悪趣味な部屋へようこそ
顔を洗ったイヴは、意気揚々と自分の部屋に向かうが、廊下には見覚えのない男たちが彷徨う。
「……アタシの部屋監視されてる」
「俺ら幹部まで監視対象ってことかよ」
マキシムが頭をガシガシと掻く。
「ユーミル、どうしよう……」
ユーミルはくるりと丸まる髪の毛をクリクリと指先でいじった。
「この建物内で監視が寄りつかない場所が一つ。だけど、正直僕もあまり行きたくないんだよね。だって、意味がわからないし、言っちゃ悪いけど悪趣味だろ──」
「ノアの部屋!」
「……アイツの部屋か!」
イヴとマキシムの声が被る。
ほぼ同時だった。
「ノアの部屋ならPCも環境も揃ってるはず!」
「決まりだな」
マキシムがイブとハイタッチする。
レオンが眉を寄せ小さくぼやく。
「俺は……どうすればいい」
「決まってんだろ!お前は俺らを守れ」
「そうそう!レオンが側にいれば安心じゃん!」
レオンは小さく息を吐いた。
バシバシとマキシムがレオンを叩く。
ユーミルは三人から一歩下がる。
「じゃあ、僕はここに残ってザビィの側にいるよ」
「なんで?一緒に……」
「皆んなが居なくなったら怪しまれるよね。それに……君たちは嘘が下手すぎて、僕の足を引っ張るから居てもらわない方が助かるよ」
さらっと侮辱するユーミル。
「うるせえな!じゃあ俺らで行くぞ」
「何か見つけたら連絡して」
ユーミルはくるりと踵を返し廊下をスタスタ進み消えていった。
「イヴ、怪しまれないようにお前は泣いたフリしろ」
「えっ……」
長く続く廊下。
床には赤い絨毯が続く。
戦闘の跡が残る場所で、イヴの奇声が響いていた。
「う、うう、うえーん!うえっうえーん!」
「うわあん!うえーん!」
廊下にいる見張りたちが不思議そうに見つめる。
マキシムがイヴに耳打ちする。
「おい!イヴもっと上手くやれよ!」
「や、やってるし!」
レオンが見張りをギロリと睨みつける。
見張りはすぐにどこかへ早足で立ち去った。
「レオンお前使えるじゃねえか!」
「さすが最強!」
レオンは少しだけ眉を落とした。
「ほら、そこの部屋だ」
他の部屋とは違う扉。
彫刻の彫られた把手に手をかける。
鍵は開いていた。
「……開いてる?」
「普段から開いてるぞ。この部屋」
「えっ?セキュリティがばがばじゃん!」
「誰も入らねえからな」
ギィィッ。
嫌な音を立てて開く扉。
入り口のすぐ横にある電気をつける。
そこは、白い部屋。
壁も天井も白く見えた。
壁と天井には石膏で出来た人の顔が敷き詰められていた。
床にも高く積み上がっている。
「……いつ見ても悍ましいな」
「おえっ……これデスマスクってやつか?」
「いや、見知った顔もあるな。まだ生きてるやつだ」
腕を組み、壁を見回すレオンと居心地悪そうに背中を丸めるマキシム。
イヴは、キョロキョロと目当てのPCを探す。
「ちょ、ちょっと待って!この部屋何もなくない?」
部屋を見回すが、石膏以外何もない。
「おい!これ……」
マキシムが積み上がった石膏を一つ手に取る。
どう見てもレオンだった。
「……こっちのって」
その下にはイヴ。
さらに下にはマキシム。
「き、気持ち悪い!」
「なんだよ、これ」
そして、その下には小さな把手。
「地下室があるの……?」
「アイツが好きそうだな」
レオンはフッと目を細めた。
三人は床に置かれた石膏を避け、床下を開く。
そこには階段が続いていた。
下からは風が流れ込む。
イヴの長い髪が揺れる。
ゴクリと喉が動いた。
階段の先は真っ暗でなにも見えない。
マキシムの表情が歪んだ。
後ろに数步下がり、二人の様子を伺う。
「おい、ど、どうする?」
「もちろん行くでしょ!ね?レオン」
イヴとマキシムはレオンの背中をぐいっと押した。
レオンはびくともしなかった。
「何かあかりはないか?」
レオンが軽く見回し、そして目を細めた。
レオンの石膏の後ろに懐中電灯が埋め込まれていた。
「準備良すぎて怖いんだけど!」
イヴも自分の石膏の後ろから埋め込まれた電灯を取り出す。
カチャ。
簡単に外れた。
「俺、やっぱ……」
「はい!マキシムの分!」
イヴはマキシムに懐中電灯を持たせると、逃げ出さないように服の裾を握った。
「行くぞ」
三人は地下へ続く階段を降りていった。
そっとイヴが扉を閉める。
石膏だらけのノアの部屋。
照明は静かに消え、沈黙だけが残った。




