第3羽「剣も魔法も父さん仕込みだから!」
朝の陽射しが、宿の窓から差し込んでいた。
「月うさぎの夢亭」の朝食は、焼きたてのパンとふわふわのオムレツ、それに甘い木の実のジャム付きだった。
フィーネはほっぺたをいっぱいに膨らませながら、幸せそうに頬を緩める。
「ん〜! このジャムおいしい!」
「口に入れたまま喋るな」
「むぐっ」
慌てて飲み込み、胸を張る。
「ごちそうさまでした!」
「よし。それじゃ、今日は仕事だ」
ミッツーはテーブルの上に置いた羊皮紙を広げた。
冒険者ギルドから受けた依頼書だ。
⸻
<依頼内容>
妖しの森にて、光るリンゴを十個採取せよ。
報酬は銀貨八枚。
街の薬師が、夜目を良くする秘薬の材料に使うらしい。
ただし――。
「魔物に注意、か」
ミッツーが読むと、フィーネはにやりと笑った。
「大丈夫だよ!」
「油断するな。森の魔物は気配を消すのが得意だ」
「わかってるって!」
そう言って腰の短剣をぽんと叩く。
そして杖もくるりと回した。
「剣も魔法も父さん仕込みだから!」
その言葉に、ミッツーは少し照れくさそうに鼻をかいた。
「……まあ、そうだな」
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街から一時間ほど歩くと、薄暗い妖しの森にたどり着いた。
木々の葉は陽光を遮り、昼間だというのに夕暮れのような雰囲気だ。
フィーネの耳がぴくぴくと動く。
「うん、リンゴの匂いする」
「頼りになるな」
兎の獣人の嗅覚は、人間よりずっと鋭い。
フィーネは地面にしゃがみ込み、足跡を確認した。
「こっち!」
迷いなく駆け出す。
「待て、先走るな!」
「だいじょーぶ!」
元気な返事とともに、木々の間をぴょんぴょん進んでいく。
その身軽さは、まるで森の妖精のようだった。
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突然、茂みが揺れた。
飛び出してきたのは、牙をむいたウルフ型の魔物。
シャドウウルフだ。
普通の狼より一回り大きく、目が赤く光っている。
「フィーネ!」
「任せて!」
フィーネは素早く短剣を抜いた。
狼が飛びかかる。
その瞬間、彼女はくるりと体をひねり、紙一重で回避。
すれ違いざまに短剣で一閃。
銀色の軌跡が走り、魔物は地面に転がった。
「まず一匹!」
ミッツーは思わず感心する。
「見事だ」
「えへへ!」
尻尾がぶんぶん揺れる。
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だが、奥の茂みからさらに二匹現れた。
フィーネは杖を掲げる。
「風よ、走れ! ウィンドカッター!」
鋭い風の刃が飛び、二匹をまとめて吹き飛ばした。
そのまま木にぶつかり、気絶する。
フィーネは得意げに胸を張った。
「どう?」
ミッツーは腕を組んでうなずく。
「魔力制御も安定してる。威力も十分だ」
「やった!」
「ただし詠唱の最後が少し荒い」
「むぅ」
「でも、よくできた」
その一言で、フィーネの耳がぴんと立つ。
「えへへへ……!」
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さらに進むと、開けた場所に一本の不思議な木が立っていた。
枝には青白く光るリンゴがたくさん実っている。
「見つけたー!」
フィーネは目を輝かせた。
「きれい……」
慎重に十個採取し、布袋に詰める。
依頼達成だ。
ミッツーはほっと息をついた。
「これで今夜の宿代は確保だな」
「おいしいごはんも!」
「そこが本命だろ」
「もちろん!」
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帰り道。
木の根につまずいたフィーネが、派手に転んだ。
「わっ!」
「大丈夫か!?」
ミッツーが駆け寄ると、フィーネは起き上がって笑った。
「だいじょ……あ」
膝に小さな擦り傷。
ミッツーは苦笑しながら、両手をかざす。
「ヒール」
淡い光が傷を包み、すぐに治った。
フィーネは膝を見て、にっこり笑う。
「これも父さん仕込み?」
「いや、これは俺本人だ」
「あっ、そっか!」
二人は顔を見合わせて笑った。
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街に戻り、依頼を報告すると、受付嬢は驚いた。
「妖しの森の依頼を半日で?」
フィーネは胸を張る。
「剣も魔法も父さん仕込みだから!」
受付嬢はミッツーを見た。
「すごいお父さまですね」
「いや、俺は――」
「父さんです!」
食い気味に言われ、ミッツーは言い返せなかった。
受付嬢はくすりと笑い、報酬を渡した。
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その日の帰り道。
袋の中で銀貨が心地よく鳴っている。
フィーネは隣でご機嫌だった。
「今日の戦い、かっこよかった?」
「ああ。立派だった」
「父さんみたいになれてる?」
ミッツーは少し考え、穏やかに笑った。
「もう、俺よりずっと頼もしいかもしれないな」
「ほんと!?」
「ああ」
フィーネは嬉しそうに跳ねた。
耳も尻尾も、これ以上ないほど元気に揺れている。
小さな女の子だったフィーネは、いつの間にか剣も魔法も使いこなす立派な冒険者になっていた。
それでも、褒められて喜ぶ顔は、あの日と少しも変わらない。
ミッツーはそんな彼女を見つめ、目を細めた。
夕陽の中で、フィーネが振り返る。
満面の笑みで。
「父さん、次はどこ行く?」




