息子にオプションさせるなんて碌な奴じゃない
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
店の混雑はまだ続いていた。
そんな中。
入口のベルが鳴る。
「ヒロー!」
聞き慣れた声だった。
佐伯。
その隣には琥珀もいる。
「お前らまで来たのか」
ヒロはげんなりした。
佐伯は目を輝かせている。
「見たぞ!」
「ノアと義父の配信!」
「店バズってるじゃねえか!」
ヒロは嫌な予感しかしなかった。
「お前まさか……」
「コラボだ!」
佐伯が机を叩く。
「ヒロ! ノアの義父とコラボさせてくれ!」
「いや、あいつ変態だぞ」
即答だった。
その横でノアが首を傾げる。
「人の親に酷い言い草だな」
「義父さんなら事務所にいるよ」
「おい!」
ヒロの制止は遅かった。
「マジ?」
「直談判しようぜ」
佐伯は琥珀の腕を引く。
「行くぞ」
「はいはい」
琥珀は欠伸をした。
明らかに退屈そうだった。
「やめろ!」
「もう振り回さないでくれ!」
「これ絶対フラグだろ!」
ヒロの叫びは届かなかった。
事務所。
アルヴァルトはソファでコーヒーを飲んでいた。
優雅だった。
完全に客だった。
「初めまして!」
佐伯が勢いよく頭を下げる。
「配信者やってます!」
「コラボお願いします!」
アルヴァルトは微笑む。
そして。
その視線は琥珀へ向いた。
「ほう」
少しだけ目を細める。
「新しい奴隷かい?」
「なかなか趣味がいい」
「ややこしい言い方やめろ!」
後ろからヒロが叫んだ。
アルヴァルトは不思議そうな顔をする。
一方。
琥珀はアルヴァルトを見つめていた。
何かを感じる。
経験則だった。
本能だった。
(……お金持ちだ)
琥珀の目が少しだけ輝いた。
そのとき。
事務所の扉が開く。
ノアだった。
手には皿。
綺麗に盛り付けられたケーキが乗っている。
「義父さん」
「今日のおすすめ」
そう言いながらアルヴァルトの前へ置いた。
アルヴァルトは満足そうに頷く。
ノアはフォークでケーキを切り分ける。
「はい。義父さん、あーんして」
そのままアルヴァルトの口へ運んだ。
「美味しい?」
「うん」
満足そうなアルヴァルト。
ヒロは思わず叫ぶ。
「自分で食え!!」
事務所に声が響いた。
ノアは不思議そうに首を傾げる。
「オプション」
「知ってるよ!」
ヒロは即座に返した。
「なんで自分の息子にやらせてんだよ!」
アルヴァルトは紅茶を一口飲む。
「より美味しく洋菓子を食すには、これが一番いいからね」
真顔だった。
本気だった。
ヒロは引いた。
心の底から引いた。
「自分の息子に追加料金払ってんのかよ……」
「対価は必要だろう?」
アルヴァルトは穏やかに微笑む。
まるで何もおかしくないと言いたげだった。
ヒロは勢いよく佐伯の肩を掴む。
「ほら!!」
「言っただろ!?」
「こいつヤバいやつなんだって!!」
佐伯は黙った。
琥珀も黙った。
二人ともアルヴァルトを見ていた。
しばらくして。
佐伯がぽつりと呟く。
「でも……」
嫌な予感がした。
ヒロはゆっくり振り返る。
「めちゃくちゃ数字持ってそうだな」
「やめろ」
即答だった。
「絶対やめろ」
ヒロの制止も虚しく、佐伯の目は完全に配信者のものになっていた。




