スイカ割りって命懸けだったのか
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
サクラは発泡スチロール箱を持ち上げた。
「軽く下処理してきますね」
「別に今じゃなくてもいいだろ」
ヒロが言う。
サクラは微笑んだ。
「食材は鮮度が命ですから」
「お、おう」
妙な説得力があった。
サクラは数歩歩いたところで振り返る。
「そういえば、スイカが冷えてますよ」
「スイカまで準備してたのか」
ヒロが驚く。
イヴの目が輝いた。
「ヒロ!」
「どうせならスイカ割りでしょ!」
「おっ、いいな」
ニコも賛成する。
ミラは首を傾げた。
「……スイカわり?」
「やったことねえのか?」
ヒロが聞く。
ミラは小さく頷いた。
「ない」
「じゃあやるか」
するとイヴが勢いよく手を挙げる。
「アタシお手本やる!」
目隠しをされ、棒を握る。
「右!」
「左!」
「真っ直ぐ!」
周囲から好き勝手な声が飛ぶ。
イヴが困惑した。
「ちょっと待って!」
「なんでみんなバラバラなの!?」
ニコが笑顔で手を振る。
「イヴちゃん頑張れ!」
「ニコ方向教えて!」
「頑張れー!」
「方向!」
イヴが叫ぶ。
勢いよく棒を振り下ろした。
ゴッ。
スイカの横をかする。
「おしい!」
「イヴ、もっと腹に力を入れろ!」
レオンが棒を受け取る。
「次は俺だ」
目隠しをされる。
「じゃあ行くぞ」
「真っ直ぐ!」
「もう少し右!」
「……レオン消す」
「なんか怨念混じってんぞ!」
レオンが反応した瞬間だった。
思い切り棒を振り下ろす。
スイカは無事だった。
代わりに砂が爆発した。
大量の砂がミラへ降りかかる。
沈黙。
砂だらけのミラがレオンを見る。
そして静かに中指を立てた。
「なんでだよ!」
レオンが叫ぶ。
「……私やる」
ミラがどこからか棒を取り出す。
目隠しをする。
数秒後。
棒の鞘を抜く。
太陽の光に輝く日本刀。
「待て」
ヒロが思わず口を開く。
「なんでそうなる」
ミラは答えない。
ゆっくりとレオンの方へ歩き出した。
「おい!方向逆だぞ!」
ヒロが言う。
ミラは止まらない。
「レオン、殺す」
レオンが後退る。
「見えてるよな?」
「見えてない」
即答だった。
ミラが日本刀を振るう。
レオンが慌てて飛び退く。
「誰か止めろ!」
ヒロが叫ぶ。
「義姉さん、振るのは一回ですよ」
ノアがのんびり言った。
ミラは動きを止める。
「……あと少しだった」
刀を鞘へ戻す。
そのままノアの隣へ座った。
「次ノアやるか?」
ヒロが振り返る。
ノアはパラソルの下で酒を飲んでいた。
「僕はいい」
「なんでだよ」
「今いいかんじだから」
缶を振って見せる。
ヒロはため息を吐く。
「じゃあ俺がやる」
普通の棒を受け取る。
目隠しを巻く。
イヴが腕を組んだ。
「そろそろ割ってよ!」
「任せろ!」
ヒロは胸を張った。
「右!」
「左!」
「そのまま!」
また指示はバラバラだった。
ヒロは直感を信じて進む。
そして。
思い切り振り下ろした。
ゴッ。
鈍い音が響く。
目隠しを外す。
スイカが綺麗に割れていた。
「おおー」
拍手。
終わりだった。
「反応薄くない?」
ヒロが不満そうに言う。
「普通だったし」
イヴが答える。
「普通が一番大事なんだよ!」
しばらくして。
全員がパラソルの下へ集まった。
「……待って」
ミラが立ち上がる。
「何する気だ」
ヒロが聞く。
ミラは答えない。
砂浜へ置いていた棒を拾い上げる。
カチッ。
鞘が外れる。
現れたのは、さっきの日本刀だった。
「まだ持ってたのかよ!」
ヒロが叫ぶ。
ミラは静かにスイカの前へ立つ。
刀を構える。
一閃。
風を切る音だけが響いた。
誰も声を出さない。
数秒後。
割れたスイカが綺麗な三角形へ切り分けられていく。
大きさは均等。
切断面も美しい。
まるで職人技だった。
「おおー!」
今度は歓声が上がる。
イヴが目を輝かせる。
「すごーい!」
ニコも拍手した。
「綺麗!」
ノアは缶ビールを持ったまま微笑む。
「流石、義姉さん」
ミラは刀を鞘へ戻した。
満足したらしい。
ヒロは切り分けられたスイカを見る。
そして周囲を見る。
自分が割った時より盛り上がっていた。
「俺が割った時より反応良くない?」
誰も否定しなかった。
ミラはスイカを一切れ持ち上げる。
「……食べる?」
そこだけは普通だった。




