第二の人生がインフルエンサーってあり?
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ソファへ深く座り込み、ヒロはネクタイを緩めた。
「……そういえば」
疲れた声が漏れる。
「アルヴァルトって、組織抜けて一般人になったんじゃないのか?」
レオンはテーブルのグラスを手に取り、一口飲んだ。
「まあ、第一線からは退いた形だな」
「普通に現役って感じだったぞ」
ヒロは思い出す。
鋭い視線。
空気を支配する存在感。
あれのどこが引退した男なのか。
レオンは肩をすくめた。
「あの人なりに第二の人生を歩んでる」
「第二の人生ねぇ……」
ヒロは少しだけ安心しかけた。
裏社会から離れ、今は穏やかに暮らしている。
そんな話なら良かった。
だが。
レオンは平然と続ける。
「今のあの人はインフルエンサーだ」
「は?」
意味が分からない。
レオンがスマホをヒロへ向けた。
画面の中。
そこに映っていたのは――
高級そうなケーキを前に座るアルヴァルトだった。
照明まで完璧だった。
角度も美しい。
『この苺の酸味は悪くないね』
低く落ち着いた声。
鋭い目でケーキを批評している。
コメント欄が凄まじい速度で流れていた。
『今日も顔が良い』
『声が好きすぎる』
『背景えぐ』
『そのティーカップいくら?』
ヒロは絶句する。
「……なんだこれ」
そのまま背景へ視線を向けた。
豪華すぎた。
巨大なシャンデリア。
赤い絨毯。
壁には高そうな絵画。
窓の外には広すぎる庭まで見える。
「後ろ、城みたいだぞ」
レオンは平然と答えた。
「前の家だな」
「城だ」
「城なのかよ……」
ヒロは頭を抱える。
エリザが楽しそうに笑った。
「これ人気あるのよぉ♡」
「イケおじのスイーツ談義♡」
「なんだよそのジャンル……」
「女性人気すごいのよぉ? コメント欄いつも大荒れだし♡」
ヒロは遠い目をした。
「……世の中、分からないな」
その横で、エリザが何かに気づいたように目を丸くする。
「あら♡」
「ちょうど生配信してるわよぉ♡」
「は?」
エリザが画面を拡大する。
そこに映っていたのは、さっきまで自分たちがいた新居だった。
巨大なテーブル。
並べられた高級スイーツ。
マカロン。
ホールケーキ。
宝石みたいなゼリー。
中央にはアルヴァルト。
そして。
その横からスイーツを運んできたのは――黒メイド姿のノアだった。
「何やってんだこいつら!?」
ヒロが叫ぶ。
ノアはさっきと同じ格好だった。
前が大きく開いたロングスカート。
揺れる黒布。
ガーターベルトまで見えている。
コメント欄が一気に加速した。
『え、ノア!?』
『店辞めたの?』
『配信復帰きたw』
『メイドやば』
『脚なっが』
『親子???』
『顔が強すぎる』
『え、誰この美人』
ヒロは頭を抱える。
「最悪だ!!」
だがアルヴァルトはまるで気にしていない。
『本日の紅茶は香りが弱いね』
低い声で淡々と話し続ける。
妙に声が良かった。
腹立つくらい似合っている。
ノアも自然に紅茶を淹れていた。
完全に慣れている。
そのとき。
アルヴァルトがコメント欄へ視線を向けた。
『隣の子誰?』
『息子?』
『恋人?』
『メイド雇ったの?』
アルヴァルトは穏やかに微笑む。
『この子は私の義理の息子だ』
一瞬。
コメント欄が止まった。
次の瞬間。
『!?!?!?』
『義理!?!?』
『情報量多すぎるwww』
『メイドの義理息子!?』
『え????』
『待って理解が追いつかない』
『イケおじの義理息子が黒メイド???』
『配信事故で草』
さらに配信は荒れ始めた。
ヒロはソファに突っ伏した。
「最悪だ……」
そのまま、キリキリと痛み始めた胃を押さえる。
今日はずっと胃が痛い。
もう休ませてほしかった。




