その名は『エクスワイヤ』
「戸締りよしっと」
リカは扉に鍵をかけると、本日の売り上げをアイテムボックスへと収納した。
今彼女は2つのアイテムボックスを所持しており、一つはプライベートな収納で、もう一つはダイコク専用の収納である。
後者の方はストアマネージャーと連動しており、金額を収納した瞬間に本日の売り上げが登録され、仕入れや経費などの細かな計算が処理されて、日々帳簿として記録され続けている。
「…相変わらず凄い能力ですよね…それ」
今日リカと一緒に店を手伝っていたアーシェがそんな意見をこぼした。
シャクテン祭りから数週間が経過しており、アリアンレーゼとアストリアーシェはいまだにこの街に滞在しておりハルトの「ダイコク商店」の店の手伝いをしてた。
「そうよね…凄いわよね…さすがハルトさんだわ」
「リカも充分凄いと思うのですが…」
「そうですね…リカの技術なら、十分に王城でも通用すると思うが」
アーシェが行動する時には、必ずレネが付き添う…
ちなみに、店の外には、護衛の騎士が一人用心棒ついでに周囲を警戒している。
「あのねアーシェ…レネ…私のこの力はハルトさんの力を借りているだけなの…それにレネはすぐ私を勧誘しようとするけれど、王家に仕える事だけが幸せじゃないと思うけど…」
レネとは最初、衝突する事は多くあったがリカと人柄とその実力を見て彼女の態度は軟化した。
逆に今では、暇な時間さえ見つければリカの技術を学ぼうとリカにべったりだった。
「…リカ…今更だが、出会った頃は、私はお前達に良い印象持っていなかった…そればかりかリカに対して暴言のような物言いをしてしまった事を許して欲しい…」
「ほんと今更ね…別に気にしてないわ…まぁその謝罪は受け入れてあげる」
「ふふ、これでもレネはずっと気にしていたのですよ?」
「アーシェ!」
「ほおん?なるほど…レネがデレたのか…」
「……時折リカは意味不明な事を言うが……何はともあれ感謝する」
「それはともかくレネは侍女達をしっかり管理しなさいよね!ハルトさんには言い寄るのはアーシェとアリアだけで間に合ってるから!」
「あぁ…先日の……」
先日ハルトが小春亭で入浴中、数人の侍女が「お背中流しまーす」と乱入してきたのだ。
ハルトさんの悲鳴を聞きつけたアカメによって未遂に終わったが……
「すまない…私からも言って聞かせておく…」
「アーシェ!あなたの手を煩わせるまでもありません!私がしっかりと躾けておきます!」
「…でも、彼女たちの境遇を考えると…ハルトさんはとても魅力的に見えるものね…」
アリストリアーシェの次女達は下位貴族の次女や三女が多い… 平民出身の者も居る。
第一王女でありながら……である。
ハルトもリカもあまり首を突っ込みたいとは思わないが…彼女の微妙な立ち位置は何となく理解しつつあった。
「おかえり」
「ハルトさんただいま」
小春亭に帰ってきたリカはハルトを見つけると背後から抱きついた。
「ハルトさん成分を補充しないと…」
「リカ!くすぐったいよ!あははは」
じゃれつく2人を羨ましそうに眺めるアストリアーシェとアリアンレーゼに気がついたリカは二人を手招きした。
「はい、次はアーシェの番ね」
「らみゃっ?!わっ私はそんな…」
「リアモードからは想像でき無いくらいの狼狽ぶりね……」
「じゃあ私が!」
アーシェを押しのけてアリアンレーゼが前に出た
「ちょっとリカ!無理強いは良くないよ」
「「強制ではありません」」
「え…そうですか…」
「恥ずかしがってるだけなんだってば…ハルトさんは今日頑張った二人にご褒美として甘いささやきと一緒に抱きしめる位の優しい経営者ではないの?」
「それセクハラじゃないかな??」
「この世界では必要な事なのよ……それに純粋に褒めてあげるべきなのよ……この二人は特にね」
なんとなく言いくるめられた気はするが……頑張ったからには労いの言葉は必要だ……
「ア、アーシェ……ご苦労様…いつもありがとう」
「!ハ、ハルト…」
リカに言われる様にアーシェを優しく抱きしめるとその耳元で感謝の言葉を囁いた……周囲の侍女達から黄色い声が上がる。
