中華街来ただけなのに、気づいたら地下の奴隷街にいたんだが
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
男四人は中華街に来ていた。
「こんなところに奴隷が売ってんのか?」
ヒロが辺りを見渡しながら言う。
その横で、佐伯は肉まんを頬張っていた。
「……うまっ」
「満喫すんな!」
即ツッコミ。
「いや腹減ってたし」
悪びれない。
一方でノアは、周囲など一切気にせず一直線に歩いていく。
迷いがない。
それが逆に怖い。
(絶対ロクでもねえ場所だろ……)
ヒロの中で警報が鳴り始める。
やがてノアが立ち止まった。
そこにあったのは、周囲とは明らかに格の違う建物だった。
装飾が違う。
空気が違う。
「……ここかよ」
ヒロが思わず呟く。
ノアは何も言わず、当然のように扉を開けた。
中に入る。
そこには、チャイナドレス姿の美女たちが並んでいた。
視線が一斉に向く。
逃げ場がない。
「なんだよここ……」
ヒロの声が自然と小さくなる。
「配信してえ!」
「絶対ダメだろ! 分かんねえけどダメなやつだろこれ!」
即却下。
「置いていかれるぞ」
レオンの低い声。
気づけばノアは、もう奥へ進んでいた。
ヒロは慌てて後を追う。
背中に視線が突き刺さるような感覚が、ずっと消えない。
店の中央を抜けた先。
奥の扉の前に、二人の男が立っていた。
空気が違う。
ただ立っているだけなのに、近づきたくない圧がある。
ノアがその前に立つ。
何も言わない。
だが――
二人は同時に頭を下げた。
そして扉が開く。
「顔パスかよ。かっけー」
佐伯が素直に感心する。
ノアは小さく笑った。
「そんなんじゃないよ」
軽く否定するが、説明はしない。
中に入る。
そこはエレベーターだった。
静かに扉が閉まる。
下降していく感覚だけが、やけに強く残る。
誰も喋らない。
妙に長い。
沈黙が重い。
――チン。
乾いた音とともに、扉が開いた。
そこは、完全に別の世界だった。
ネオンが瞬く。
光が強すぎて、輪郭がぼやける。
色が濃い。
人が多い。
なのに――
どこか静かだった。
「……なんだよ、これ」
ヒロの声が勝手に小さくなる。
佐伯が反射的にスマホを構える。
「やば、撮りて――」
その腕を、レオンが掴んだ。
「やめとけ」
低い声。
「こんなもん出してたら奪われるぞ」
「ひったくりか?」
ヒロが聞く。
レオンは首を横に振る。
「それならまだいい」
一拍。
「存在ごと……だ」
背筋が冷える。
「やめろよそういうの……」
ノアが軽く振り返る。
「今はそんなこと滅多にないよ。大丈夫」
軽い口調。
まったく信用できない。
「だってここ管理してるの、義兄さんだから」
「にいさん!?」
ヒロの声が裏返る。
「そう。義父さんの実子。長男がやってる」
ヒロは一瞬黙る。
「……あの変態の長男って……」
レオンが横から口を挟む。
「そいつが一番まともだ」
「マジかよ……」
納得はした。
安心はしていない。
ノアはそのまま歩き出す。
ネオンの中を、迷いなく進む。
「義兄さんのとこ行けば、上級の奴隷あつらえてもらえるよ」
さらっと言う。
レオンが眉をひそめた。
「お前、うっすら嫌われてるだろ。そんなうまくいくか?」
「大丈夫」
即答。
根拠はない。
ヒロは確信する。
(絶対ダメなやつだ)
だが――
足は止まらない。
光に飲み込まれるように進みながら、ヒロの不安だけが、どんどん膨らんでいった。




