお湯を並べたカップ麺に注ぐ。
静かな食卓だった。
みんな、腹が減っていた。
麺を啜る音が地下に響き渡っていた。
テーブルの上にはカップ麺の容器が積み上がる。
「はあ〜、食った食った!」
マキシムは残った缶ビールを一気に飲み干す。
ガサガサと空の容器を袋にまとめるイヴ。
レオンが気まずそうに口を開く。
「イヴ、お前はどうして俺を騙したんだ……?」
イヴの肩がビクッと跳ねた。
睫毛が小さく揺れ、目線が落ちる。
「……それは、電話がきたの」
「レオンを拠点に連れてこなければ、ニコを殺すって」
ユーミルが顎に手を置いた。
「ザビィから?」
「分からない、けど……ハッキングしてもニコを殺すって」
「ノアにとって最悪の一手だったわけか」
「アタシは、レオンならまとめてやっつけてくれるし!って思ってたら敵側についちゃうし……」
「……悪かったな」
一瞬、静かになる部屋。
「まあ反省会はこのくらいにして、監視の順番を決めて休もうか」
「ユーミル、アタシ先にシャワー浴びたい!」
「そう。じゃあ今日は僕が見張るよ」
イヴは、立ち上がり廊下へ向かう。
「イヴ、タオルの横に着替えもあったぜえ!」
「ああ、ノアのやつだな」
「の、ノアの!?……い、い、いやぁぁぁああ!!」
イヴの歓喜の奇声が地下に響き渡った。
「期待してるとこ悪いが、新品のやつだ」
「……べ、別に期待してないし!バカレオン!」
「なんでだよ!」
レオンは理不尽さを感じていた。




