奴隷を海に放ったら俺の夏が始まった
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
港から戻ってきた頃には、ヒロはすっかり疲れ切っていた。
対照的にレオンは機嫌が良い。
「いい運動だったな」
「捜索を運動扱いすんな」
ヒロが呆れる。
視線の先では、ノアがパラソルの下でサクラと談笑しながら酒を飲んでいた。
完全にくつろいでいる。
「なに楽しそうに酒飲んでんだよ」
ノアは缶を軽く振った。
「三本目」
にこりと笑う。
ヒロとレオンの視線が交わる。
無言で頷いた。
次の瞬間。
ヒロが両腕を掴み、レオンが両脚を持ち上げる。
「え?」
ノアが固まった。
「待て」
「やめろ」
「話し合お――」
振りかぶる。
「行ってこい!」
ノアの身体が宙を舞った。
盛大な水しぶきが上がる。
ヒロは手を払う。
少しだけ気分が晴れた。
だが。
「あいつ上がってこないぞ」
レオンの言葉に顔を上げる。
海面には波しか見えない。
「……は?」
数秒。
十秒。
まだ出てこない。
「もしかしてカナヅチか?」
「そんなわけあるか!」
言いながらヒロも不安になった。
二人は慌てて海へ飛び込む。
潜ろうとした瞬間、水面からノアが顔を出した。
「お前泳げんのかよ!」
「あ、うん」
返事は返ってきた。
だが視線は別の場所に向いている。
ノアの両手には貝。
片方にはヒトデまで握られていた。
そのまま岸へ上がる。
砂浜へ座る。
観察を始める。
「……面白い」
完全に夢中だった。
レオンがため息を吐く。
「ああなったら動かないぞ」
「知ってる」
ヒロも頷いた。
興味を持ったら終わり。
昔から変わらない。
「じゃあ俺らも遊ぶか」
「そうだな」
レオンが立ち上がる。
サクラが飲み物を差し出した。
「水分補給してくださいね」
「おう」
冷たいスポーツドリンクが喉を通る。
ようやく海らしいことができそうだった。
海の中ではイヴとニコが楽しそうにはしゃいでいた。
「ヒロさーん!」
ニコが大きく手を振る。
直後。
大量の水が飛んできた。
「うおっ!」
犯人はイヴだった。
「やったー!」
「お前らな!」
反撃しようとしたところで、レオンが海へ入ってくる。
「ニコ!」
「なあに?」
「俺にもかけてくれ!」
真顔だった。
ヒロは思わず振り返る。
「なんかヤバいやつみたいだぞ」
「違う」
レオンは即答した。
「平等にしてほしいだけだ」
「なんでだよ!」
ニコは困ったように笑う。
イヴは腹を抱えて笑っていた。
しばらく遊んだ後。
ヒロが手を叩く。
「そういやビーチボール持ってきてたな」
イヴの目が輝いた。
「やりたい!」
「私も!」
「じゃあ取ってくるか」
一同は海から上がる。
パラソルの下ではサクラがのんびり過ごしていた。
「サクラ」
「ボール取りに来た」
「空気を入れておきましたよ」
差し出されたのはスイカ柄のビーチボールだった。
「助かる」
ヒロが受け取る。
「さすがだな」
サクラは少し照れたように微笑んだ。
「サクラもやらないか?」
「私はここで見ています」
「そっか」
ヒロは頷く。
そこでふと周囲を見回した。
「……ノアは?」
サクラが海を指差す。
「もっと探してくるそうです」
「ああ」
納得しかなかった。
ヒロは沖を眺める。
姿は見えない。
嫌な予感はした。
だが、考えるのをやめた。
どうせ止まらない。
「よし、遊ぶか!」
「やったー!」
イヴが飛び跳ねる。
ニコも笑顔で頷いた。
レオンはすでに構えている。
こうしてヒロは、ようやく海を楽しむことにした。




