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食料品販売店中間管理職異世界転生物語  作者: VATA


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12/18

その名は『名代契約』


「…話の途中なのに…申し訳ありませんでした」


 表情の抜け落ちた顔でリカは頭を下げた。


「いや…こちらの態度も失礼した…リカと言ったな…お前の言う事も最もだ…アリアとは後でしっかりと話をしたいと思う…申し訳なかった」


 椅子に座るアーサーはリカの謝罪を受け入れてこちらに頭を下げた。

アリアンレーゼに聞いていた様に地位や権力に囚われず、人間性を重視してくれる誠実な人物であった。

この件に関してリカが処罰される事はないだろう。


「リカ…お前は…凄い奴だ……」

「レネ?…ふふ…ありがと」


 何かレネが赤い顔でリカを絶賛していた……それをどこか憂いた様な表情で見つめるアストリアーシェ……まだこの王女コンビにも秘密が多そうだ……










「では…こちらがここ半年のシャクテンの帳簿です」


再び仕事の話になり、アンジェリカとネルギンスも同席して報告の会議が再開した…


「?!飲食業の売り上げの伸びが凄まじいな…利益が三倍だと?!」

「更に周辺の農地は豊作が見込まれます…収穫も前年の二倍は見込めます」

「二倍?!」

「食生活の充実と公共浴場による衛生面の改善が労働者の心身ともに大きく改善できていると思われます」

「それほどにか…」


 エクスワイヤ侯爵夫妻とネルギンス、アンジェリカを含む、各ギルド長達との真面目な話が続いているので、ハルト達は少し離れたテーブルに移動してお茶をしていた。


「すごいね…そんな改善されたんだ…やっぱりネルさんは凄腕だね」

「何を言っているのですかハルト様…全てハルト様のダイコク商品の効果ですよ?」

「そんなわけないでしょ〜」

「「「そんなわけあるんだってば!」るんだよ!」るんですよ!」


 シグナル3姉妹の息ぴったりのツッコミのハーモニーが心地良い。


「ハルトさん…実際この街の食生活はすごく良くなったんだよ?アンジェだって身長伸びたって言ってたし…ほら…少し体つきも女性らしくなってるでしょ?」

「そ、そうなんだ…」

「味や見た目はもちろんですが、効率よく栄養摂取するための調理方法が以前とは比べ物にならないほどですね」


 リカが呆れた顔で、そういうが…リアモードのアーシェまでもが肯定的な意見を述べた。


「ほら、荷運びをしてくれてる子達も最近は身長も伸びて大きくなってきてるじゃない?…彼女達も孤児院でもお腹いっぱい食べられるって喜んでたでしょ?」

「あー確かに…」

「それに女性達は自分磨きに一生懸命だしな……目標があると人間は頑張れるものだ」

「そこはお母さんもとても気になっていたのよ!アリアちゃん一体どんな魔法使ったのかしら?」

「お母様?!」


 いつの間にか、こちらのテーブルにアリアンレーゼの母親であるリリエンティーヌが参加していた。


「貴女達…みんなお肌が綺麗よね?髪もすごく綺麗だわ…どんな秘密があるのかしら?」

「…お…オカアサマ一体何のことデショウか?」

「うふふ.アリアは相変わらず嘘が下手ね」


 リリエンティーヌは笑顔だが…謎の圧力がその場を制した。


「街の発展も凄いと思うけど……その中心は貴女達ではないかしら?…特にハルトさん……とか?」

「リリエンティーヌ様…一体何を根拠に?」

「そうね…まずはお互いに腹を割って話しましょうか…リア…いいえ、アストリアーシェ王女殿下」

「?!…流石はエクスワイヤ侯爵家の情報網ですね…もう少し時間を稼げるとは思いましたが」

 

