天才ハッカーは褒めて使え!
パラパラとコンクリートのカケラが落ちる。
小さくなったマキシムは力なく壁にもたれかかった。
ストンと尻をつく。
「……おい!これ、もし当たってたら」
「死んでたな」
サラッと言う筋肉の塊。
イヴはマキシムを指差し、腹を抱えて笑う。
イビキの恨みを晴らしていた。
ユーミルはペクの位置情報を見ながらくるくると髪を弄る。
「……気付かれたかな。さっきから位置情報が動いていないね。相手側にもそれなりの腕のハッカーがいるってことかな」
「えっ?」
イヴは慌てたようにカタカタとキーを叩く。
地図が映るモニターに文字が浮かび上がった。
『ERROR』
「嘘……位置情報が消された?」
「スマホの電源が切られたとかか?」
マキシムが立ち上がり椅子を引く。
イヴはカタカタとキーを叩き続ける。
顔色は焦りが滲む。
「違う。スマホの情報そのものが丸ごと書き換えられた……」
「なるほどね。相手はかなり強引な手を打ってきたね」
「アタシが……負けた……?」
イヴは背もたれに沈み、白くなり燃え尽きた。
「この先は、取り出せた情報で判断していくしかないね」
モニターに映し出されたのは、着信履歴とカレンダーそして過去となった位置情報。
「イヴ。ほら、落ち込むのは後にして解析しよう。僕たちには君しかいないんだから」
「……アタシしかいない?」
「そうだよ」
「おう、イヴ!お前、ノアの彼女なんだろ!こんな事で挫けんじゃねえ!」
マキシムは、どうにやる気を出させようとイヴを鼓舞する。
「よっ天才ハッカー!」
「ノアの嫁!」
「喋らなかったら良い女!」
「しゃべ!?」
イヴの顔がニヤニヤと歪み始める。
イヴは元気良く立ち上がる。
パタン。
椅子が後ろに倒れた。
「よぉーし!ペクの隅々までハッキングしてやるんだから!」
手でグーを作り、上に持ち上げポーズを取った。
レオンは、倒れた椅子を戻しながらイヴを座らせた。
「イヴ!頼むぞ!」
「ガッテン!」
カタカタとキーを叩く音がまた始まった。
「最後の位置情報からそこまで遠くには行ってないっしょ!カメラで追ってやる!」
「あ、ユーミル!非通知の解析終わってるよ」
ターン。
ENTERキーの音。
モニターの一つに非通知の解析が並ぶ。
地図には赤い円が複数浮かぶ。
どれも同じ場所を指していた。
「これは旧中枢の拠点だね。とすると奴らは旧アジトから生配信を見てたってことになるね。爺達は僕らを警戒して出てこれなかったのかな?」
マキシムは小さく舌打ちをする。
「チッ、肝の小せえ野郎どもだな!」
「長いことノアに玩具にされてたからな。恨みも深いんだろ」
レオンは小さく息を吐いた。
ユーミルがふと顔を上げ、指さす。
「イヴ、このカレンダー開いて。何か予定が入ってるみたいだよ」
血眼のイヴがカチカチとモニターに映し出す。
明日の予定に一言。
『Silas』
「サイラス……?」
「誰だ、それ?」
レオンが腕を組み、目を閉じた。
「どこかで聞いたような……」
レオンは眉間に皺を寄せる。
「……だめだ。思い出せない」
マキシムがバシバシとレオンの背中を叩く。
「レオン!お前、普段からちゃんと頭使え!意地でも思い出せ!」
レオンは椅子に座り頭を抱え込む。
「すぐここまで来てるんだが……マキシム!俺を殴ってくれ!」
「何でだよ!」
「何か思い出せそうな気がするんだ」
「……絶対やり返してくんなよ?」
「善処する!」
マキシムがレオンを叩き続ける音が地下に響いていた。
ぺしっ。
ぺちっ。
「はあっ、はぁっ、……どうだ!思い出せたか?」
「まだだ!続けろ!」
マキシムだけが汗だくになっていた。