アーシェは体を震わせ………気絶した。
「アーシェ?アーシェ!ちょっと!」
「アストリアーシェ様!!……なんて幸せそうなお顔で……」
駆け寄ったレネによってアーシェはソファーに寝かされた……その寝顔は幸せそうだ。
「次は私ね!覚悟はできているわ!」
「何の?…アリア……今日もありがとう…凄く助かってるよ」
「んっ!?」
同様にアリアンレーゼを抱きしめるとその耳元に囁いた……二人に感謝していることは事実だが、こうして言葉にすると照れ臭いものがある……
「当たり前れひょ!わらしはヒャルトにょためにゃら……」
「!!アリア?!」
アリアンレーゼは呂律の回らなくなった舌で何やら宣言する途中で……気絶した。
慌ててその体を支えるがその顔はいい笑顔だった。
「流石はハルトさんね……彼女達には最高のご褒美だわ」
「では今日からはアリアの番ね」
「えっ?!いや…リカ一体…何を」
「はいはい…ハルトさんにしっかり教えてもらうのよ」
突然リカによって部屋から連れ出されたと思ったら、玄関に連れて来られるとそのままハルトと二人で外に出されてしまった……このまま職場に行けという事らしい。
「アリアおはよう」
「お…おはようハルト……」
出会ってから親睦を深めてきたとは言え昨晩は気絶してしま失態を……ハルトを見ればそんな事は気にして居ない様だった。
「それにしても…アリアは侯爵令嬢っぽくないよね?」
「?!一体どういう意味よ?」
「あぁ…悪い意味じゃないよ…そうだなぁ…僕の中の『公爵令嬢』のイメージはもっとこう高飛車で傲慢なイメージだったんだ…アリアとは正反対だよね」
「っ!!…そ、そうか?私も権力のある家の人間だ…そんな風に振る舞う事もあるけど…」
「でもアリアの本心では無いよね?実際この街の皆んなにも割と友好的だし…優しいよね?」
「っ!!」
つまりハルトは私を謙虚で優しい人物だと思ってくれている様だ……
立場上、ここまでストレートに本心を語ってくる相手は家族以外には今までいなかった……
そんな風に思われているのかと思うと、急に顔が熱くなるのを感じた。
「そ、それで今日は一体何を?」
「あぁ…店舗での接客をお願いしたいんだけど……公爵令嬢にこんな事してもらっていいのかな?」
「庶民の暮らしを知る事も、私にとっては良い経験だ…」
「まぁ…いいとこのお嬢様学校の生徒もアルバイトに来てたしな…社会勉強って事かな」
「お嬢?」
二人で、そんな会話をしながら歩いているとお店に到着した。
「おはようございます…ハルト様」
「おはようキーラ…今日も一日よろしくね」
「はい!お任せください!」
開店したばかりのこの店の警備をシグナル三姉妹が請け負っていた……本日の当番は三女のキーラの様だ。
「ではアリア…仕事の説明を始めるね……」
「ああ…お願いする」
庶民の仕事など、簡単だ……そう思っていたアリアはこの後後悔する。
「おや?アリア様は?」
「あらリア…おはよう…アリアならハルトと店の方に行ったわ」
遅れてやってきたアストリアーシェがアリアを探していた。
「何かあったの?」
「いえ…エクスワイヤ侯爵から手紙が…」
「あら?アリアのご両親ね……?何か問題?ヤバい人なの?」
「いえ…公爵様は誠実で寛大なお方です…奥方様も温厚で素晴らしいお方です……ただ…アリア様は…遅くに産まれた長女ですから……」
「あー…親バカなのね?」
「…はい…」
聞けば、今回の視察をなんだかんだと理由をつけてこのシャクテンに留まり続けているため、公爵夫妻が心配して何度も手紙を送ってきているのだと言う……そしてついには、このシャクテンに訪問する連絡が来たのだった。
「あーそっかー…でも…誠実な方ならダイコク商会の有用性はご理解していただけるのでは?」
「…確かにそちらは問題ないと思います……あるとすれば……」
「アリアがハルトさんに惚れちゃってるって事かー…いやーハルトさんモテるねぇ…まぁハルトさんなら大丈夫でしょ…」
「アリア…大丈夫?」
「…うぅ…覚えることが多すぎて、頭がパンクしそうだわ…」
「…少し休憩しようか…キーラ…アリアと一緒に上で休憩しておいで」
