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食料品販売店中間管理職異世界転生物語  作者: VATA


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17/18

その名は『氾濫』


「アーサー!!」


 公爵夫人リリエンティーヌは戻ってきた集団の中にアーサーを見つけると、思わず駆け寄り抱きついた。


「リリ…心配をかけた」

「良くぞご無事で……」

「お父様!!」


 アーサーの帰還を聞いたアリアンレーゼもやってきた…

暫く家族の再会を周囲の人達は温かく見守った。











「さて、どこから話せば良いものか…」


 湯浴みを終えてしばしの休息を取った後、アーサーは今回の出来事を自身の体験と部下達の報告を交えて語り始めた。










 エルリンゼに到着しすぐに状況の確認を行った。

この街に駐留する騎士団により魔物の撃退は問題なく行われていた……ただし通常よりもその出現頻度は多く、森に最も近いデガスト砦に移動して調査する事となった。

その時点で、胸騒ぎを覚えたアーサーはハルトに向けてポーションの追加の依頼を出した。


 翌日、数時間移動した一行は街から2重の門を潜り砦本陣へと辿り着いた。

ここからは森に向けて3重の門により森からの魔獣の進行を阻んでいる。

辿り着いた時にアーサー達が見たのは崩壊した3重の門と煙を上げる砦だった。


「いくぞ騎士達よ!仲間を救え!」


 アーサーの号令により騎士団は魔物との戦闘に突入した。

ハルトより大量に譲り受けていたポーションの効果は恐ろしいほどの性能で砦にいた怪我人全てを癒してしまった。


「何なのだこのポーションの効果は…」

「しかし今は非常に有難い!!すぐに体制を整えましょう!」


 常に危険と隣り合わせの任務についていた騎士達は、すぐさま体制を整えると再び、魔の森より溢れる魔物を狩りはじめた。

 1日経っても、魔の森から溢れる魔物は止まらず、嫌な予感が的中した。


「これは氾濫だ!エルリンゼに伝令を!!」

「くっ!恐れていた事が……」


 魔の森の氾濫は各所で起こり得る事だがそう簡単に起こることではない。

王国の長い歴史の中でも過去に数回発生した事が記録されているが、その度に、都市がいくつも壊滅したり、国が滅んだりしている…今回も同様な事が起こるだろう。


「モールス!お前は、デリンジャーと共に非戦闘員を連れて都市へと向かえ!ギルドの非常通信を使って、非常召集を発令しろ!」

「侯爵様!」

「…リリとアリアに愛していると伝えてくれ」


 アーサーの覚悟を感じ取った2人は断腸の思いでその指示に従い非戦闘員の者達を率いてエルリンゼへと出発した。


「……さぁ!誉高きエクスワイヤの騎士達よ!我ら家族!我らが故郷!我らが王国を守る為に今!その命を燃やせ!!」


 アーサーの鼓舞に残った騎士達は声を張り上げる…ある者は涙を流し、ある者は剣と鎧を打ち鳴らし…ここにいる全ての者が生きては帰れないことを理解していた。


「最終結界発動!迎え撃て!!」


 砦自体が巨大な結界装置として周囲に結界を張り巡らせた。

その結界を守る盾としてアーサー率いる騎士団が前に出た。


「我らはエクスワイヤ領を守護するエクスワイヤ騎士団!参る!!」


 先陣を駆けるアーサーと騎士団が魔物の群れへと切り掛かった。










「……それでどうなったのですか?」

「ああ……聞いた話だとモールスとデリンジャー達は無事にエルリンゼに辿り着いて……そこでハルト達に会う事ができたらしい」











「それでお前達はどうしたのだ?」


 エクスワイヤ侯爵家の裏手にある騎士団の演習場で氾濫の知らせを受けて駆けつけたアラートとエマージェシーがモールスとデリンジャーに話を聞いていた……その周囲にも騎士団の者達が多く聞き耳を立てていた。


「我々は侯爵様の指示に従いエルリンゼに辿り着いたのです……」


 モールスとデリンジャーはあの時の事を回想した。









「モールス!」

「守備隊長!緊急通信の発令を!侯爵様より氾濫の宣言が下りました」

「!!……了解した!各ギルドへ通達!騎士団に招集をかけろ!自警団に連絡して住民の避難を始めろ!」


 エルリンゼに到着したモールス達は都市の守備隊に伝令すると再び装備を整え始めた。


「兄様…行くのですか?」

「あぁ…デリンジャーは父上達の元へ戻れ…今回の事をお伝えし、準備を進めろ……ここは……陥落る(おち)…」

「?!…ならば私も!!」

「駄目だ!デリンジャー…俺の亡き後お前がシグナル家を継ぐのだ!」

「兄様!!」

「て、敵襲!!」

「「?!」」


 見張り櫓から警告の鐘が鳴らされる…二人は城壁から森を見る……砦のある方向以外から魔物がゾロゾロとこちらに向かっていた。


「くっ!進行速度が早い!!行くぞデリンジャー!話は後だ!今は民を守る事が先決だ!」

「はいっ!」


 二人は駆け出すと騎士団を率いて魔物の迎撃へと向かった。







「?!くっ…数が多い!!」

「3時方向から接近!迎え撃て!」


 都市の迎撃戦は混迷を極めた。

日頃の対処もありまだ冷静に処理できているが…数が多い…騎士達にも疲労が見え始めていた。


「兄様!横を抜けられました!」

「!!」


 デリンジャーの示した方角を見ればウルフの群れが避難した住民を追って抜けていた。


「くっ!デリンジャー!頼む!」

「任されました!」


彼女はすぐに、部下を連れ、避難する人々の護衛へと向かった。

普段何なく対処できる魔物たちではあるが、守るべき民を庇いながら戦うにはその数は驚異的であった。

 


