他人の食事会で説教しました
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ヒロが帰りたいと強く願った、その時だった。
扉が開く。
部屋の空気が変わった。
入ってきたのはアルヴァルト。
そして、その隣にはノア。
上品な黒いスーツ姿のアルヴァルトとは対照的に、ノアは黒いメイド服だった。
長いスカート。
だが前が大胆に開いている。
歩くたびに長い脚が覗き、太腿にはガーターベルトがちらりと見えた。
背中も大きく開いている。
透けた黒布がふわりと揺れるたび、妙に目を引いた。
ヒロは言葉を失う。
その横で、レオンが小さく呟く。
「……まだ見れる服で良かったな」
「基準どうなってんだよ……」
ヒロは頭を抱えたくなった。
アルヴァルトが自然に席へ着く。
ノアは迷いなくヒロの隣へ座った。
ヒロは即座に指を差す。
「なんだお前、その服!」
ノアは平然としている。
「黒メイド」
「違うだろ!」
ヒロが机を叩く。
「背中丸見えだぞ!?」
ノアはあっさり答えた。
「義父さんの趣味」
ヒロは思わずアルヴァルトを見る。
アルヴァルトは穏やかに微笑んでいた。
「君の店で働いているノアを見た時に思いついてね」
ライトが楽しそうに笑う。
「へぇ〜、ノアに女装させて働かせてるんだ?」
「なかなかやるね」
カイが露骨に舌打ちした。
「チッ……変態しかいねえのか」
「違う!!」
ヒロが即座に否定する。
「いや、そうなんだが……違う!」
完全に混乱していた。
「ノアが自分からやってることだ!」
レオンが小さく息を吐く。
「ヒロ、落ち着け」
「揶揄われてるだけだ」
「この状況で落ち着けるか!!」
ヒロが絶望していると。
ぽつり、と小さな声が響いた。
「……ノア、それ可愛い」
全員の視線が一斉に奥へ向く。
ミラだった。
相変わらず表情は薄い。
だが、ちゃんとノアを見ていた。
ノアは静かに答える。
「ありがとう、義姉さん」
ヒロの動きが止まる。
「ねえさん!?」
レオンが即座に口を挟んだ。
「それ以上聞くな」
「なんでだよ!!」
アルヴァルトが満足そうに手を叩く。
「さあ、みんな揃ったことだし食事にしよう」
その瞬間。
使用人たちが一斉に動き出した。
豪華な料理が次々と運ばれていく。
だが――
ノアの前には、何も置かれなかった。
ヒロが眉をひそめる。
その横で。
ノアが自然に立ち上がった。
そして当然のように、アルヴァルトの膝の上へ座る。
「は?」
ヒロの声が漏れる。
ノアは慣れた動作で料理を切り分ける。
そのままフォークで口元へ運んでいた。
アルヴァルトが普通に食べる。
「何してんだお前!?」
ヒロが立ち上がる。
アルヴァルトは不思議そうに首を傾げた。
「ノアは食べないからね」
「いつもこうやって食べさせてくれるんだ」
「だめだ!! 今すぐやめろ!!」
部屋の空気が止まる。
アルヴァルトは少し考えるように目を細めた。
「……親はやらないのかい?」
「やらねえよ!」
ヒロが即答する。
「あったとしても体が悪いとか特殊な事例だ!!」
アルヴァルトは静かにノアを見た。
「ノア」
「席に戻りなさい」
ノアは分かりやすく落ち込んだ。
「……わかった」
静かに席へ戻る。
それを見ていた実子たちは、揃って目を丸くしていた。
気づいていないのはヒロだけだった。
「だからそういうのはダメだって言ってんだろ!」
ヒロはそのままノアへ説教を続ける。
「何でもいいから食え!」
ノアは小さく肩を落としたまま、妙に大人しかった。




