39話 救出
魔法陣を叩き割り転移を発動させた。
目の前の景色が歪み見慣れていた工房から石造りの部屋に跳んだ。
湿気がこもり所々に苔が生えており、窓が無く、灯りが蝋燭しかないため部屋中が見渡せない。また異常なまでに部屋の中は生臭い。
(アプリはどこだ・・・)
目につく所にいないため周辺を探ると部屋の隅に様々な服や装備品が箱に詰められていた。
(この服はアプリの・・・指輪も取り上げられたのか)
箱の一番上にはアプリに貸した外套がのっている。外套にくるまれるようにアプリが身につけていたと思われるものが出てきた。
どうやらこの部屋は連れてきた魔女の装備をしまっておくための倉庫のようだ。
アプリの服などを腰の道具袋にしまう。
この道具袋はフェブの試作品で空間魔術の応用により見た目以上に物が入る。まだせいぜい普通の背嚢くらいしか入らないがその量の荷物がこのサイズに収まるだけでもかなり便利な魔導具だ。
(アプリはどこだ?)
怒りと狂気を押し殺しつつ扉の外の気配を伺う。
扉の向こうに誰もいないことを確認すると闇のマントのフードをかぶり、気配を極限まで消す。
(冷静になれ、俺が見つかればアプリが危ないんだ)
一つ深呼吸をしてから扉を開けて一気に部屋の外に出た。
部屋の外は石造りの廊下と扉が続いている。
息を殺しつつ廊下を進むと各部屋に人の気配がした。扉には鉄格子のついた覗き窓がついており、そこから中の様子を伺う。
「ひっく、ひっく・・・ううぅぅ」
部屋の中には小さな女の子がいた。
(捕まっている子か・・・こんな小さな子を)
再び怒りが湧き出し握りしめすぎた拳から血が出てきた。
「・・・見過ごせないな」
腰の短剣を引き抜くと鍵穴を切り裂く。扉を開けて中に入った。
「う、いや!!もうひどいことしないで!!」
「落ち着いてくれ。大丈夫、お兄ちゃんは酷いことは絶対しない」
女の子を抱きしめ、落ち着かせるように背中を撫でる。
「本当?本当にいじめない?」
「ああ、お兄ちゃんはここに捕まった女の子を助けに来たんだ。他に捕まった人はわかる?」
「わからない・・・この部屋と酷いことする所しか往復したこと無いの、ごめんなさい・・・」
今にも泣き出しそうな女の子を抱き上げ部屋を出た。
「怒ってないよ、一緒に探そう?お名前聞かせて?」
「私、リコっていいます」
「俺はジャンっていうんだ。よろしくね、リコ」
薄暗い部屋から出ると女の子はボロボロの格好な上にあちこち血がついている。
回復薬や回復魔術の効果で傷は残ってないが明らかに拷問にあっていたようだ・・・
次々に扉を開けていくと同じように捕まっていた人がいた。
「あなた・・・誰?今日は何をするのよ・・・」
くたびれた様子の女性がいた。リコもそうだったが布切れみたいな服を身にまとい血がにじみ髪もボロボロの状態だ。
「俺は冒険者のジャンっていいます。ここに連れ去られた仲間を助けにきました。一緒に逃げませんか?」
「はっ、魔女狩りに刃向かうっていうの?馬鹿じゃないの?」
「ええ、俺は馬鹿なんですよ。でも俺にとっては相手が誰であろうが関係ないんですよ。大切な子ですから」
「・・・本当変わっているわね。まあこのまま此処にいても死ぬだけだし、付き合うわ」
女の人は手を差し出して来たので引っ張り上げる。
「私はマリアよ・・・しばらくよろしく」
マリアさんを伴い更に捕まった人を探す。
その後更に2人見つけ、助け出した。
1人は精神がやられてしまったらしく俺の背中に負ぶっている。少女と女性の中間といった所の子で長いこと捕まっていたのだろう。こんな状態の子を見つけるとアプリを早く探さなくてはと焦りがでてくる。
もう1人の女性はマリアよりは若いが俺よりは年上といった人でミーシャと名乗った。
結果的に4人の女性を引き連れ最初の物置に戻った。
この階は全部屋探したがアプリはいなく、かわりに上に続く階段を見つけた。
「俺は上の階を調べてくるのでここに隠れていて下さい。
仲間を見つけたら戻ってきます」
