返品奴隷、初日からやらかす
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
無事帰宅した一同は、そのまま流れるように夜を過ごした。
時間も遅く、佐伯と琥珀はリビングで寝ることになった。
ヒロは「なんでこうなった……」と小さくぼやいて自室へ引っ込んだ。
朝。
佐伯は朝から機嫌が良かった。
「奴隷と配信できるとか、最高じゃね?」
完全に浮かれている。
サクラの作った朝食を食べながら、ヒロは呆れ顔で言う。
「まず大学行け」
「分かってるって」
軽い。
軽すぎる。
食事を終え、二人は玄関へ向かう。
「いってらっしゃいませ。ご主人様」
琥珀がにこりと笑い、頭を下げる。
佐伯は満面の笑みで手を振った。
「行ってくる!」
――軽い。
あまりにも軽い。
ドアが閉まる。
音が消える。
部屋が静かになる。
琥珀はそのままソファに腰を下ろした。
ふっと、息を抜く。
その瞬間だけ、表情が緩む。
――そのとき。
奥の部屋のドアが開く。
ノアが出てくる。
何も言わない。
そのまま歩いてくる。
隣に座る。
距離が近い。
そして。
じっと見る。
無言。
長い。
逃げ場がない。
琥珀は笑う。
いつもの笑顔を貼り付ける。
「どうしましたか? 私に何か?」
ノアは視線を逸らさない。
「それ、義兄さんのだから返して」
――一瞬。
空気が止まる。
琥珀の笑顔が、わずかに固まる。
「なんのことで――」
言い終わる前。
カチャ。
乾いた音。
銃口が、眉間に当たる。
距離、ゼロ。
ノアは笑っていた。
楽しそうに。
「バレてるよ」
沈黙。
数秒。
琥珀は動かない。
動けない。
やがて、小さく息を吐いた。
観念する。
服の中に手を入れる。
ごそり、と音。
取り出したのは、貴金属。
書類。
机の上に置く。
一つずつ。
「それだけ?」
ノアが言う。
琥珀は舌打ちした。
わずかに目つきが変わる。
今度はズボンの中に手を入れる。
取り出したのは、小さなハンコ。
差し出す。
「……はいよ」
ノアは受け取る。
軽く確認する。
「これは返しておくね」
淡々。
まるで本当にただの確認みたいに。
琥珀が睨む。
「なんで分かったんだよ」
ノアは肩をすくめた。
「義兄さんも気づいてたよ」
「は? だって何も――」
「処分寸前だったんじゃない?」
空気が変わる。
一瞬で。
琥珀の背筋が冷える。
ノアは笑う。
優しく。
「今回は“可愛い悪戯”ってことにしてあげるよ」
軽い言い方。
逃げ場はない。
「佐伯も喜んでるしね」
ぽん、と肩を叩く。
ノアは立ち上がる。
「ちゃんと大人しくしてれば、悪くないよここ」
それだけ言って、部屋を出ていく。
足音が消える。
完全な静寂。
琥珀はしばらく動かなかった。
やがて、ゆっくりと背中をソファに預ける。
力が抜ける。
「……やばいとこ来ちゃったかも」
ぽつりと呟く。
笑っていない。
さっきまでの笑顔は、もうどこにもなかった。




