奇跡は身近な場所にある
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
テーブルの上に並ぶ洋菓子。
数口だけ手を付けられたケーキ。
そして涙目のミラ。
スカートを握る手にはぎゅっと力が入っていた。
「……これがお前の理想なのかよ」
ヒロは呆れたように呟く。
ミラは無表情のまま俯いた。
肩がほんの少し落ちている。
しょんぼりしているようにも見えた。
ノアはそんな姿を見て満足そうに頷く。
「ギャップかな」
「ギャップ?」
ヒロは首を傾げた。
「見たまんまなんだが」
小柄。
無口。
大人しい。
どう見ても普通の女の子だ。
ノアは当然のように言った。
「義姉さんは拷問のプロだよ」
「拷問!?」
ヒロの声が裏返った。
思わずミラを見る。
もう一度見る。
やっぱり普通の女の子だった。
「いやいやいや!」
「どう見ても普通の女の子だろ!?」
「合法ロリのね」
「それやめろ!」
即座にツッコむ。
ミラは特に気にした様子もない。
小さな声で呟いた。
「……人、痛ぶるの得意」
ヒロは硬直した。
「さらっと恐ろしいこと言ったぞ!?」
ノアはどこか懐かしそうに目を細める。
「義姉さんの拷問はまともじゃない」
ヒロは少し安心した。
まともじゃない。
そこは否定するらしい。
だが。
次の言葉でその安心は吹き飛んだ。
「芸術だよ」
うっとりしていた。
ヒロは何とも言えない顔になる。
「お前さぁ……」
そこでヒロは悟った。
アルヴァルト家がまともなわけがない。
そしてもう一つ。
ルシアンがまともに育ったのは奇跡だった。
次に会ったら連絡先を聞こう。
心の底からそう思った。
ヒロは深いため息を吐く。
「……で、このケーキの残りどうすんだ?」
テーブルには大量のスイーツが残っている。
ほとんど手付かずだった。
ノアはあっさり答えた。
「持ち帰ればいいんじゃない?」
ミラは小さく首を横に振る。
「……誰も食べない」
「は?」
ヒロは眉をひそめた。
ノアは納得したように頷く。
「ああ」
「みんな毒入りだと思うんですね」
ミラは静かに頷いた。
まるで日常会話だった。
ヒロは思わず頭を抱える。
「そんなことあるか?」
「ある」
即答だった。
「あるのかよ……」
ノアも苦笑する。
「義姉さん、有名だから」
「拷問で?」
「拷問で」
ヒロは遠い目をした。
世の中には知らなくていいことがある。
今まさにその一つを知ってしまった気がする。
ノアは残ったケーキを箱へ詰め始める。
そして何か思いついたように顔を上げる。
「じゃあ義姉さん、うちに遊びに来ますか?」
ヒロは固まった。
「おい」
嫌な予感しかしない。
「勝手に決めるなよ」
ミラは少し考える。
数秒後。
小さく答えた。
「……いく」
「決定」
ノアは満足そうに頷く。
どうやら会議は終了したらしい。
ヒロだけが置いていかれていた。
「……嘘だろ」
アルヴァルト家の長女。
拷問のプロ。
合法ロリ。
情報量が多すぎる。
ヒロはそっとポケットへ手を入れた。
慣れた動作で胃薬を取り出す。
そして無言で握りしめる。
必要になる未来しか見えなかった。




