拷問を生業にしてる義姉が遊びに来るのは普通
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ヒロの家。
玄関の扉が開く。
「おかえりなさいませ」
サクラが優しく微笑んだ。
その瞬間。
ヒロの肩から力が抜ける。
癒やしだった。
今日は色々ありすぎたのだ。
ミラ。
合法ロリ。
拷問のプロ。
考えれば考えるほど頭が痛くなる。
「やっぱり家が一番――」
そう言いかけたところで。
後ろから誰かがぶつかってきた。
「急に止まるな」
ノアだった。
「痛っ」
「ヒロが急に立ち止まるからだろ」
ヒロが振り返る。
その隙間から、ぴょこんと小さな顔が覗いた。
ミラだった。
室内をきょろりと見回し、しばらく観察する。
そして。
「……ここが家?」
小さく呟いた。
数秒考えてから続ける。
「ペットの部屋より狭い」
「悪かったな!」
ヒロのツッコミが飛ぶ。
サクラは不思議そうに首を傾げた。
「お客様ですか?」
ヒロは軽く咳払いをする。
「ノアの義理の姉」
「ミラ」
「ミラ様ですね」
サクラは綺麗に一礼した。
そして自然な動作でスリッパを足元へ置く。
ミラは黙ったままサクラを見つめていた。
じっと。
観察するように。
サクラは変わらず微笑んでいる。
ミラは少し首を傾げた。
「……この子、ほしい」
サクラを指差した。
ヒロが固まる。
ノアは平然としていた。
「サクラはヒロの奴隷なので」
「そう」
ミラは頷く。
表情は変わらない。
だが、ほんの少しだけ肩が落ちた気がした。
「残念」
「物みたいに言うなよ」
ヒロは思わずツッコむ。
サクラは困ったように微笑んだ。
「気に入っていただけて嬉しいです」
ヒロは再び癒やされた。
サクラの優しさは世界共通らしい。
リビングへ移動する。
テーブルの上には店から持ち帰った洋菓子が並べられた。
サクラが紅茶を淹れる。
ふわりと香りが広がり、ティーカップから湯気が立ち上った。
ヒロは一口飲む。
「やっぱりサクラが淹れる茶はうまいな」
サクラの頬が少し赤くなった。
「ありがとうございます」
恥ずかしそうに俯く。
ノアも紅茶を口にする。
「あの安い茶葉をここまで高めるんだから腕はあるね」
「悪かったな」
ヒロは眉をひそめた。
「安い茶葉しかなくて」
ミラもカップを持ち上げる。
一口飲む。
少し考える。
「……安い茶葉、おいしい」
「それ褒めてるのか?」
「褒めてる」
「分かりづらいな!」
その時だった。
玄関の扉が開く。
帰ってきたのはレオンだった。
「ただい――」
言葉が止まる。
そして露骨に顔をしかめた。
「なんでこいつがいる!」
思い切り指まで差した。
「おい失礼だろ!」
ヒロが止める。
だがレオンは止まらない。
「なんでいるんだ!」
「店に来たんだよ」
「いつも屋敷に引きこもってるだろ!」
「なんで外に出てんだ!」
ノアは首を傾げた。
「そういえば義姉さん、何か用事だったんですか?」
ミラは少し考える。
そして答えた。
「……ノア見に来た」
「だって」
ノアがそのまま伝える。
「だってじゃねえ!」
レオンは叫んだ。
そしてヒロへ向き直る。
「ヒロ」
「なんだよ」
「こいつやばいやつだぞ」
「関わったら最悪死ぬ」
ヒロはミラを見る。
ミラは静かに紅茶を飲んでいた。
どう見ても普通だった。
普通にお菓子を食べて。
普通に紅茶を飲んで。
普通に会話している。
「今のところ普通の女の子っぽいぞ」
「拷問は仕事だろ」
レオンは頭を抱えた。
本気で抱えた。
「だから駄目なんだよ……」
「何が?」
「お前、まだ分かってねえ……」
レオンは遠い目をする。
何か嫌な記憶でも思い出したらしい。
ミラは気にした様子もなく紅茶を飲んでいた。
サクラも隣で普通にお菓子を勧めている。
平和だった。
少なくとも今は。
ヒロには、レオンが何をそこまで警戒しているのか分からなかった。
ただ一つだけ分かることがある。
この家にまた厄介そうな人間が増えた。
それだけは確かだった。