「しかし…護衛が…」
「キーラは真面目だなぁ……『従業員が体調崩したみたいなんだ…心配だから看病がてらしばらく一緒にいてあげてほしいな』……だめかな?」
「…ハルト様はお優しいですね…主人にそう言われては、護衛としては従うしかありませんね…さっアリア様…少し休憩しましょう…きっと美味しいおやつが用意してありますよ」
「ごめんなさいハルト…でもお店が…」
「?今の時間は空いてるし、これぐらいは1人で大丈夫だよ?」
「「「えっ?!」」」
ハルトの発言に周囲の従業員から驚きの声が漏れた…社畜のハルトにしてみればワンオペなんて当たり前だ……
「…ではその言葉に甘えさせてもらうわ…」
アリアは自分を休ませるために言ってくれた社交辞令だと思う事にした……
「今ならほんとに空いているから、他の子たちも休憩に行っておいでよ」
社畜って恐ろしい…
「…邪魔するぞ…」
「いらっしゃいませ」
1人で作業していたハルトのもとに男性の客が声をかけた。
金髪の40代位の男性は、やや上質な皮鎧をまとっており、見た目ベテラン冒険者……もしくは高ランクの名のある人なのかもしれない。
「……」
「何かお探しですか?」
男性は店内をくまなく観察していたのでハルトは声をかけた。
「……ここは…雑貨屋か何かか?」
「はいそうですね…平民向けの雑貨店になります」
「…そうか…」
「あ、ポーションですか?一応揃えてますよ」
「ポーション…」
訝しむ男性の前に今取り扱っているポーションを一式取り出した。
「午前中結構売れてしまったので…今あるのは中級だけですね」
「!!…中級……?!おい…コレは上級ポーションでは無いのか?」
「中級ですよ?」
ハルトの常識ではポーション=『肉体疲労時の栄養補給的なアレ』の認識であり、初級は『C』がつく飲み物で、中級は『D』がつく飲み物だった。
上級ともなれば専用の箱に入ったちょっと値段の良いエンペラー的なやつである。
「…ずいぶんとお疲れのようにお見受けしますが?」
「すまんな…どうしても外せない執務があり、急いでやってきたのだ…部下に任せてはきたが…上に立つものは、心労は尽きないな…」
イケおじはどこか影のある顔でふっと笑った…かっこいい…
(なるほど、なるほど…管理職的な地位の方なのでしょう……部下が多いとやはり大変なのでしょう……皐月ちゃんを思い出すな……)
前世の会社の社長である 皐月を思い出した。
(皐月ちゃんは皆の前では、どっしりと構えて凄く社長ぽかったけど、誰も居ない所ではめそめそして葉月ちゃんに慰められていたもんね)
ハルトには弱い自分がバレていないと思っていた皐月だったが、全部バレていた。
「それはさぞお疲れでしたでしょう…これは私からの心ばかりの贈り物です…お仕事頑張ってください」
そう言ってハルトが差し出したのは専用の箱に入ったちょっと値段の良いエンペラー的なやつだった。
「お前、これは上級ポーション?……いや、ありがたくいただいておこう」
箱から中身を取り出すと、なかなかの意匠を凝らしたデザインの瓶が現れた。
(ふむ、素晴らしい意匠のデザインだ…さぞ名のある匠の手に酔うものに違いない……)
本来なら金属キャップの筈だが、異世界謎パワーによってこちらの世界に合わせた容器に入っていた。
(ふむ…不思議な香りだ…上級ポーションはその効果ゆえに味も酷いと聞くが…)
男はため息をつくと、腰に手を当てて一気に飲み込んだ。
(見た目の良いオジサンは何をしても絵になるなぁ…)
週明けの通勤時にコンビニの前で多くのおじ様達が同じ様に『会社』に向かっていたことを思い出した。
男は飲み終えた瞬間、目を見開き自分の体の変化に戸惑った 体の奥底から湧き上がる魔力と体力……ひさしき忘れていたあの若き頃の躍動感……
「お前、これ上級いや、エリクサーじゃないか?!」
「何を言ってるんですか?そんなわけないじゃないですか…」
「いや、まぁ確かに…違うのか?しかしこの効果は…」
男はそれでも何かをぶつぶつ言っているが、先程より元気そうになったのでよかった。
(エリクサーってなんだろ?病院で処方して貰うやつかな?)
