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食料品販売店中間管理職異世界転生物語  作者: VATA


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15/18

本日の営業日報


「ふぅ…」


 アンジェリカは目の前の帳簿に記入を終えると小さく溜息をついた。

彼女はエクスワイヤ領に出掛けているハルトとリカの代わりにダイコクの管理を任されていた。

 アストリアーシェも居るが彼女の立場を考えると頻繁に人目につかせる訳には行かない……なので彼らの住居でもある小春亭にて管理を行なっている。


「それにしても…凄い売上じゃな…」


 本日の営業数値を見て思わず喉が詰まりそうになる…このダイコク商店だけで昨年のシャクテンの数ヶ月分の全体売上を叩き出していた。

初めてあった時はとんでもない取引を持ちかけてきた危ない奴かと警戒したが……


「ふふ…」


ノーム族であるアンジェリカは見た目も小さく女性としての要素は少ない…

種族がら小柄で力も弱いノーム族は多種族の庇護下の元で生活をしていた。

雑用、荷物持ち、家事手伝い……言い方を悪くすれば合法的な奴隷である。

その反面手先が器用で装飾品や細やかな作業はドワーフ族にも負けず劣らない一面を持っているが、それでもこの世界での社会的な地位は高くなかった。

そんな一族の地位向上の為にアンジェリカは努力した…

彼女の有するレアスキル『演算』のあり、商業ギルド職員として働く事になった彼女は一心不乱に働いた結果、ギルド長の地位まで上り詰めた……同じく良い歳になっていたのだが……まさか婚期を逃したこの自分にこの様な幸せが待っていようとは…

リリシーには申し訳ないが…彼女にも苦労をかけた分、良い縁談でも見繕ってやろうかね……


「……ところでこの『営業日報』ってのはよく考えたもんじゃな」


 ハルトが毎日その日あった出来事や近隣での出来事、商品の動きなどの日記の様に記載していた報告書を見たアンジェリカは『使える!』即座にそう確信し、ギルドでも同様の報告書の作成・共有を義務付けた。

お陰で情報の共有や取引記録を記載する事で取引でのミスが激減した。


「…しかしハルトは何処でこんな知識を……」


 改めて考えれば考えるほどハルトとリカは素性が知れない。

この世界の常識に疎いかと思えば誰も思いつかない様は素材と食材の組み合わせで新たな食文化を流通させたり…あの年齢で経営についての知識と技能がずば抜けている…それこそ何十年も現場を経験したベテランのような気配を持っている。

 先日も初めてこの街を訪れた一行に対して的確に案内を行い、その使用方法や用途についても的確に説明し、予想以上の取引を結んでしまった……並大抵の事ではない。

 基本的にこの街の住人の半分は冒険者である。

なので血の気も多く短気である…商談中に流血沙汰になる事が日常茶飯事なのがこのシャクテンである。

 それが怒鳴り散らす冒険者を言葉だけで鎮めてしまい、お得意さんしてしまう現場を何度も目撃した……あの歳であの胆力はおかしいだろ?!私でも腰を抜かしてしまいそうになる程だ…


