レンタカーは保険が効いてます
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
レンタカーの前。
荷物を積み込み終えた一同は、それぞれ車へ乗り込んでいた。
後部座席ではニコが大きな袋を抱えている。
「おやついっぱい買っちゃった」
嬉しそうだった。
イヴが袋の中を覗き込む。
「ちょっと待って」
「座席一個埋まってるじゃん」
「詰めて乗れよー!」
ヒロが叫ぶ。
完全に引率の先生だった。
ニコとイヴが慌てて荷物を整理している間に、ノアはミラを車へ案内する。
「義姉さん」
「窓側どうぞ」
ミラは小さく頷いた。
「うん」
満足そうだった。
たぶん。
無表情なので分からない。
全員が乗り込む。
ヒロは最後に車内を見回した。
「シートベルトつけろよ!」
「レオン、安全運転で頼むぞ!」
運転席のレオンが頷く。
「善処する」
「頼むぞ」
ヒロは念を押した。
車は海へ向かって走り出した。
最初のうちは順調だった。
だが十分も経たないうちに渋滞へ捕まる。
前を見ても後ろを見ても車ばかり。
まったく進まなかった。
ヒロはスマホを確認する。
「この先もしばらく続くらしいな」
レオンはため息を吐いた。
「まあこの時期じゃな……」
海水浴シーズン。
仕方ない。
その時だった。
後部座席から小さな声が聞こえる。
「……ノア運転すればいい」
ミラだった。
レオンがバックミラー越しに振り返る。
「は?」
ノアは素直に頷いた。
「わかりました」
車内が静まる。
ヒロがゆっくり顔を上げた。
「今なんて言った?」
「わかりました」
「レオン」
「なんだ」
「鍵隠せ」
「もう遅い」
レオンが答えた瞬間だった。
ノアが動いた。
するりと前へ出る。
「おい!」
「ノア!」
ヒロが慌てる。
だがノアは聞いていない。
レオンのシートベルトを外し、そのまま横へ押した。
「うおっ!?」
レオンが後部座席へ転がる。
どうにか座席へしがみついた。
「おい!」
「これレンタカーだぞ!」
ノアは平然と運転席へ座る。
「じゃあ保険はバッチリだね」
「そういう問題じゃねえ!」
ヒロが叫ぶ。
次の瞬間。
アクセルが踏み込まれた。
車が急発進する。
路肩。
段差。
草むら。
多少の障害物など存在しないかのようだった。
「うおおおおお!?」
ヒロが叫ぶ。
後部座席ではニコとイヴの悲鳴。
サクラは必死に手すりを掴む。
レオンは座席へ顔面をぶつけていた。
「止めろおおお!」
車は走る。
ひたすら走る。
ノアだけが楽しそうだった。
「面白い」
「面白くねえ!」
「でも渋滞は抜けたよ」
「手段が最悪なんだよ!」
ヒロの叫びは風に消えた。
カースタントのような動きで駐車が決まる。
タイヤの悲鳴。
急停止。
そして静寂。
ノアは満足そうだった。
「着いた」
すっきりした顔でドアを開ける。
車内は地獄だった。
ヒロは座席に沈んでいる。
「……みんな無事か?」
返事はない。
レオンの呻き声だけが聞こえた。
その時だった。
ノアが首を傾げる。
「あれ?」
嫌な予感がした。
「義姉さんは?」
ヒロの顔色が変わる。
慌てて後部座席を振り返る。
そこにいた。
レオンがミラに筋肉バスターをかけていた。
「なんでそうなった!?」
ヒロが叫ぶ。
ノアも少し引いている。
「レオン、それはまずいだろ」
「違う!」
レオンは必死だった。
「違うんだ!」
「ドリフトのせいで気付いたらこうなってた!」
「意味が分からねえ!」
ヒロは頭を抱える。
「とりあえず降ろせ!」
レオンは慌ててミラを解放した。
ミラはゆっくり立ち上がる。
無表情だった。
怖かった。
その時。
ノアが気付く。
「あ、義姉さん」
「中に水着着てたんですね」
ミラは無言でレオンを見る。
数秒。
じっと見つめる。
そして。
小さく呟いた。
「……レオン殺す」
「なんでだよ!」
レオンが叫ぶ。
ヒロは頷いた。
「そりゃ仕方ねえよ」
「仕方なくねえ!」
レオンは納得していなかった。
ノアはそんなことより海だった。
青い海を見つめながら言う。
「早く行こ」
「お前のせいでもあるぞ!」
ヒロのツッコミが響く。
だが海を前にしたノアは聞いていない。
ミラも静かに海を見ている。
ニコとイヴはすでにテンションが上がっていた。
レオンだけが理不尽を感じていた。
たぶん今回も。
被害者はレオンだった。