 アストリアーシェはため息をつくと眼鏡を外して変装を解除した。

向こうの席でアーサーが驚きの顔をしていた。


「うふふ…リアは有能だもの…素性を調べたくなりますわ」

「ダミーの経歴に惑わされないとは…流石ですね…リリエンティーヌ様…」


 アストリアーシェは観念した様にアリアンレーゼに目配せした。


「…やはり侯爵家を引き入れるには貴女からの方が良いですね……」

「…お母様にはこちらを…」

「何かしら?」


 アリアンレーゼが手元の箱を開いてみせた…中には液体の入った小瓶が数本並べられていた。


「…肌質改善の『スキンケア化粧品』のサンプルですわ」

「スキン…?サンプル?」


 リリエンティーヌの目の色が変わったのをアストリアーシェは見逃さなかった。

そこからはアリアとアーシェの二人が捲し立てる様に説明をする…リリエンティーヌの顔がみるみる笑顔になる。


「…試しても良いかしら?」

「勿論ですよ…レネ…リリエンティーヌ様を例のお部屋に…」


 アストリアーシェに声をかけられたレネが彼女を奥の部屋に連れて行く…最近改装された『サロン室』に行った様だ。


「…後は侯爵様だけですね…」


視線の先ではアーサーがこちらを見据えていた。


「まさか王女殿下とは……」

「いえ、侯爵様に雇われた侍女のレネでございますよ?」


 アストリアーシェは『今の自分は王女ではない』からいないものとして扱って良いと示してみせた。


「……シャクテンの現状は理解した…この数字が本物ならば素晴らしい事だ…先程,街を見たが…以前より活気があったな…」

「そうでしょう?それも全てハルトの…」

「だが、それは彼の『施し』なのか?違うだろう?これは商売の筈だ…」

「それは……」

「此処までの数字を見れば…この発展は異常だ…それにネルギンスやアンジェリカを表に立たせお前達は身を隠す…やがてこの勢いは王都にも届くだろう…我らから見ればこれは国家転覆や王位簒奪の下準備と考えてもおかしくはないぞ?」

「「「!?」」」

「お待ちくださいお父様!ハルトは決してそんな…!!」

「…いえ…侯爵様の言葉にも一理あります…此処まで発展させた商品の流通と経済を回す資金力…確かに疑われますね」

「ええっアーシェ?…そんな事考えてないよ?」

「ハルト…わかっているわ……私もこの街に来る前は異様な発展を続ける街に懐疑的な目を向けていたわ…実際にこの街を訪れて、そんな危険なものではないと理解することができたけれど、噂でしか知らない人達にとってはあり得る事だわ…」

