不穏フラグは割とすぐに回収される
「え……」
イヴの戸惑った声が部屋に響いた。
しばらく部屋の入り口に立ち尽くす。
何かの見間違いかと思った。
だが。
何度見ても部屋の中には誰もいない。
「ニコ?」
小さく呼ぶ。
返事はなかった。
ベッドはそのまま。
昨日脱いだ服も置かれている。
「ニコ?」
もう一度呼ぶ。
やはり返事はない。
イヴは慌てて部屋を飛び出した。
下の部屋へ向かう。
ドンドンッ!
勢いよく扉を叩く。
「レオン!」
「レオン!」
何度も呼ぶ。
しばらくして扉が開いた。
寝起きらしいレオンが顔を出す。
「どうした」
「ニコがいない!」
レオンの目が細くなる。
「は?」
「部屋にいないの!」
イヴは半ば叫ぶように言った。
「起きたらいなかった!」
レオンは無言のままニコの部屋へ向かう。
イヴも続く。
部屋の中を見回す。
数秒。
レオンの表情が変わった。
「電話は」
「まだ」
「掛けろ」
イヴは慌ててスマホを取り出す。
ニコへ発信する。
呼び出し音。
数回鳴る。
その直後。
部屋の机の上から着信音が聞こえた。
二人の動きが止まった。
視線を向ける。
机の上。
ニコのスマホが震えていた。
イヴの顔色が変わる。
「なんで……」
レオンはスマホを手に取る。
画面を見る。
そして舌打ちした。
「財布は」
イヴが机を探る。
「ある」
鞄もある。
鍵もある。
出掛けるなら持っていく物ばかりだった。
レオンはスマホを握り締める。
「探すぞ」
短く言い残し部屋を出る。
イヴも後を追った。
それからしばらく。
二人はアパートの周辺を探し回った。
駅。
コンビニ。
公園。
ニコが立ち寄りそうな場所を片っ端から回る。
だが見つからない。
連絡もない。
やがてヒロもサクラと共に駆け付けた。
アパートの中は慌ただしくなる。
「どうなってる」
ヒロが聞く。
「分かんない」
イヴの表情はどんどん硬くなっていた。
レオンも落ち着かない様子だった。
「どこ行ったんだよ……」
イヴが小さく呟く。
返事はない。
その時だった。
スマホの着信音が鳴る。
イヴのスマホだった。
全員の視線が集まる。
知らない番号。
嫌な予感しかしなかった。
レオンが短く言う。
「出ろ」
イヴは小さく頷いた。
震える指で通話ボタンを押す。
「もしもし」
部屋の空気が張り詰める。
イヴは黙ったまま相手の話を聞いていた。
「……ニコ?」
ヒロが顔を上げる。
イヴの表情が変わる。
生きている。
そう直感した。
「待って」
「本当に?」
「どこ?」
短いやり取りだった。
やがて通話が切れる。
静寂。
誰も先に口を開かなかった。
「なんだ」
ヒロが聞く。
イヴはスマホを握りしめたまま答えた。
「ニコは生きてる」
レオンの肩から少しだけ力が抜けた。
だが。
安心できたのは一瞬だった。
「一人で来いって」
空気が凍る。
レオンが立ち上がる。
椅子が大きな音を立てた。
「場所は」
低い声だった。
イヴが指定された場所を答える。
「待て」
ヒロが声を掛ける。
「相手が誰かも分かってねえんだぞ」
「だから何だ」
レオンは振り返らない。
「ニコがいる」
それだけだった。
そのまま玄関へ向かう。
靴を引っ掛けるように履く。
扉を開ける。
「おい!」
ヒロが呼び止める。
レオンは一瞬だけ足を止めた。
「探してくる」
短く言い残す。
そして走り出した。
階段を駆け下りる音が遠ざかっていく。
「アタシも行く」
イヴも立ち上がる。
「待てって!」
ヒロが止める。
「待てるわけないでしょ!」
イヴはヒロを睨んだ。
「ニコがいるんだよ!」
ヒロは言葉に詰まる。
イヴはスマホを掴んだ。
そしてレオンを追い掛けるように部屋を飛び出した。
扉が閉まる。
急に静かになった。
残されたのはヒロとサクラだけだった。