「わかったわ、ここなら取り上げられた装備もあるし・・・」
「・・・時間稼ぎくらいはできます」
マリアさんとミーシャさんは装備品の箱をあさりあれこれ身につけていく。
「お兄ちゃん、リコおいていっちゃうの?」
リコは泣きそうになりつつ、抱きついてきた。
「お兄ちゃんのお友達を助けてくるんだよ。待っててちゃんと戻ってくるから。
マリアさん、後は頼みます」
「ああ、任せな。大切な子何だろ?早く行ってあげな」
「はい・・・あとこれを渡しておきます。
このナイフには封印魔術が彫ってあります。扉の四隅に刺しておくと簡単には開かなくなります」
ベストにさしてあるナイフを4本取り出しマリアさんに渡し扉を出た。
「さて、急ぐか・・・」
階段を駆け上がり周辺を伺うとある部屋に人が群がっていた。
気配を消した状態でそっと近づき様子を伺う。
「おいおい、面倒くさい魔女裁判なんか早く終わらせろよ」
「そうだ、その髪、瞳、男を惑わす美貌、どうみても魔女だろ」
「こちとら我慢してんだ、早くヤらせろよ」
「ううぅ、ジャン、助けてジャン」
「ん~?恋人の名前か~?残念だなぁ、お前はこの塔で俺たちの玩具になってから死んでいく運命なんだよ」
「お前ら少し黙ってろよ、判決をくだす。
汝は魔女として人心を乱し、世に不安をばらまいた罪により拷問により罪を洗い流した後に火炙りにて魂を清めることとする」
「よ~し、もういいか?いいよな。さてお楽しみタイムだ」
「イヤァァァ!!」
飛び出すタイミングを伺っていたがアプリの叫びを聞いた瞬間、頭の中で何かが切れる音がした。
「へへへ、簡単に壊すなよ・・・っ!!」
一番手前にいた奴を切り捨て、他の奴が気づかないうちに次々と首を落とす。
両手の剣はかつて無いほど滑らかに人を切り捨て、気づいたらアプリを押し倒した男と裁判官役の男2人を残して全て事切れていた。
「な、な、なんだてめぇ!!」
男達の死体を踏みつけながら距離を詰めると、アプリの上の男を蹴り飛ばす。
「アプリ、遅くなってすまない・・・」
「ジャン!!」
男の影からでてきたアプリは一糸まとわぬ姿でそこにいた。
その姿に再び怒りと狂気が湧き出し、男達をぐしゃぐしゃにしたいという欲求を抑える必要があった。
自分のマントを脱ぎアプリを包み込み抱きしめる。
「大丈夫か?」
「うん!!危ないところでジャンが来てくれたからまだ何もされてない」
涙で声を掠れさせながらアプリは腕の中から見上げてきた。
「そうか、じゃあ帰ろう、か!!」
逃げ出そうとこっそり扉の方に歩き出す裁判官と蹴り飛ばした男の2人にナイフを投げつけ倒す。
わざと急所を外し喋れるようにした男達を踏みつけると尋問を始めた。
「お前ら、魔女狩り部隊の奴らじゃないだろ。ここで何をしている」
不意打ちとはいえ明らかに弱すぎる男達に対して疑問を抱いたため確認したかったのだ。
「お、俺達は拷問係として雇われただけだ。上玉の魔女を好き勝手できると聞いたから集まっただけなんだ。命だけは助けてくれぇ」
裁判官が一気にまくしたてるのを聞きつつ、脱出方法を考える。
「本物の魔女狩り部隊は?」
「奴らはギルドとの戦争にとって返してったよ」
「そうか、それだけ聞ければ十分だ」
そういうと2人の背中に剣を突き刺し留めをさした。
「魔女狩り部隊が戻ってくる前に逃げるぞ、とられてた服だ」
道具袋から服を渡しアプリが着替えている間に逃げる方法を考える。
どうやらここが塔の一階でさっきまでいた所は地下らしい。上の階には拷問部屋があるようだ。塔の上につづく階段には血の匂いが充満し、生きた人の気配がしない。
「地下に他に捕まってる人がいるからその人たちと合流してからこいつらの馬車を拝借して逃げるぞ」
「うん、準備できたよ。ジャン行こう」
アプリと一緒に地下でマリアさん達と合流すると馬車を奪い塔から脱出した。
ここからは気づかれて追っ手がかかるまでに何処まで逃げられるかが勝負だ。
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