「うーん…そうなのかなぁ…」

「ほら、ハルトさんアレよ!『広告で見たらすごく美味しそうだったのに実際に買って食べたら思ってたのと違う』っていつもみんなが言ってた…」

「あぁっ!なるほど!あれかぁ…」

「…何か違う様な気がするのですが…」


 常連の奥様方に買ってくれるまで根気強く説明した思い出が蘇る…

実際は街はすごいと聞いていたが訪れたら本当に凄かっただけなのだが。


「とにかく私はこの国やこの街をどうにかしようなんて気気持ちは一切ありませんから…少なくともこの町で過ごしてみて理解してもらえたら…」

「うむ…それがよかろう…」


今日のところは顔合わせが出来たのでいいかなと思っていたところにリリエンティーヌ様が戻ってきた。


「アーサーすぐに契約をしなさい!」

「リリ?!しかしだな。」

「何事にも慎重なところはあなたの美点ですが、今回は決断すべき時ですよ!!ハルトと言いましたね…ええ素晴らしいですわ!アリアの相手としても申し分ありませんわ」

「リリ?!」

「一体何が?」

「お母様も、ハルトさんの化粧品の素晴らしさの虜になってしまったようですね」

「うふふ…アレは抗えないですものね」


 後ろでアリアとリアが悪い顔をしていた。

その間もリリエンティーヌがアーサーを説得するが、謎の抵抗を見せるアーサーにアリアがついに痺れを切らした。


「はぁ…ハルトさん…例の物を」

「アリア…しかし…」

「お父様を堕とすにはアレしかありませんわ」


 アリアンレーゼに言われハルトは収納から渋々箱を取り出した。


「防音結界」


 アリアンレーゼはテーブルの周囲に結界を張ると、両親を対面に座らせ、ハルトと共に着席した。


「こちらを…銘は『スントゥリー・ザキヤマ』…35年ものです」

「!!なんと見事な…」


 ハルトがテーブルの上に出したのはダイコクでもよく売れていたウイスキーのボトルだった…少し高いやつなので瓶の造りは凝っているし、専用の箱に入ってたりする。


「お父様はお酒好きですものね…コレは本来王家に献上してもおかしくないものですよ?」

「いやしかし…うぐぐ……だからと言ってアリアの幸せを考えればモノと引き換えなど…」

「あら?まるで私がモノに釣られてアリアを差し出したみたいな言い草ね」

「リリ…いや、そんな訳は…」


 アーサーは墓穴を掘ったらしい。


「あら?認めて頂けるなら私は構いませんわ…私はハルトが良いのです…幸せになる自信があるわ!家の事は弟が居るし…不幸な政略の駒にされるよりも、比べものにならないほどの幸せな縁談だと思いませんか?」

「しかしハルトには既にリカがいるのだろう?公爵令嬢が側室扱いなど…」

「あら?私は気にしてないわ…それにハルトは順番など関係なく、私達を愛してくれるもの……ハルト…アレを」

「う、うん…」


 新たにハルトがテーブルの上に小箱を出した…アリアンレーゼが中から2本の小瓶を取り出した。


「お父様こちらは『育毛シャンプー』と『育毛剤』です」

「?!なん…だと…?!」

「お父様は最近頭皮を気にされてましたよね?こちらの商品を使ってケアされるのはどうでしょう?もちろんこちらはお父様だけにお渡しする商品です…勿論ハルトの事を認めて契約してくれればですが」

「これだけの食料とポーションが手配できるなら南部の境界地帯への支援もスムーズになるな…」


 アーサーは先程までの抵抗が嘘の様に手の平を返した。

やはり男性にとって頭の問題は深刻らしい。


「…南部?」

「あぁ…ハルトさんは情勢には詳しくないものね…」


 アーシェの説明によると南部の境界は魔族との紛争が起きており前線である南部領主の領地との境界は常に緊張状態らしい…隣の領地であるため、エクスワイヤ領は支援を行っているのだった。


「よかろう…ハルト…お前とは我がエクスワイヤ公爵家が『名代契約』を結ぶ事としよう」

「…名代契約?…とは?」

「エクスワイヤ公爵家が一番の取引先として優先する事でハルトさんは公爵家の後ろ盾を得る.と言った所ですね」


 アーシェが答えてくれた。


「業務提携みたいなものかな?」

『報告、エクスワイヤ侯爵家との提携が可能です提携しますか?』

「?!…じゃあ…します」

『了承しました…契約内容を書面にまとめます……』


 ハルトの手の中に一枚の書類が現れた……


 その内容は………

・ダイコク商店の後ろ盾としてエクスワイヤ侯爵家がその身元を保証する事。

・侯爵家に対しての商品の納入は一律の利益率での取引を行う。

・定期的に南部の城塞都市への補給物資の納入を行う。

・侯爵家の家紋の使用を認める。

・特定商品は侯爵家に優先的に納品を行う。

……などなど…

いわゆるスポンサーであった。


「…これで契約は成立した……ハルト…アリアンレーゼを頼むぞ…泣かせることなどしてくれるなよ……あと例の物を頼むぞ」

「うふふ…ハルトさん…私にもあの商品をお願いしますね」

「あ…はい」


 侯爵夫妻から謎の圧がかけられていた。


「これで…私もハルトの……」

「よかったわね…アリア…」

「リア…いえアストリアーシェ様…」


 数ヶ月の付き合いだが,アストリアーシェはアリアンレーゼを好ましく感じていた…その心情は妹の様な存在がその恋を成就させたのだ…喜ばしい事だ……

その反面,自分は意中の男性と添い遂げることはできないだろうと感じていた……

そんな複雑な感情を抱えたアストリアーシェをリカが見つめていた。


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