「しまった!!」


 一瞬の油断から、後方へと数匹の魔物を逃がしてしまった

そこに異質な風貌の馬に乗った騎士が駆けつけた。


「デリンジャー様!加勢します!」

「シルキー?!なぜここに?!」

「護衛任務で来ました!」


 それはまだ侯爵騎士団に入ったばかりの経験の浅いシルキーだった。

見れば侯爵夫人の私設騎士団のリルル隊長も一緒の様だ…二人は難なく魔物達を狩って行く……なんだ?あの馬は?!的確に魔物の攻撃を避けつつ、敵の死角へと回り込んでいる!なんて理想的な動きをする馬なのだろうか。

そう思っていたのだがシルキーはさらに前線へと進み孤立しかねない状況に陥った……助けに行きたいがこちらも手一杯だ。

見かねたリルルが向かったが二人とも最前線で取り残されてしまった。


「2人が前線を引きつけているうちに体制を整えろ!私が救出に……はっ?」


 シルキー達の取り残された前線では彼女達が馬の中に吸い込まれた…………思わず二度見してしまったが間違いなく彼女達は馬の中へと消えた……

その後馬は立ち上がるとその姿を背丈が2メートルほどあろう、白と黒の全身鎧へと変貌を遂げた……そのまま見た事の無い武装で魔物達を蹂躙していた。


「なんだあれは……シルキー達なのか?」


 その瞬間、自分達の周囲を結界が包み込んだ…瞬時に魔物達は結界の外へと弾き出される……このエルリンゼの結界にも劣らないかなり高度な結界だ。


「?!なんだ。この結界は?!」


 後方を見れば、ハルトが店の開店準備をしていた……え?開店準備?


「ハルトの仕業なのか?!それよりもハルト!ポーションを……」


 彼の元に向かおうとした瞬間、再び魔物達が襲い掛かり、結界へと体当たりを始めた。 


「くっ!騎士団!!この場を守り抜くの……ええっ?!」


 驚いた事にこの空間の結界が、さらに数段強固なものと変化した……弱小の魔物は触れた瞬間に魔素に変換さえていた………


「なんだ?この結界は………嘘だろ?これは王都の大神殿を守る大結界レベルではないか!!」


 さらにその結界に殺到する魔物も謎の爆発で数を減らしている……一体どこから……

周囲を見れば彼らが乗ってきた馬車のような荷台からアカメが攻撃を行っているのが見えた…その手際は美しく洗練されており迷いなく矢を放ち続けていた。

妹達が凄く強くなっていたらしい…と、父に聞いた時は大袈裟だと聞き流していたが……この光景を見ればそれは真実だったと痛感した。 

 極めつけはリカの操る馬車が動き始めると、森の入り口へと集められた魔物に対して恐ろしいまでの攻撃を放った……まるで地上に太陽が出現したかの様な眩い光を放ち魔物達を消し去った………あれは殲滅魔法ではなかろうか?その光は横に逸れて魔の森の木々をも消滅させた……濃厚な魔素を吸収した魔の森の木々はそれだけで破壊することが困難な天然の障害であった……

