表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/17

第15羽「レティシアからの手紙」

挿絵(By みてみん)


宿の部屋に差し込む夕方の光は、橙色に染まり、窓辺のカーテンをやわらかく揺らしていた。


フィーネは両手で封筒を抱えたまま、部屋の真ん中でくるくると回っている。


「レティシアだよ、父さん! レティシアからだよ!」


長いうさぎ耳がぴんと立ち、灰色の髪がふわりと舞う。青い瞳は、宝石のように輝いていた。


「わかった、わかった。落ち着いて読もうな」


ベッド脇の椅子に腰かけたミッツーは、苦笑しながらその様子を見つめていた。


フィーネは興奮で頬を紅潮させ、封筒を胸にぎゅっと抱きしめる。


「だって……だって……! すごく久しぶりなんだもん!」


リュミエールで出会った、人間の少女レティシア・ノルン。


雑貨屋の看板娘で、優しくて明るくて、フィーネにとって初めてできた「普通の友達」の一人だった。


別れ際、彼女はこう言った。


「何か手がかりがあったら、必ず知らせるね」


その約束を、ちゃんと覚えていてくれたのだ。


フィーネは封筒の差出人の文字を何度もなぞる。


「……うれしい」


ぽつりと漏れたその声には、再会への期待と、友達を想うあたたかな気持ちが詰まっていた。


ミッツーは穏やかに微笑む。


「読んでみよう」


「うん!」


フィーネはベッドに飛び乗り、ミッツーの隣に座った。二人の肩が触れ合う。


慎重に封を切り、便箋を取り出す。


フィーネは一度深呼吸してから、声に出して読み始めた。



親愛なるフィーネへ。


元気に旅をしていますか?


私は、まだまだ先になると思っていたんだけど……フィーネの旅の話を思い出していたら、どうしても我慢できなくなってしまって、思い切って旅に出ました。



「えっ!」


フィーネの耳がぴんっと立つ。


「旅に出たの!?」


思わず立ち上がる。


「ほんとに!? レティシアが!?」


「そう書いてあるな」


ミッツーも目を細めた。


フィーネは嬉しさを抑えきれず、その場で飛び跳ねる。


「すごい! すごいよ! レティシア、ほんとに旅に出たんだ!」


青い瞳がきらきらと輝いている。


「あの子なら、きっとそうすると思ってた」


ミッツーの声もどこか嬉しそうだった。


フィーネは再び便箋に目を落とす。



旅は、思っていたよりずっと大変です。荷物は重いし、雨の日は服も濡れるし、知らない土地で道に迷うこともあります。


でも、それ以上に、毎日がわくわくしています。


フィーネが見てきた景色を、私も少しずつ見ることができて、とても幸せです。



「……」


フィーネの口元がゆっくりと綻ぶ。


「レティシア、楽しそう」


「お前の話が、あの子の背中を押したんだな」


フィーネは少し照れくさそうに笑った。


「そうだったら、嬉しいな」


便箋を持つ手に、自然と力がこもる。



今、私は王国西部のエルダール山脈の麓にある街にいます。


ここで、少し気になる言葉を耳にしました。


『ラビーシャ』


この地方の古い言葉で、『追放者たち』という意味だそうです。



その瞬間。


フィーネの笑顔が止まった。


ミッツーの表情も静かに変わる。


部屋の空気が、ほんの少しだけ張りつめた。


「……ラビーシャ」


フィーネが小さく呟く。


その響きは、自分の姓――ラビッシュによく似ていた。


ミッツーは腕を組み、低く言う。


「偶然……とは思えないな」


フィーネは無言で頷いた。


先ほどまでの浮き立つ気持ちが、胸の奥で静かな緊張へと変わっていく。


便箋の続きを読む指先が、少し震えていた。



山脈の奥深くには、誰も辿り着けない場所に、結界に守られた街があるという伝承も残っているそうです。


ただのおとぎ話かもしれません。


でも、フィーネの名字と似ていたので、どうしても気になってしまって。



フィーネの青い瞳が揺れる。


結界に守られた街。


追放者たち。


長い耳の王。


浮遊島で見つけた紋章。


吟遊詩人の歌。


これまでの断片が、頭の中で少しずつ結びついていく。


「父さん……」


その声には、期待と不安が入り混じっていた。


ミッツーは慎重に言葉を選ぶ。


「かなり有力な手がかりかもしれない」


「……うん」


フィーネは胸元のロケットペンダントを握りしめた。


ルナの写真が入った、大切な宝物。


まるで心を落ち着かせるように。



私はこれから南の海岸都市、セレーナ・テラスへ向かいます。


海を見るのは初めてなので、今からとても楽しみです。


また会えたら嬉しいです。


たくさん旅の話を聞かせてください。


そして、今度は私の旅の話も聞いてください。


レティシア・ノルン



読み終えたあと、しばらく二人は言葉を失っていた。


最初に口を開いたのはフィーネだった。


「……レティシア、ほんとに旅人になったんだね」


その声は、感動で少し震えていた。


「すごいなぁ……」


ミッツーは穏やかに頷く。


「お前との出会いが、あの子の人生を動かしたんだろうな」


フィーネは嬉しそうに笑う。


だが、その表情の奥には別の感情があった。


「でも……」


青い瞳が揺れる。


「ラビーシャって……」


「気になるな」


「うん」


静かな沈黙。


窓の外では、夕日がゆっくりと沈み始めていた。


フィーネは封筒を胸に抱きしめる。


「会いたいな、レティシア」


その言葉に込められていたのは、


友達への想いと、


自分の過去に近づくことへの覚悟。


ミッツーは立ち上がった。


「少し遠いが、まずはセレーナ・テラスへ向かうか」


フィーネの耳がぴんと立つ。


「ほんと!?」


「レティシアにも会いたいし、この話の続きを聞きたい」


フィーネの表情に、再び明るさが戻った。


「やった!」


だがその笑顔の奥には、確かな緊張も残っている。


もしかしたら、そこに自分の本当の家族へとつながる道があるかもしれない。


そして、その先に何が待っているのかは、まだわからない。


それでも。


会いたい人がいる。


知りたいことがある。


だから進む。


フィーネは手紙を大切に畳み、胸元のロケットペンダントにそっと触れた。


「ルナ、聞こえる?」


窓の外に瞬き始めた星を見上げる。


「レティシア、旅に出たんだって」


そして、ミッツーの方を振り向いた。


不安と期待を抱えながらも、その瞳には確かな光が宿っていた。


「父さん、海……見に行こう」


ミッツーは優しく微笑んだ。


「ああ。一緒に行こう」


新たな旅路が、また静かに動き出す。


友情の手紙が運んできたのは、再会の約束と、まだ見ぬ真実への扉だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