表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/18

第14羽「私のお姉ちゃんになって!」

挿絵(By みてみん)


森の中に、鋭い剣閃が走った。


「はあっ!」


フィーネの細身の剣が、最後の魔物――シャドウウルフの体を正確に捉える。闇のような毛並みを持つ狼型の魔物は短く吠え、光の粒となって消えていった。


静寂が戻る。


フィーネは剣を鞘に収め、ふうっと息をついた。


「これで最後だね!」


少し離れた場所で見守っていたミッツーが、穏やかに頷く。


「ああ。依頼達成だ」


今回の依頼は、森に現れる魔物の討伐と周辺の安全確認。フィーネにとっては、もはやそれほど苦戦する依頼ではなかった。


ミッツーは娘のような少女の成長を頼もしく見つめた。


「今日も見事だったな」


「えへへ。父さん仕込みだから!」


フィーネは誇らしげに胸を張る。


ミッツーは苦笑した。


「自分で言うか、それ」


「だって本当だもん!」


青い瞳がきらきらと輝いている。


十年前、森で震えていた小さな女の子が、今では自分の剣で道を切り開いている。その姿を見るたびに、ミッツーの胸には温かなものが込み上げてきた。


「よし、帰るか」


「はーい!」


二人は木漏れ日の中を、街へ向かって歩き始めた。



しばらく進んだ頃。


「……うぅ……」


小さな泣き声が聞こえた。


フィーネの耳がぴくりと動く。


「父さん、聞こえた!」


「ああ」


二人は声のする方へ向かう。


そこには、大きな木の根元に座り込む小さな犬型獣人の女の子がいた。ふわふわの耳と尻尾。年の頃は六歳ほど。


涙でぐしゃぐしゃの顔で、しゃくりあげている。


フィーネはすぐにしゃがみ込み、目線を合わせた。


「どうしたの?」


少女はびくっとしたが、フィーネの優しい笑顔を見ると少し落ち着いた。


「……お、お母さんとはぐれちゃったの……」


「そっか」


フィーネはにこりと微笑む。


「大丈夫。私たちが一緒に街まで連れて行ってあげる」


少女は潤んだ瞳で見上げた。


「ほんと……?」


「うん!」


フィーネは右手を差し出す。


「私はフィーネ。こっちは父さん」


「キャリー……キャリー・シェルトランド」


「よろしくね、キャリーちゃん」


キャリーは小さな手で、フィーネの手をぎゅっと握った。



帰り道。


最初は不安そうだったキャリーも、フィーネと手を繋いで歩くうちに、すっかり笑顔になっていた。


「フィーネお姉ちゃんの耳、ながーい!」


「でしょ?」


「ふわふわ!」


「えへへ、触ってみる?」


「いいの!?」


キャリーの目が輝く。


ミッツーはその様子を見て、思わず笑ってしまった。


まるで十年前のフィーネを見ているようだった。


しばらくすると、キャリーが突然立ち止まった。


「ねえ、フィーネお姉ちゃん」


「ん?」


キャリーは真剣な顔で言った。


「私のお姉ちゃんになって!」


フィーネは目を丸くした。


そして次の瞬間、ぱっと顔を輝かせた。


「いいよ!」


「ほんと!?」


「うん! 今日からキャリーちゃんは、私のかわいい妹!」


キャリーは飛び跳ねて喜んだ。


「やったー!」


フィーネはくるっと振り返り、ミッツーに向かって満面の笑みを見せる。


「父さん! 私、妹ができた!」


ミッツーは肩を震わせて笑った。


「そうか。よかったな、お姉ちゃん」


「えへへ!」


フィーネは本当に嬉しそうだった。



ランディアの街へ戻ると、広場のあちこちで人々が慌ただしく動いていた。


その中で、一人の女性が必死に周囲を見回している。


「キャリー!」


「お母さん!」


キャリーはフィーネの手を離し、一目散に駆け出した。


母親は娘を強く抱きしめ、涙を流す。


「よかった……本当によかった……!」


キャリーも泣きながら母親にしがみついた。


やがて母親はフィーネたちに深々と頭を下げた。


「ありがとうございました。なんとお礼を言っていいか……」


「気にしないでください」


ミッツーが穏やかに答える。


キャリーの母親が、家へと招待してくれた。


しばらくお茶とお菓子を食べながら、旅の話をした。


キャリーは「すごい!」を連呼し、目を輝かせながら聞いていた。


夕方になり、宿へ戻る。


フィーネは笑顔で手を振った。


「キャリーちゃん、またね!」


キャリーは母親の腕の中から身を乗り出し、大きく手を振る。


「お姉ちゃん! 次は一緒にどこ行く!?」


フィーネの青い瞳がぱっと輝いた。


「うん! 今度はもっと遠くまで、一緒に行こうね!」


「約束!」


「約束!」


小さな指切りを交わし、二人は笑い合った。



宿へ戻る道すがら。


フィーネは上機嫌でスキップしていた。


「えへへ……妹かぁ」


「ずいぶん気に入られたな」


「だってすっごく可愛かったもん!」


フィーネはくるりと振り返り、胸を張る。


「父さん、私ってちゃんとお姉ちゃんできてたかな?」


「立派だったよ」


その言葉に、フィーネは嬉しそうに頬を染めた。



宿へ戻ると、主人が声をかけてきた。


「フィーネちゃん、手紙が届いてるよ」


「え?」


差し出された封筒を受け取った瞬間、フィーネの表情がぱっと明るくなる。


「父さん! 見て!」


封筒の差出人には、見覚えのある名前が書かれていた。


レティシア・ノルン


「レティシア!」


フィーネの長い耳がぴんと立つ。


青い瞳は期待に満ちて輝いていた。


「何だろう……!」


胸を高鳴らせながら、フィーネは封筒をぎゅっと抱きしめる。


ミッツーも静かに微笑んだ。


新しい出会いと、別れ際の約束。


そして、遠く離れた友人からの便り。


二人の旅は、また新たな声に導かれようとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