屋敷に軟禁は正しい判断です
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
リビングには妙な緊張感が漂っていた。
もっとも。
そう感じているのはレオンだけだったが。
ヒロは紅茶を飲みながら首を傾げる。
「お前、裏じゃそこそこ強いんじゃないのかよ」
「ビビりすぎだろ」
レオンは真顔だった。
「薬仕込まれたら流石の俺も終わるからな」
「自分で言うんだな」
ヒロは呆れる。
筋肉には自信があるらしい。
だが薬は無理らしい。
レオンはミラから一瞬たりとも目を離さない。
「……こいつ、花火するって言って捕虜の真上で線香花火するやつだぞ」
部屋が静まり返った。
ヒロの動きが止まる。
サクラも固まる。
ノアだけが優雅に紅茶を飲んでいた。
「やべえ奴じゃねえか!」
ヒロが叫ぶ。
レオンは机を叩いた。
「だから言ってんだろ!」
ノアはどこか懐かしそうに笑う。
「あれは盛り上がったね」
「おい」
ヒロは即座にツッコんだ。
「やべえのがもう一人いたぞ」
ミラが小さく呟く。
「……目に入ったら勝ち」
ヒロは両耳を塞いだ。
「聞きたくない!」
聞いてはいけない話な気がした。
レオンは深いため息を吐く。
「こういう奴だから屋敷に軟禁されてたんだ」
「それに……」
そこで言葉が止まる。
ヒロは続きを促した。
「それに?」
レオンは露骨に嫌そうな顔をした。
「……俺を目の敵にしてくる」
ミラは即答した。
「レオン嫌い」
「ほらな!」
レオンがミラを指差す。
ノアはカップを置いた。
「レオンが拷問器具壊したからだろ」
「懐かしいな」
レオンは頭を抱える。
「何年前だと思ってんだよ!」
「まだ根に持ってるのか!?」
ミラは答えない。
ただ静かにケーキを一口食べた。
その沈黙が逆に怖かった。
そんな時だった。
ミラが椅子の上でもぞもぞ動き始める。
ノアがすぐに気付いた。
「義姉さん」
「トイレならあっちですよ」
ミラは小さく頷く。
そして椅子から立ち上がった。
一歩。
踏み出した瞬間だった。
レオンの椅子の脚に足が引っかかる。
「あ」
体がぐらりと傾いた。
そのまま前へ倒れ込む。
ふわりとスカートが広がった。
ヒロは反射的に目を逸らす。
「見るなよ!」
誰に向けたのか分からない叫びだった。
ノアは感心したように頷く。
「ギャップあるなあ」
「馬鹿!」
ヒロが怒鳴る。
「こういう時は見ないフリするんだよ!」
ノアは不思議そうな顔をした。
「そういうもの?」
「そういうものだ!」
ミラはゆっくりと起き上がる。
無表情。
静か。
怒っているのかどうかも分からない。
そして。
レオンを見た。
嫌な予感がした。
ミラは小さな声で言う。
「……レオン」
レオンの肩がびくりと震える。
「な、なんだよ」
「……ころす」
「何でだよ!」
レオンの悲鳴がリビングに響き渡った。
ヒロは何も言わなかった。
ただ。
ポケットの中の胃薬をそっと握りしめる。
今日だけで何錠必要になるのだろう。
考えたくもなかった。