その木々が、いとも簡単に灰になっていく…ゆん滅魔法ではなく高位の浄化魔法の可能性もある。


 ありえない光景に呆然としていると、馬車から降りてきたリカは何事もなかったように、ハルトと会話を交わしていた…その姿に我を取り戻しハルトに話しかけた。


「ハルトすまない!」

「あ、デリンジャーさん!ご無事でしたか!大変でしたね」

「あぁ…ポーションはまだ持っているだろうか?できれば公爵様のもとに運びたいのだが…」

「おや?公爵様はご不在ですか?」


  デリンジャーはこの先にある砦に公爵様達が残っていることを伝えた。

そして追加のポーションを届けて欲しいと訴えた。


「配達なら私が行ってきますよ?」

「じゃあリカ…願いできるかな?少し多めに持っていこうか公爵様にもお守りは渡したんだけど…この様子じゃこれも持っていった方がいいかもね」


 ハルトとリカが相談しながら荷台から商品を袋に詰め込んでゆく。

準備を終えるとこちらに戻ってきた2体の全身鎧の前面が開くと中からシルキーとリルルが現れた…


「お前たち一体どうなっているんだ?」

「それが私にもなんて説明したらいいのかわかりません!」


シルキーはどこか興奮した様子で駆け寄ってきた…ハイになってるな…


「だめですね…妙に神経が高ぶってるわこの子…初陣でしたから…」

「じゃあ交代ね!私がバイコーンで出るわ…ミルルさん一緒に行ってもらえるかしら?」

「はい」


 リルルは再び黒い鎧と入り込んだ…

リカはデータの書き換えとやらを行うと、白い鎧へと姿を消した。


『じゃあ行ってきます』

「気をつけてね」


 2人の鎧の踵から車輪が現れると、高速回転を始めてあっという間に森の中へと消え去っていった…


「ハルト……何なの?あれは…」

「鎧みたいなもんですよ…それよりもデリンジャーさん、皆さんもこちらで休憩してください…シルキーさんも一緒にどうぞ」


 うまく説明をごまかされた気もするが、ハルトにより手渡された暖かいスープを見て腹の虫が小さくなった。

 既に都市周辺には脅威となる魔物は見当たらず、ここで少し休憩をすることにした…


「暖かい食べ物はありがたいな」

「そうですね!」


 受け取った腕には野菜が入った暖かいスープだった。

隣のテンションの高いシルキーがそれを一気に飲み干した……のを見て私も口をつけた……その効果は瞬時に現れたのだった。


「?!なんだこれは!魔力が回復している?!いやそれどころか怪我まで……」

「なんだ、疲れが一気になくなったぞ!」

「おい、ハルトこれは一体なんだ!?」

「何って…やっぱりこういう時は豚汁でしょ?あれ口に会いませんでしたか?豚肉の代わりに途中で狩ったオークキングが不味かったのかな?」

「いや、すごくうまかったぞ…ではなくてなぜ魔力が回復している……?!え?オーク?キング?」


 なんだこの食材は…周囲を見れば騎士も住民達も謎の回復に驚きを隠せないでいた…オークキングって食えるのか?


「そうなんですか不思議なこともありますね…鑑定したら最上級食材って表示されてたから大丈夫だろ……」

「?何か言ったか?」

「いえいえ…おかわりありますよ?」


 そんな問答をしていると、ハルトの店から、ピロピロとき、慣れない音が聞こえてきた…店舗の壁に付いている白い箱が点滅して音を鳴らしていた…ハルトはそこから長方形の物体を取り外すと耳に当てて会話を始めた。


「はいはいどうしたのリカ?」

『ハルトさんそれがちょっと困った事になっちゃって…こっちに来れないかな?』

「わかった…こっちの支援を終わらせたらすぐに行くね」


 ハルトはその物体を再び操作すると再び会話を始めた。


「もしもし?あ、アンジェ?」

「!?アンジェリカ?」


 この通信はシャクテンに繋がっているというのか?

ギルドに設置されている巨大な魔石を使用し膨大な魔力を使用して行う緊急通信でやっとシャクテンに繋がるというのに……


「……じゃあよろしくね」

「ハルト…今アンジェリカ様と通信を?」

「うん…このままじゃ復興支援もままならないからね…応援を呼ぼうと思って」


 そのまま馬車の後ろで何やら作業を始めた。


「危ないからその中には入らないでねー」


 次の瞬間、巨大な魔法陣が現れその中から巨大な物体が二つ現れた…大型の馬車?

それを見た住民達から驚愕の声が上がる。

ハルトはそれに近づくと先頭部分を開き中から一人の女性を連れ出した。


「アンジェリカ様?…え?シャクテンにいるのでは?」

「おお…デリンジャー殿…間違いない私はさっきまでシャクテンにいたぞ?」

「…ここはエルリンゼですよね?こんなに簡単に移動が……」


 もう一台の馬車から現れたのはアリアンレーゼ様の次女のリアだった…彼女もシャクテンに残っていた筈では?!


「じゃあ荷物を下ろすから手伝ってもらえるかな?」


 ハルトが巨大な物体…『一番星』と『綺羅星』を操作すると荷台部分が開閉し中の物資を配布し始めた……主には食料やポーション…簡単な毛布や衣類もあった。


「これほどの物資を…個人が用意するのは異常ではないか?」

「…うん…まあ…ハルトだから…」

「そうじゃの…ハルトじゃもんな…」


 デリンジャーの疑問に対して、既に二人は思考を手放したような応えを返した。


 その後合流したモールスにも豚汁を振る舞い私と全く同じ反応をしていた。

そんな何に対して『まあハルトだから…』と答えておく。

やがて準備を整えたハルトとアカメは侯爵様の居る砦へと向かう事になった。


「お兄様…ここの守護はお任せします……ハルト…私も同行しよう」

「じゃあ助手席にどうぞ…アカメ準備はいいかい?」

「大丈夫よハルトくん」

 











「……こうして私はハルト達とデガスト砦に向かったのだ……」


 そこで話を一旦切るとデリンジャーは両手で自分を抱きしめた。


「……そこで……アレが現れたのだ」

 

 何か思い出したのか彼女の指先が小さく震えた。

 


評価ありがとうございます 

ライト感覚で文章作成する試験的な練習作だったのですが ついつい加筆してしまいます。

仕事の都合でその辺りに波がありますのでご了承ください。


不定期の土曜日18時更新です。

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