大学の課題が早く終わったので、夜に奴隷を買いに行くことになった
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ある日の夕方、リビングにチャイムが鳴った。
サクラが玄関を開ける。
「佐伯さん。いらっしゃいませ」
「ども。……相変わらず可愛いね、サクラちゃんは」
「何言ってんだお前」
間髪入れず、奥からヒロの声が飛ぶ。
「早かったな」
「まあな。さっさと終わらせようぜ」
佐伯は勝手知ったる様子で靴を脱ぎ、そのままリビングへ上がり込む。
「うわ、多……」
テーブルの上を見て、素直に引いた。
ノートにプリントに参考書。山積みどころの話じゃない。
「一人でやる量じゃねえよこれ」
「だから呼んだんだろ」
ヒロが面倒くさそうに答える。
サクラはそのやり取りを横目に、キッチンへ向かった。
「何かの課題、ですか?」
「大学のやつ。ヒロいるとマジ助かるわ」
「押し付けてるだけだろ」
即ツッコミ。
「細かいこと言うなって」
へらへら笑いながら、佐伯はPCを立ち上げる。
そのとき、奥の部屋のドアが開いた。
ノアが出てくる。
視線が合う。
一瞬だけ。
「よお、久しぶりだな」
「久しぶり」
それだけ言って、ノアはそのまま風呂場へ向かった。
「……なあ」
佐伯がぽつりと呟く。
「ん?」
「ノア、なんか変わった?」
ヒロは資料をめくりながら答える。
「まあな。色々あった」
雑。
「ふーん……」
納得はしていないが、それ以上は聞かない。
少しだけ考えて、付け足す。
「なんか落ち着いたな。……ちょっと色っぽくなった?」
「何だよそれ!」
ヒロが吹き出す。
しばらくして、風呂場のドアが開く音がした。
戻ってきたノアは、髪がまだ濡れており、首筋に水滴が残っている。そのまま気だるげな様子でテーブルの資料を一冊手に取り、ソファに腰を下ろしてぱらぱらとページをめくり始めた。
「手伝ってくれるのか?」
佐伯が少し期待を滲ませた声を出す。
ノアは視線を落としたまま答えた。
「ヒロが、レポートは自分の力でやるって」
「えー……」
露骨に肩を落とす佐伯。
その様子を横目で見たノアが、少しだけ顔を上げる。
「ヒロがいいならやってもいいよ」
視線がヒロへ向く。
同時に、佐伯の目がぱっと輝いた。
「さすがにノアでもこの量は無理だろ」
半ば呆れたようにヒロが言う。
「できるよ」
あっさりだった。
持っていた冊子を一気にめくる。
止まらない。
視線だけが高速で走る。
次の瞬間には、要点にだけ付箋が貼られていく。
「ヒロ、よけて」
気づけばノアはPCの前に座っていた。
真っ白な画面に、キーボードの音が響く。
カタカタと、迷いのない入力。
部屋の空気が、少しずつ変わっていく。
十分後。
「はい、確認して」
ノアが画面を指差す。
どこか満足げなドヤ顔だ。
ヒロと佐伯が同時に覗き込む。
「……は?」
ヒロが固まる。
「嘘だろ……」
佐伯も言葉を失った。
構成も文章も、ほぼ完成していた。
ヒロが頭を抱える。
「なんだこれ……」
佐伯はすぐに復活する。
「なあノア、うち来ないか?」
食い気味だった。
「配信でもなんでもできんだろ」
ノアは一瞬だけ考える。
「考えておくよ」
軽い返事。
その横で、佐伯が椅子にもたれながらぼそっと呟いた。
「俺も奴隷ほしいな」
「は?」
ヒロが顔を上げる。
「いやいや、何言ってんだお前。どこで契約できんだよ」
半分呆れ、半分冗談で笑うヒロ。
ノアが横から普通に口を挟む。
「売ってるよ。普通に」
「は?」
今度はヒロが固まる番だった。
ノアは何でもないことのように続ける。
「今から行く?」
軽いノリ。
佐伯の目が一気に輝く。
「行く行く〜!」
即答。
「お前即決すんな」
ヒロが即ツッコミ。
「いや気になるだろ普通に!」
「普通じゃねえんだよそれが!」
ノアはすでに立ち上がっていた。
「今からなら丁度いい」
「マジか」
佐伯がスマホを見ながら頷く。
ヒロは頭を抱えた。
「お前ら……俺は行かないぞ」
はっきり宣言する。
――そのときだった。
玄関のドアが開く音がした。
「戻ったぞ」
低い声。
レオンだった。
リビングに入ると、見慣れない顔に視線が止まる。
「……客か?」
「でか……」
思わず佐伯が漏らす。
ヒロがため息混じりに言う。
「レオン。こっちが佐伯」
簡単な紹介。
佐伯は興味津々でレオンを見る。
「何やってる人? その体どうなってんだよ」
レオンは少し考えてから答えた。
「戦闘を少々」
一瞬、空気が止まる。
「ははっ、面白いな!」
佐伯が笑い出す。
そして、何の躊躇もなく続けた。
「今から奴隷買いに行くけど行く?」
あまりにも軽い誘いだった。
レオンは一度だけ瞬きをする。
「奴隷商に行くのか?」
少し考え、
「まあ護衛としてならいいぞ。危ないからな」
あっさり頷いた。
「頼もしいな!」
佐伯が笑う。
そのまま振り返り、ヒロに手を振る。
「じゃあ行ってくるわ!」
「待て待て待て!」
ヒロが即座に立ち上がる。
目の前のメンツを見る。
ノア。レオン。佐伯。
――嫌な予感しかしない。
「……俺も行く」
渋々の決断だった。
「最初からそう言えよ」
佐伯がニヤニヤする。
「うるせえ!」
ヒロが即座に返す。
ノアはすでに玄関へ向かっていた。
「良いやつ引けるといいね」
「引けるって何だよ……」
ヒロはため息をつきながら、結局その後を追う。
こうして――
ただの課題だったはずの夕方は、完全に妙な方向へ転がり始めていた。