「……使徒か……」


 アストリアーシェがその可能性を示唆していた……

神の導きによって異界の地より招かれる異世界人……それが使徒だ。


「そういえばハルトたちは大丈夫じゃろうか?」


 数日前、ギルド魔導通信によって南の領地で魔物が活性化しているため、エクスワイヤ侯爵が騎士団と共に出発したとの連絡を受けていた。


「アンジェ!大変だ!」

「珍しいな…アーシェがそんなに慌てるなんて魔物の氾濫でも起きるのじゃろか…」

「その氾濫が起きたのよ!!」

「な、何ぃ?!」


 シャクテンのギルド全てに緊急魔導通信が入り、エククワイヤ領の南方都市エルリンゼに魔の森から魔物が溢れ出たとの知らせが入った。

さらにその南方の侯爵の向かったデガスト砦は安否は不明。


「くっ!すべてのギルドに緊急依頼を……?何だ?」


 アストリアーシェとの会話中に室内にピロピロと音が鳴り響いた……

机の壁に取り付けられた機械が青く点滅していた……


「これか?」

『もしもし?あ、アンジェ?』

「?!ハルト!ハルトなのか?!無事なのか?!」


 機械の持ち手から聞こえてきたのはハルトの声だった。

この設備は『ダイコク商店』内でのみ使用可能な『内線電話』という通信機能らしい……


『えーとエルリンゼの街は大丈夫なんだけど復興支援が必要なんだ…勿論みんな無事だよ』

「侯爵様は無事か?!」

『えーと…確認はしてないけどそっちにはリカ達が向かったから大丈夫と思うよ』


 その言葉を聞いて安心した……

その後、ハルトから手順を聞いた二人は店をキーラ達に任せて街の外れに使っていない倉庫を購入して改装した『ダイコク備蓄倉庫』にやって来た。


「ええと…確かこのパネルに…暗証番号を…」


壁に設置された数字のボタンを入力してゆく……パネルの周囲に光が灯る。


『アクセスキーの入力を確認、緊急コード認証、顔認証システム副管理人者権限『アンジェリカ』認証、ゲートオープン』


 倉庫の全面の赤色灯が音と主に回転をはじめ目の前の扉が上に格納されていった。

中には巨大なタイヤのついたコンテナが2台あった…この世界では馴染みがないがハルト曰く『ピノ自動車の10トントラック』らしい。


「えーとここに乗ればいいんじゃな」

「では私はあちらに」


二人は手分けして運転席に乗り込む。

ドアがロックされ正面のディスプレイに文字が浮かび上がる。


「イチ…番…ぼ…し?…一番星!」

『搭乗者『副管理人アンジェリカ』様を確認、大型搬送ユニット『一番星』起動します』

体の芯から揺さぶるような重低音が響きエンジンが始動した…

ちなみにアストリアーシェの乗る方は『綺羅星』という名前らしい。


『マスターの座標を索敵……確認しました…緯度156・87経度67・12『城塞都市エルリンゼ近郊』位置特定しました…転送を開始します』

「は?あわわわ!?」


 目の前に光が集まり巨大なゲートが現れた…一番星はゆっくりとゲートを潜りはじめた……飲み込まれる!

そう思ったがドアは施錠されてここから逃げる事も出来ない状態だ!

視界が暗闇に包まれた先に眩い閃光にアンジェリカは目を細めた。


『転送完了…荷台の展開を開始します』

「はわ?」


 もう何が起きているのかわからない……そんな時、横の扉が開かれてハルトが現れた。


「アンジェ!助かったよ!」

「ハルト!何じゃこれは!!」


 アンジェリカはハルトに縋り付き説明を求める、決して怖かったからではない!断じて怖かったからではない!!

 その後ハルトはアストリアーシェを迎えに行き、同じように抱きつかれていた。


「ハルト…私怖かったんですからね?」

「ごめんねアーシェ…もう大丈夫だよ…」


 む、あざとい!アーシェのやつさっきまで『興味深いですね…』とか冷静だったくせに…ハルトの前だと猫を被りやがって……そうか、それが正解じゃったか…。










アンジェに内線電話で災害派遣の手続きをお願いした後、ハルトはすぐダイコク号の後ろのスペースを確保した。


「えーとストアマネージャーの機能で…範囲指定っと…」


 目の前のディスプレイに表示された周辺の土地の指定場所を触ると実際の場所に淡い光が立ち上った…


「危ないからその中には入らないでねー」


 周囲の避難した人たちに声をかける。


『一番星、綺羅星の転送準備完了…実行しますか?』

「はいっと」


 ハルトが画面をタップすると周囲の結界内部に2台のトラックが姿を現した。

見ればアンジェもアーチェも固まった表情のままだ…仕方ないよね……

ハルトは二人を迎えに行く…


「ハルト!何じゃこれは!!」

「ハルトさん!何ですかこれ!ブワーとなってぐわーって!何ですかこれ!」

「二人共落ち着いて」

「「落ち着けません!」のじゃ!」


 アストリアーシェがハルトにしがみついた…


「アーシェ?」

「ハルト…私怖かったんですからね?」

「ごめんねアーシェ…もう大丈夫だよ…」


 優しくその頭を撫でる…あ、アンジェもして欲しそうに見てる…よしよし






「それで一体何があったのですか?…魔物の氾濫と聞きましたが…すでに沈静化しているように見えますが……」


 周囲では戦闘の形跡が窺えた…実際街の城壁が崩れ、かすかに煙が立ち上っている箇所もあった…しかし周囲にいる人々からは安心したような雰囲気が漂っている。


「うーんそうだね…どこから説明したらいいかな……」


 ハルトは腕を組み考え込んだ……


「…僕たちがあの丘にたどり着いた時、人々が避難を始めていて城壁で魔物と騎士団の戦闘が始まっていたんだ……







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