取引先の誕生日の把握は重要らしい
並ぶモニター。
赤い円で囲まれる地図とカレンダーが映し出される。
レオンは目を閉じて椅子に座っていた。
ブツブツと呪文のように呟き続ける。
「サイラス……サイラス……」
まだ思い出せていなかった。
マキシムは汗だくになり、イヴもユーミルもレオンをとっくに見捨てていた。
カタカタとキーを叩いていたイヴが顔を上げた。
「よし!見つけたぁ」
モニターに映るのは、高級ホテル。
数人の護衛に囲まれ、警戒した様子で中に入っていった。
「良い身分だな」
レオンは睨みつけるように目を細めた。
完全に八つ当たりだった。
「ここで今日は滞留かな。イヴ、カレンダーの他の日も確認したいな。出せる?」
「はいはーい」
カチカチッ。
マウスの音。
モニターに映し出されるカレンダーの予定一覧。
ぎっしりと並ぶ。
『birthday』の文字。
「名前は……旧中枢のやつらだな」
レオンは腕を組む。
「……なるほど。仕事相手の誕生日まで管理か、ペクは実直な人物みたいだね。そうするとサイラスは今回の騒動の鍵、か……可能性が出て来たね」
「何でだよ!たまたま友達の予定かもしんねえだろ」
「ここまで仕事に打ち込む人間がターゲット処刑の次の日にプライベートな予定は入れないんじゃないかな?予定を入れるとするなら重要な用件。例えば、次の指示を仰ぐ時……とかね」
一斉にレオンに向く一同。
レオンはピクリと肩を動かした。
「……とりあえず、今日はもう遅いから休もうか」
ユーミルは両手を上げて伸びをする。
「サイラスは気になるけど、明日の予定ということは接触はこれから。イヴがペクの足取りを掴んでくれたし、じきに判明するよ」
「……悪い」
レオンはガックリと項垂れた。
「なあ、お前ん家の風呂貸してくんねえか?」
汗だくのマキシムがレオンの肩に手を置く。
上を指さす。
「それはやめた方がいいね」
「は?何でだよ!風呂くらいいいだろ?」
「ノアの主人は、今はまだ一般人だからね。巻き込むのはよくない。ノア自身もそれを望まないだろうしね」
「俺は汗くせえままかよ」
マキシムはガックリと肩を落とした。
「風呂ならあっちにあるぞ?シャワールームだが」
「早く言えよ!」
「えーアタシもシャワー浴びたーい!」
「俺が先だ!」
汗だくのマキシムはレオンの背中をバシバシと叩き、レオンを立たせる。
「レオン!風呂に入ったらあっさりと思い出すかもしれねえぞ!」
「……今は、それに賭けるしかないな」
「ユーミルも行こうぜ」
「僕は後で行くよ。ペクに動きがないか誰か見てないといけないしね」
レオンは、マキシムを連れてシャワールームに向かった。
「イヴも少し休もう」
「うん。ありがと」
イヴは椅子から立ち上がるとグイッと体を伸ばす。
「いたたぁ!ずっと座ってたから固くなっちゃった」
ユーミルはクスッと笑うと冷蔵庫を開けてジュースを二本取り出した。
イヴに一本を差し出した瞬間。
ぐぅぅう……。
腹の虫が鳴いた。
イヴは真っ赤になりお腹を押さえる。
「ち、違くて!安心したらお腹空いてきちゃって」
「そう言えば暫く食べていなかったね。何か食料も確保しておかないと」
ユーミルは、キョロキョロと辺りを見回す。
部屋の端に積み上がる茶色いダンボール。
箱を開くと銀色の包み。
「何だろこれ。……携帯食かな」
袋を破き、ブロック状の固形物を手に持つ。
「イヴ、食料らしきものがあったよ」
「ユーミル、それノアの非常食!」
「なら、これで食料問題は解決かな」
「ユーミル、だめっ!」
イヴは危険物からユーミルを守るために手を伸ばす。
しかし、イヴの制止も意味なく、ユーミルの口に運ばれていく。
イヴにはスローモーションに見えていた。
……仲間を救えなかった。
ポリッ。
一口齧る。
「……」
「……」
「ユーミル?」
「……食料を探そうか」




