第9羽「ワクワクショッピング♪」
浮遊島の街ラヴァルシオンから戻った夜。
宿の窓の外には、静かな星空が広がっていた。
雲の上の街で見た古代の紋章。
ラビッシュという名。
耳の長い王の伝承。
たくさんの出来事があった一日だった。
けれど、フィーネの手の中にあるのは、一枚の小さな写真だった。
黒い猫耳を揺らし、少し照れたように笑う女の子。
ルナ。
月猫亭で出会った、大切な友達。
フィーネはベッドの上に座り、写真を両手でそっと持っていた。
「ねえ、ルナ。今日はね、空飛ぶ島に行ったんだよ」
耳がぴこぴこと嬉しそうに揺れる。
「ドラゴンに乗ったの! すっごく高くて、雲が近かったんだよ!」
少し間を置いて、まるで返事を聞くようにうなずく。
「うんうん。ルナもきっと好きだったよね」
扉のそばで荷物を整理していたミッツーは、その様子を静かに見守っていた。
フィーネはそれからも楽しそうに話し続けた。
遺跡のこと。
不思議な歌のこと。
ラビッシュの名前を見つけたこと。
最後に写真を胸に抱きしめて、ぽつりと呟いた。
「……ルナの声が聞こえるよ、父さん」
ミッツーは振り返る。
フィーネは少し照れくさそうに笑っていた。
「『すごいね、フィーネ』って言ってる気がするの」
ミッツーは穏やかにうなずいた。
「ああ。きっと聞いてるさ」
フィーネは嬉しそうに耳を立てた。
そして写真を見つめながら、そっと頬を寄せる。
「でも、旅の時は荷物の奥にしまってあるから……たまに寂しいの」
その言葉を聞いて、ミッツーはふと思いついた。
「それなら、ロケットペンダントに入れたらどうだ?」
フィーネが顔を上げる。
「ろけっと?」
「首から下げる小さなペンダントだ。中に写真を入れられる」
フィーネの青い瞳が、みるみる輝き始めた。
「いつでも一緒にいられるってこと?」
「ああ。肌身離さず持っていられる」
一瞬の沈黙。
そして。
「すごい!!」
ベッドの上でぴょんっと跳ねた。
「ルナとずっと一緒に旅できる!」
耳はぴんっ!
尻尾はぶんぶん!
「父さん、それ欲しい!」
「明日、街で探そう」
「やったぁぁ!」
⸻
翌朝、セレスティアの街。
フィーネはいつもより一時間も早く起きた。
「父さん! 朝だよ!」
「まだ早い……」
「ショッピングだよ!」
「知ってる……」
結局、朝食を食べる間も、フィーネはずっとそわそわしていた。
パンをかじりながら、
「どんなのがいいかな?」
スープを飲みながら、
「ルナには月の形も似合いそう!」
リンゴを食べながら、
「猫の形もかわいいかも!」
完全にテンションが上がっている。
⸻
街の装飾店に入ると、フィーネの目はきらきらと輝いた。
ガラスケースの中には、銀細工や宝石のついたアクセサリーが並んでいる。
「わぁぁ……!」
耳がぴんっと立つ。
「見て見て! これお花!」
「こっちは星だな」
「これはハート!」
「少し派手じゃないか?」
「ルナは控えめだから、もう少し優しい感じがいいかな」
フィーネは真剣な顔でひとつひとつ見比べていく。
そして次の店。
また次の店。
そのたびに、
「これもかわいい!」
「迷う!」
「全部ほしい!」
「全部はだめだ」
「えー!」
とても楽しそうだった。
⸻
四軒目の小さなお店。
隅のショーケースの中に、それはあった。
銀色の丸いロケットペンダント。
表には、小さな月と星の模様。
開くと、中に写真を入れられるようになっている。
蓋の裏には猫と月。
フィーネは息を呑んだ。
「……これ」
そっと手に取る。
模様を指先でなぞる。
「月猫亭の看板みたい」
ミッツーも静かにうなずいた。
「ああ」
「ルナにぴったりだよ」
フィーネの声は、とても優しかった。
⸻
店の人に写真の大きさを合わせてもらい、ロケットの中にルナの写真を入れた。
ぱちん、と蓋を閉じる。
フィーネは首にかけると、両手で胸元を包み込んだ。
青い瞳がじんわりと潤む。
「……あったかい」
それは金属の温度ではなかった。
大切な友達が、そこにいるような気がした。
「これで、ずっと一緒だね」
耳が嬉しそうに揺れる。
「ルナ、これからもいっぱいお話するからね」
⸻
夕暮れの街を歩きながら、フィーネは何度もペンダントを開いては閉じた。
「かわいい……」
「気に入ったか?」
「うん!」
フィーネは満面の笑みを浮かべた。
「ルナも喜んでると思う!」
そして胸元のロケットにそっと触れ、優しく囁く。
「これからも、一緒に旅しようね」
風が吹き、ロケットが小さく揺れた。
まるで「うん」と答えたように見えた。
フィーネはミッツーを見上げる。
青い瞳は、涙のあとを残しながらも、いつものようにきらきら輝いていた。
「ありがとう、父さん」
ミッツーは少し照れながら笑った。
「どういたしまして」
フィーネはロケットをぎゅっと握りしめる。
友達の思い出も。
父さんの優しさも。
全部、胸のすぐそばにある。
そして、いつものように明るい笑顔で振り返った。
「父さん、次はどこ行く?」




