奴隷が俺の恋愛フラグを折りにきたんだが
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ある日。
いつものようにリビングのソファで本を読むノア。
膝の上のミルクを優しく撫でる。
静かな時間だった。
そこへ。
イヴとニコがやってくる。
迷いなくノアの両隣に腰を下ろす。
距離が近い。
「ねえノア、この前のデートでさ」
「また映画の新作が──」
二人は普通に会話を始める。
だが。
ノアは一切反応しない。
視線は本の上。
ページをめくる指と撫でる手だけが動く。
ヒロがそれを見て、思わず口を滑らせる。
「ノア、両手に花だな。羨ましいわ」
軽いノリ。
いつものツッコミの延長。
――のはずだった。
ノアの手が止まる。
ゆっくりと視線を上げる。
「ヒロにはサクラがいるだろ」
「いや!サクラはそんなんじゃねーから!」
反射だった。
勢いよく否定してしまう。
言ってから気づく。
(今のは悪手だ……!)
ノアがわずかに考える素振りを見せる。
そして。
「じゃあサクラも貰うか」
「は?」
理解が追いつかない。
次の瞬間。
「や、やめろー!」
ヒロが叫ぶ。
だが遅い。
ノアはすでに立ち上がっていた。
一直線にキッチンへ向かう。
「サクラ」
「ノア様?」
振り返るサクラとの距離を一気に詰めるノアは、耳元へと顔を寄せる。
近い。
明らかに近すぎる距離。
何かを囁く。
内容は聞こえない。
だが。
サクラの反応は明確だった。
「……っ」
一瞬で頬が赤くなる。
ヒロが割り込む頃には、ノアはすでに用事を終えていた。
軽く肩を叩き、そのまま何事もなかったかのようにリビングへ戻る。
ソファに座り直し、本を開く。
完全に通常運転だった。
ヒロはサクラに詰め寄る。
「大丈夫か!?何言われた!?」
サクラは少し視線を逸らし、ほんのり笑う。
「……なんでもありませんよ」
ヒロの顔が引きつる。
(絶対なんか言われてんだろ……!)
その一連を、廊下からユイがじっと見ていた。
やがて、何かを理解したように表情が明るくなる。
──その後。
ソファ。
再び静かな時間。
ノアは相変わらず本を読んでいる。
そこへユイが近づく。
「ねえねえ」
ひょい、と顔を覗き込む。
ノアはページをめくりながら答える。
「なに」
「ノア君、お兄ちゃんで遊んでるでしょ」
「別に」
即答。
興味のなさがにじむ声。
だがユイは気にしない。
むしろ楽しそうだ。
「私も遊びたい!」
「そう」
相変わらず薄い反応。
普通ならここで終わる。
だがユイは終わらない。
にやっと笑う。
ポケットから一枚の紙を取り出す。
「じゃーん」
ぱらり、と広げる。
ノアの視線が止まる。
数秒。
紙を見る。
ユイを見る。
もう一度、紙を見る。
そして。
ほんのわずかに口角が上がる。
「……悪くない」
ユイの顔が一気に輝く。
「でしょでしょ!」
完全に通じ合っていた。
その様子を。
少し離れた場所から見ていたヒロ。
嫌な予感しかしない。
むしろ。
確信だった。
(あれ、絶対ろくでもないやつだ)
視線の先。
楽しそうに笑う二人。
――最悪なコンビが、ここに誕生した。




