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第5羽「リンゴは大好物なの!」

挿絵(By みてみん)


 その日の依頼は、森の奥にある薬草の採取だった。


 危険な魔物も少なく、比較的気楽な仕事。


 ミッツーは肩の力を抜きながら歩いていた。


 一方、フィーネは鼻をひくひくさせている。


「……父さん」


「どうした?」


「いい匂い!」


 耳がぴんっ!と立つ。


 青い瞳がきらきら輝いた。


「リンゴの匂いだよ!」


 次の瞬間。


 フィーネは弾かれたように駆け出した。


「おい、待て!」


「待てない!」


 待てないらしい。




 森を抜けた先の小さな広場。


 そこには一本の大きな木が立っていた。


 枝いっぱいに実るリンゴ。


 赤、緑、黄色。


 そして――。


「紫?」


 フィーネは目を輝かせた。


「すごーい!」


 ぴょんっ、とひと跳び。


 あっという間に木の上へ。


 さすが兎の獣人。


 身軽さだけなら、猿にも負けない。


 しゃくっ。


「赤いの甘ーい!」


 しゃくっ。


「緑はちょっと酸っぱい!」


 しゃくっ。


「黄色ははちみつみたい!」


 そして。


「紫は――」


 ミッツーの顔色が変わった。


「あれはまさか……!」


 冒険者時代の知識が脳裏をよぎる。


 カラフルアップル。


 食べると一時的に、色ごとに妙な魔法効果が現れる珍果。


「フィーネ! 待て!」


 しかし。


 しゃくっ。


「もう食べたー!」


 遅かった。



<異変その1 耳が止まらない>


 フィーネは木の上で満面の笑み。


「おいしかっ……あれ?」


 ぴこぴこぴこぴこぴこぴこ!


 耳が高速で動き始めた。


「耳が勝手にー!」


「赤の効果だな」


「何その冷静な分析!?」


 耳の動きが速すぎて、ぱたぱたぱたぱたと音がする。


「飛べそう!」


「飛べない」



<異変その2 声が高くなる>


「父さん、助けてぇ〜!」


 声が妙に高い。


 しかも最後が歌っているように伸びる。


「みゃ〜〜〜!」


「猫みたいになってるぞ」


「ほんとだにゃ〜〜〜!」


「順応が早いな」



<異変その3 体が光る>


 ぽわっ。


 フィーネの体が金色に輝き始めた。


「うわぁ! 私、神々しい!」


「無駄に後光が差してるな」


 木の上でポーズを取るフィーネ。


「見て! 伝説のうさぎ戦士!」


「ただの食いしん坊だ」



<異変その4 紫の真価>


 突然、フィーネの顔が真っ赤になった。


「……あれ?」


「来たか」


「なんか……ふわふわする……」


 木の上でぐらりと揺れる。


「おっと!」


 ミッツーはすかさず受け止めた。


 腕の中のフィーネは、へにゃっと力が抜けている。


 耳もだらん。


「眠い〜……」


「紫は眠気を誘うんだ」


「もっと早く言ってぇ……」


「言う前に食べたのは誰だ」


「わたし……」




 ミッツーの腕の中で、フィーネはとろんとした目を向けた。


「父さん……」


「なんだ?」


「リンゴ……しあわせ……」


「そうか」


「父さんも……だいすき……」


「……」


 ミッツーは少し照れながら、頭を撫でた。


「寝言は寝てから言え」


「もう寝てるぅ……」


 そのまま、すうすうと寝息を立て始める。



 数時間後。


 森の木陰。


 フィーネがぱちりと目を開けた。


「……あれ?」


「起きたか」


 ミッツーは隣でリンゴを剥いていた。


「私、どうなってた?」


「耳が暴れて、歌い出して、光って、寝た」


 フィーネはしばらく考え――


「……恥ずかしい!」


 両手で顔を覆う。


 耳まで真っ赤だ。


「でも、リンゴはおいしかった!」


「反省してるのか?」


「ちょっとだけ!」




 帰り道。


 ミッツーの荷袋には、赤と黄色の安全なリンゴだけが入っていた。


 フィーネはその横をぴょこぴょこ歩く。


「また食べたいなー」


「紫は禁止だ」


「えー」


「絶対禁止だ」


「一口だけ」


「だめだ」


「半分」


「だめだ」


「匂いだけ」


「それくらいなら」


「やった!」


 本当に匂いだけで満足するのかは怪しい。


 ミッツーはため息をつきながらも、どこか楽しそうに笑った。


 夕暮れの光の中、フィーネがいつものように振り返る。


 青い瞳をきらきらさせて。


 満面の笑みで。


「父さん、次はどこ行く?」



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