ファンタジー要素には疎いハルトだった。
「こうしてみるとこの店には見慣れ無いものが多いな……これは一体なんだ?」
「それはですね…」
落ち着きを取り戻した男は、やがて店内の商品に興味を示した。
「あのお菓子、とてもおいしかったわ」
「ですよね!ハルトさんのチョイスはハズレがありませんね」
休憩を終えたキーラとアリアンレーゼが2階から降りてくると、そこには豪快に笑う男の話を聞きながら、手に持ったバインダーに細かく在庫チェックを進めていくアルトの姿があった。
「なんて器用な…」
「お、お父様、!」
「?アリア!!」
その声に、男ははっとして椅子から立ち上がりアリアンレーゼに駆け寄った。
「一体どれだけ心配したと……なんだその服装は?」
「えーと…社会勉強というか…何と言うか……」
(アリアンレーゼ様の父上となると…エクスワイヤ侯爵!流石に侯爵令嬢にお店の売り子をさせているなど……)
キーラはハラハラとしながら事の成り行きを見守った。
「えーと……これは庶民の…」
「アリアのお父さんでしたか……今アリアにはお店の売り子としての研修をしてもらってるんです」
「!!売り子!?」
「!!ハルト!!」
必死に誤魔化そうとしているアリアンレーゼの努力も虚しく信じられないかもしれないがハルトが正直にありのままを話してしまった。
「貴様…侯爵令嬢であるアリアンレーゼに店の売り子をさせようと言うのか?」
「ええ…実際にやってみなければ庶民の生活や暮らしは判らないだろうし…勉強になると思いますけど?」
「むう…それは一理あるが…しかし…」
「それに可愛い子が売り子してたらお客さんも増えますしね!」
「!!えっ?私が可愛い?!」
「!!貴様私の娘を客引きに!!可愛いのは認めよう!!だが貴様…!!」
「待ちなさい!」
エクスワイヤ侯爵が腰の剣に手を伸ばしかけた時,入り口から女性の声がかけられた…
「しかし…」
「待てと言ったでしょう?あなた」
入り口から現れたのは侍女を引き連れたドレスの女性……
「お母様!」
「ご機嫌よう…アリア…」
お母様と呼ばれた女性…現エクスワイヤ侯爵の妻であり、前エクスワイヤ侯爵の一人娘
リリエンティーヌ侯爵夫人だった。
「…ふむ…」
「お母様?」
リリエンティーヌはアリアンレーゼに近寄るとその衣装に手を伸ばした。
(庶民の物とは思えない良質の生地ね…裁縫も見事としか言いようが無いわ…背後のリボンも見事な刺繍だわ…よほどの名工による仕上げとしか思えないわね……)
やたらと高評価だが、この制服は『ストアマネージャー』の『備品管理』によって手配したダイコクの制服をこちらの世界に合わせてリカの監修によりデザイン変更したものだった…
「さて…ハルトと言ったかしら?少しお話をしましょう」
リリエンティーヌは扇子を広げるとその口元を覆い隠した……其処には獰猛な笑みが浮かべられていた。
場所を小春亭の貴賓室に移し、ハルトとアリアンレーゼ…その対面には彼女の両親、
アーサー・フォン・エクスワイヤ侯爵とその妻、リリエンティーヌが座っていた。
「お口に合うかどうか……」
「…お構いなく」
そこに入室してきたリカとアオリがお茶を置くとそのまま窓際に移動した……
二人共侍女服に身を包んでおり野次馬根性が垣間見えた。
「レーゼ…予定よりもずいぶん帰りが遅れているようだが?」
「えーっと…お父様…この街の発展はご覧になりましたか?」
「…以前来訪した時よりもずいぶん活気があったな」
「活気どころではありません…革命ですよ?」
「ぬぅ…それ程か……」
「失礼します……侯爵様…」
そこにリアモードのアストリアーシェがやってきた。
アーシェはエクスワイヤ公爵にも正体を明かさずに採用試験を受けたらしい。
「リア…報告は聞いているが…少し帰りが遅いのではないか?」
「申し訳ありません…シャクテンの発展具合が素晴らしく、アリアンレーゼ様と共に領内に普及可能かどうか検証しておりましたので」
「…そうか…」
エクスワイヤ侯爵はそこで視線を初めてハルトに向けた。
「…ハルトと言ったな……」
「…はい…」
先程会話をした時とは打って変わってその目には明らかな怒りが籠っていた。
(何か怒らせるようなことを……?!もしかして発展させたら不味かった?!)
