一般人って俺だけかよ
普通の住宅地に突如現れる高い塀。
豪邸に到着した瞬間。
「遅いわよ〜!!」
聞き慣れた声が玄関ホールに響いた。
エリザだった。
ヒールを鳴らしながら駆け寄ってくると、そのままノアの腕を掴む。
「ほら、早く早く♡」
「え、ちょ――」
ヒロが止める間もなく、ノアはそのまま奥へ連行されていった。
抵抗する様子すらない。
残されたのは、ヒロとレオンだけだった。
「……どうする?」
「待つしかないだろ」
レオンがため息をつく。
そのとき。
廊下の奥から、一人の男が歩いてきた。
黒髪。
整った顔立ち。
落ち着いた雰囲気。
「久しぶりだな」
ルシアンだった。
レオンが軽く頭を下げる。
ヒロも慌てて会釈した。
普通だ。
まともに会話できそうな人間だった。
ヒロは思わず感心する。
(まともだ……)
ルシアンはレオンの肩を軽く叩いた。
「ノアはちゃんとやっているか?」
「迷惑をかけてないか?」
レオンは少しだけ遠い目をする。
「……振り回されています」
ルシアンは一瞬だけ察した顔をした。
「ああ……」
妙に納得している。
「いつも悪いな。俺からも言っておく」
そして今度はヒロを見る。
「何かあれば相談してくれ」
「あ、……はい。」
ここでまともな大人に会えるとは思わなかったヒロは、少し戸惑っていた。
「こっちだ」
ルシアンに案内され、二人は奥の部屋へ向かう。
歩くだけで金がかかっているのが分かる空間だった。
床は磨き上げられた大理石。
壁には額縁入りの絵画が並び、天井には巨大なシャンデリアが吊るされている。
「……やば」
ヒロが思わず呟く。
「壁紙だけで俺の家賃何年分だよ……」
部屋へ通される。
そこもまた異世界だった。
長いテーブル。
重厚感のある椅子。
金色の装飾。
ヒロは完全にキョロキョロしていた。
レオンがそんな様子を見て笑う。
「前の家見たら卒倒するぞ」
「マジかよ」
ヒロが目を見開く。
「これより凄いのか?」
「ああ」
レオンは平然と頷いた。
「ほぼ城だ」
「くそ、ちょっと見てえ……」
思わず本音が漏れる。
レオンが呆れたように肩をすくめた。
そのとき。
部屋の空気が変わった。
扉が開く。
入ってきたのは――アルヴァルト。
そして、その隣にはスーツ姿のノア。
ヒロは一瞬だけ息を呑んだ。
普段の気だるい空気が消えている。
髪は綺麗に整えられ、黒いスーツを完璧に着こなしていた。
表情も薄い。
感情が見えない。
まるで精巧な人形だった。
ぞくり、と背筋が冷える。
「……誰だよあれ」
ヒロが小さく呟く。
その直後。
「ギリだったわぁ〜……!」
エリザが息を切らしながら部屋へ飛び込んできた。
レオンがノアを見ながら呟く。
「相変わらず別人だな」
エリザは誇らしげに胸筋を張った。
「私が磨けばこんなもんよ♡」
「どんな自信だよ……」
ヒロが呆れる。
だが確かに。
ノアは異様なほど完成されていた。
ヒロは改めて部屋を見回した。
「にしても、裏のやつが自分の家公開って狂ってんだろ」
エリザがきょとんと首を傾げる。
「?」
「今日呼ばれてるの、アルヴァルト様の組織の幹部だけよ?」
ヒロの動きが止まる。
「……幹部?」
「そうよぉ♡ サンクチュアリ♡」
エリザが嬉しそうに笑う。
「可愛いでしょ♡」
レオンが淡々と補足した。
「今、裏で一番力のある組織だ」
「は?」
全く意味が分からない。
ヒロの頭が現実を拒否する。
「俺なんで呼ばれてんだ?」
「……いや、まあ……」
レオンが微妙に視線を逸らした。
エリザは楽しそうに笑う。
「アンタ、有名人よぉ♡」
「パーティには華が必要でしょ♡」
「なんで有名人なんだよ俺は!?」
気づけば。
部屋の視線が、じわじわとヒロへ集まっていた。
「……何なんだよ……」
ヒロは顔を引き攣らせた。




