表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/16

第16羽「意外な弱点⁈はじめての船旅」

挿絵(By みてみん)


朝日を浴びながら、フィーネは宿の窓を勢いよく開け放った。


「父さん! 今日からセレーナ・テラスに向けて出発だよ!」


爽やかな風が部屋に吹き込み、長いうさぎ耳がぴんと立つ。


ベッドの上では、ミッツーが布団に半分埋もれたまま片目を開けた。


「……おはよう。ずいぶん元気だな」


「だって、海だよ! レティシアだよ! 船だよ!」


「一つ多いな」


「全部大事!」


フィーネは胸元のロケットペンダントを握りしめた。


レティシアからの手紙。


『南の海岸都市、セレーナ・テラスへ向かいます』


その一文を読むたびに、胸が高鳴る。


友達との再会。


そして、新しい景色。


海。


今まで見たことのない、果てしなく広がる青。


考えただけで、じっとしていられなかった。



数日後。


二人は大きな川の港町に到着した。


ここから先は、川を下る船旅になる。


船着き場には大小さまざまな船が並び、水面には太陽の光がきらきらと反射していた。


「わあぁぁぁ!」


フィーネは目を輝かせて駆け寄る。


「すごい! ほんとに船だ!」


「……船だな」


「浮いてる!」


「まあ、船だからな」


「揺れてる!」


「そうだな」


フィーネは振り返り、両手を広げた。


「父さん! これに乗るんだよ! すごいよ!」


「そうだな……」


ミッツーの返事が、どことなく元気がない。


フィーネは首を傾げた。


「父さん?」


「いや……なんでもない」


そう言って微笑むが、口元が少し引きつっていた。



船が出航すると、フィーネのテンションは一気に最高潮に達した。


「風が気持ちいいー!」


船首に立ち、両手を広げる。


長い灰色の髪が風になびき、青い瞳は太陽のように輝いていた。


「父さん見て! 鳥!」


「おお……」


「魚が跳ねた!」


「そうか……」


「川って広い!」


「……ああ」


フィーネが振り向く。


ミッツーは甲板の隅で手すりにしがみつき、やや青ざめていた。


「父さん、顔色悪いよ?」


「……少し、揺れるな」


「えっ」


フィーネは目を丸くした。


「もしかして……船、苦手?」


ミッツーはしばらく沈黙し、観念したように言った。


「……酔う」


フィーネは数秒固まり、次の瞬間――


「えええええっ!?」


甲板中に響く大声だった。


近くの乗客たちが振り向く。


「父さん、船酔いするの!?」


「そんな大声で言わなくていい」


「だから今まで船に乗らなかったの!?」


「……そういうことだ」


フィーネは口元を押さえ、肩を震わせる。


「ぷっ……ふふっ……」


「笑うな」


「だ、だって……父さんにも苦手なものがあったんだ……!」


「あるさ」


フィーネはついに吹き出した。


「かわいい!」


「かわいくない」



その日の昼。


フィーネは釣り糸を垂らしていた。


「釣れるかなぁ」


ミッツーは甲板に横になっている。


「……俺の代わりに魚にもよろしく伝えておいてくれ」


「父さん、もう喋り方まで弱ってるよ」


すると、ぴくっと糸が動いた。


「きた!」


フィーネは力いっぱい引き上げる。


ばしゃっ!


銀色の魚が跳ね上がった。


「やったー!」


フィーネは大喜び。


ミッツーは薄目を開けた。


「……晩飯だな」


「父さんのために釣ったよ!」


「ありがとう……」


「元気出た?」


「少しだけ」



船は途中の小さな町に停泊した。


乗客たちは自由に休憩を取る。


フィーネは川辺を見て、目を輝かせた。


「父さん!」


「なんだ」


「泳いでくる!」


「待て」


だが、すでに靴を脱いでいる。


「いってきまーす!」


ざぶん!


大きな水しぶき。


「冷たーい! 気持ちいい!」


川面を元気いっぱいに泳ぐフィーネ。


ミッツーは額を押さえた。


「風邪ひくなよ」


「大丈夫ー!」


「耳の中に水が入るぞ」


「もう入ったー!」


「そうか……」


元気すぎる娘に、ミッツーは苦笑するしかなかった。



数日後。


川の流れは次第にゆるやかになり、遠くに潮の香りが漂い始めた。


「……父さん」


フィーネが静かに呟く。


「ん?」


「なんか、空気の匂いが違う」


ミッツーは頷いた。


「ああ。海が近い」


フィーネの耳がぴんと立つ。


「ほんとに……海だ」



やがて船が港に入ると、フィーネは思わず息を呑んだ。


「わあ……」


セレーナ・テラス。


白い石造りの建物が立ち並び、青い屋根が太陽を受けて輝いている。


港には無数の帆船。


市場には人々の声が溢れ、潮風と笑い声が街全体を包んでいた。


これまで訪れたどの街よりも大きく、華やかだった。


「すごい……!」


フィーネは目を輝かせながら、ミッツーの手を引く。


「父さん、早く!」


「そんなに引っ張るな」


船を降りると、フィーネはきょろきょろと辺りを見回した。


潮の香り。


カモメの鳴き声。


どこまでも広がる青い海。


すべてが新鮮だった。


二人は港から伸びる長い埠頭の先へと歩いていく。


そのとき――


潮風の向こうに、一人の少女の姿が見えた。


柔らかな茶色の長い髪。


見覚えのある後ろ姿。


フィーネの足が止まる。


青い瞳が大きく見開かれた。


胸がどくんと高鳴る。


「……っ!」


次の瞬間。


フィーネの表情が、太陽のように明るく弾けた。


「レティシアー!」


そう叫ぶと、フィーネは一目散に駆け出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