返品奴隷は自由になりたい
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
大学から戻った二人。
玄関を開けた瞬間――
佐伯が走った。
一直線。
「俺の琥珀ちゃーん!」
抱きつきに行く勢い。
「さすがに気持ち悪いぞ……」
ヒロが素で引く。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
琥珀はにこりと笑う。
それだけで満足する佐伯。
「はあ〜〜〜癒し……」
チョロかった。
「お前それでいいのか……」
ヒロが呆れていると、
玄関の扉が開く。
ノアが戻ってきた。
「またどっか行ってたのか?」
「義兄さんのとこ」
「なんの用事だ?」
「まあ……色々かな」
曖昧。
その視線が、琥珀に向く。
一瞬。
琥珀が視線を逸らす。
ほんの一瞬だけ。
それを見て、ヒロが勘違いする。
「琥珀をあんまいじめんなよ!」
「いじめてない」
即答。
間もなく続く。
「けど……調教は必要」
「は?」
その手には、鞭。
しかもウマ用。
「何する気だ!?」
「百叩き」
「絶対だめだ!!」
「ご主人様ぁ……怖いです」
琥珀が佐伯の背中に隠れる。
ぴたっとくっつく。
佐伯、即覚醒。
「ノア!やめるんだ!」
謎の正義感。
ヒーロー顔。
だが――
ノアは止まらない。
距離を詰める。
そして。
そのまま、琥珀の服の中に手を突っ込んだ。
「おいコラ!何して――」
ヒロの声が止まる。
引き抜かれた手。
その中にあったのは――
財布。
「……俺の財布!?」
続けて。
服を軽く持ち上げる。
バサバサと落ちる。
スマホ。
時計。
小銭。
そして――
トイレットペーパー。
「なんでトイペ!?」
「使えるから?」
ノアは真顔だった。
「何してんだ!琥珀!!」
ヒロがブチギレる。
ノアが鞭を軽く鳴らす。
パシ、と乾いた音。
「ヒロ、調教するしかない」
「ウマ用はだめだろ!」
――そのとき。
佐伯が前に出た。
勢いよく。
スライディング。
土下座。
「悪い!!ヒロ!ノア!!」
場が止まる。
琥珀が目を見開く。
「雇い主は俺だ……悪かった」
顔を上げない。
「やるなら俺をやってくれ……!」
無駄に熱い。
無駄にかっこいい。
ノアは鞭を握る。
真剣。
「じゃあ……」
「ノアやめろ!!」
ヒロが後ろから羽交締めにする。
「取り敢えず座れ!!」
――数分後。
テーブルの上。
中央に置かれた、ウマ用の鞭。
禍々しいオーラ。
話し合いが始まる。
「琥珀、なんでこんなことしたんだ?」
ヒロが真剣な顔で聞く。
「……」
沈黙。
目を逸らす。
カチ。
ノアが銃の安全装置を外す。
「話す!話すから!!」
秒で折れた。
「金が必要で……」
ぽつり。
「奴隷やめるためには、金がいるから」
静かだった。
さっきまでと違う声。
「奴隷、やめたいのか?」
佐伯が聞く。
琥珀は少しだけ間を置く。
そして言う。
「こんなの、なりたくてなった奴いないでしょ」
本音だった。
沈黙。
少し長い。
「……そうか」
佐伯が立ち上がる。
急に。
勢いだけで。
「じゃあ俺と配信やって稼ごうぜ!」
「え?」
琥珀が固まる。
「琥珀ちゃん可愛いし絶対いけるって!」
自信満々。
根拠ゼロ。
「な?」
「な?じゃねえ!!」
ヒロが即ツッコミ。
「そんな簡単な話じゃねえだろ!」
「まあまあやってみようぜ!」
ガッツポーズ。
ノリだけで生きている。
沈黙。
少し長い。
琥珀が、ふっと吹き出した。
小さく笑う。
肩の力が抜ける。
「……わかった」
頷いた。
「へんなやつ」
誰にも聞こえないくらいの声で、そう呟いた。
その顔には、ほんの少しだけ。
さっきまでとは違う色が混ざっていた。