そもそも自分の領地で勝手に商売始められて知らない所で盛り上がってたらそりゃあ素直に喜べないかもしれない。
「領主様…この度は私が…「私のアリアンレーゼを誑かしたのは貴様かっ!!」……「「「そっち?!」」」」
思わずリカやアーシェ達と声が被ってしまった。
「あの素直で可憐なアリアンレーゼが何日も家に帰ってこないなんて…!!悪い男に騙されているんじゃないかと心配してやってきてみれば!!」
「アリアめっちゃ愛されてるじゃん」
「子煩悩な方だとは思っていましたが、まさかここまでとは」
「お父様!恥ずかしいからやめてよ!」
「公爵様!落ち着いてください!私は決してお嬢様を騙したりなど…」
「ええい!言い訳無用!」
「アーサー!お待ちなさい」
公爵の手が再び腰の剣に伸びた時、隣の夫人が声を上げた。
「お母様!」
「止めるな!リリエンティーヌ!これは男同士の…!」
「アーサーまだその方のお話を伺っていませんよ?決め付けは良くないといつも自分が言ってるじゃありませんか?」
「うっ…」
「それに何が男同士ですか…ただのヤキモチじゃありませんか」
「うぐう」
どうやらこの場で一番力を有しているのはリリエンティーヌ公爵夫人の様だ…
公爵様は奥方様にはあまり強く出れないタイプの様だ…
(夫婦仲も円満かつ、尻に引かれることで、家庭内の争いを最低限に押さえ込む、そのスタイルは理想の家庭環境だが、その抑圧されたストレスが周りに出ちゃうタイプの様だ…かつて共にダイコクで働いた社員の人達に通ずる物があり好感が持てる…)
「お父様!私は騙させてなどおりません!ハルトさんは誠実な方です!」
「出会って数日でその男の何がわかるのだ?!お前にはもっとふさわしい相手を」
「私はお父様の言いなりで嫁ぐつもりはありませんわ!……寧ろ今まで自分の意思を持っていなかった私が今は自分の意思で行動しているのです!」
「あらあら…アリアちゃんしばらく見ない間に大人びたことを言うようになったのね…あら?ちょっと肌が綺麗になってない?」
「アリア!父親に向かってなんて口の聞き方を…!!」
「私は公爵家の娘として常に家に恥じない行動を心がけてきましたわ!今回のこの街の発展も我が公爵領にとって有益なことですわ!」
「その有益な事とアリアちゃんの肌に因果関係があるのかしら?」
「……長くなりそうかな?お茶が冷めるからおかわり準備をしたほうがいいかなぁ?」
「そうね…アカメ達に頼んでお茶菓子も準備してもらいますね」
気がつけばエクスワイヤ一家で家族会議が開かれていた。
白熱する家族の会話に、周囲の者たちはやきもきしながらもお茶の準備を進めた。
「お父様はなぜ私の意見を聞いてくださらないのですか?!」
「お前の意見など聞くまでもない!親の言うことを聞いておけばいいのだ!」
「あん?」
公爵の言葉に反応したのは、お茶の準備をしていたリカだった。
突然室内に大きな音が響いた…リカが手に持っていたトレーを床に叩きつけたようだ。
驚いた全員が言葉を失って、その場に硬直した。
「リ、リカ?」
「なんでアリアの話を聞いてやらないのよ!親の言うことを聞いてりゃいい??!笑わせるな!それで本当に子供が幸せになると本気で思ってるの?!子供は親の操り人形じゃないのよ!!」
リカは幼い頃から『親の言うことを聞きなさい』と言われて育ってきた。
最初は『お手伝い』と言われ、部屋の片付けやゴミ捨てなどほんの些細なことだった。
母親にありがとうと言われるのが嬉しくて、積極的に『お手伝い』を行った。
その後も『お手伝い』と称していろんなことをさせられた。
洗濯や掃除に始まり、食事を作らされることもあった。
友達と遊ぼうとすれば『そんな娘に育てた覚えは無い』とか『ちょっとしたお願いも聞いてくれない酷い子だ』などと言われてしまう。
次第に友達と遊ぶ機会は無くなり、沢山居た筈の友達も離れていってしまった。
さすがに親の異常性に気がつき始めたが、既に両親は自分の知っている親ではなくなっていた。
『お前は親の言うことを聞いていればいいんだ』
最後はそう言われて終わることが多くなった。
「親は子を見守る存在だって教えてもらったのに!!…うっ…うぐっ…うわぁぁぁぁん」
「大丈夫だよリカ!…大丈夫…僕がついているよ」
ハルトに抱きしめられ、その胸の中で、子供の様に泣きわめくリカを見て誰も何も言えなくなっていた。




