花火は人に向けて打つな
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
バーベキューを終える頃には、空はすっかり夕焼け色に染まっていた。
海の向こうへ沈んでいく太陽。
波の音も昼間より穏やかに聞こえる。
イヴは大きく伸びをした。
「食べたー!」
ニコも満足そうに頷いている。
サクラは片付けを進めながら微笑んだ。
「花火をしましょうか」
イヴが即座に反応する。
「やる!」
元気だった。
しばらくして。
砂浜には小さな火が灯り始める。
手持ち花火。
線香花火。
袋いっぱいの花火が並んでいた。
「見て見て!」
イヴが楽しそうに花火を振り回す。
「危ないから振るな!」
ヒロが止める。
「当たらないって!」
「そういう問題じゃねえ!」
いつものやり取りだった。
その時。
ノアが花火の袋を漁る。
何かを見つけたらしい。
「義姉さん」
ミラが顔を向ける。
ノアは一本の花火を掲げた。
「飛ぶやつです」
ロケット花火だった。
ミラの目が少しだけ向く。
「……飛ぶやつ」
二人は顔を見合わせた。
嫌な予感しかしなかった。
ヒロも気付く。
「おい」
レオンも気付く。
「待て」
ノアは砂へロケット花火を突き刺した。
向きがおかしい。
明らかにおかしい。
その先にはレオンがいた。
「お前それ俺向いてるよな?」
「え?」
「え?じゃねえ!」
シュボッ。
火が付く。
レオンが砂浜を走った。
次の瞬間。
ヒュルルルルッ!
ロケット花火が飛ぶ。
レオンの脇を通り過ぎて海へ消えた。
「危ねえ!」
「……なかなか難しいな」
ノアは満足そうだった。
ミラも小さく頷く。
「……惜しい」
「惜しくねえ!」
ヒロが叫ぶ。
ミラもロケット花火を手に取る。
レオンの顔が引きつった。
「やめろ」
ミラは答えない。
黙って花火を設置する。
向きは完璧だった。
レオンへ向いている。
「絶対わざとだろ!」
火が付く。
ヒュルルルルッ!
レオンが全力で逃げた。
ロケット花火が追いかける。
「なんで追ってくるんだよ!」
砂浜を走るレオン。
追うロケット花火。
大笑いするイヴ。
「お兄ちゃん……」
ニコが眉を下げて見守る。
頭を抱えるヒロ。
サクラは静かに予備のロケット花火を回収していた。
慣れていた。
「お前ら!」
ヒロが怒鳴る。
「花火はそういう遊びじゃねえ!」
ノアとミラは顔を見合わせた。
「「違うの?」」
完全に同じ反応だった。
ヒロは遠い目をした。
「お前らこっちにしろ!」
ヒロが線香花火を差し出す。
レオンが線香花火に火をつける。
異様に真剣だった。
風向きを確認し、姿勢を整える。
「お前また本気になってんのか」
ヒロが呆れる。
「落としたら負けだ」
「競技じゃねえぞ」
レオンは答えない。
勝負はすでに始まっているらしい。
ミラも線香花火を持っていた。
じっと火花を見つめている。
レオンがちらりと見る。
ミラも見る。
沈黙。
嫌な予感しかしなかった。
「義姉さんもやってるんですか?」
ノアが聞く。
「……レオン泣かす」
レオンの目が細くなる。
「負けねえ」
「だから何の勝負だよ」
ヒロは頭を抱えた。
線香花火対決が勝手に始まっていた。
イヴは真っ先に落とした。
「あっ」
終了。
ニコも笑いながら落とした。
「難しいね」
サクラも途中で消える。
残ったのは二人だった。
レオン。
ミラ。
無駄に真剣だった。
周囲まで静かになる。
ぱちぱちと火花が散る。
レオンは微動だにしない。
ミラも動かない。
まるで決闘だった。
やがて。
レオンの線香花火が落ちた。
ぽとり。
砂へ落ちる。
「くっ……!」
悔しそうだった。
ミラの火はまだ残っている。
数秒後。
ようやく消えた。
勝者。
ミラ。
沈黙。
ミラはレオンを見る。
そして小さく言った。
「……勝った」
レオンは眉をひそめる。
「だから何にだよ」
ミラは少し考える。
それから。
「全部」
「雑すぎるだろ!」
ヒロがツッコんだ。
そんな騒がしい声を聞きながら。
海の向こうでは太陽がゆっくり沈んでいく。
ミラは夕日を見つめる。
しばらくして。
ぽつりと呟いた。
「……海、楽しかった」
ノアが隣で頷く。
「それは良かった」
ミラは水平線を眺めながら続ける。
「また来たい」
「じゃあまた来ましょう」
ノアは自然に答えた。
そこへヒロが口を挟む。
「俺抜きで頼む」
即答だった。
ミラはヒロを見る。
「だめ」
「なんでだよ!」
「ごはん」
最後まで理不尽だった。
波の音に笑い声が混ざる。
騒がしくて。
少しだけ平和な一日だった。




